見出し画像

佐野元春 & THE COYOTE GRAND ROCKESTRA ヤァ! 40年目の武道館 日本武道館 2021.03.13.

朝からまるで嵐のようだった天候も、始まる直前には落ち着いた。

  Now we're standing inside the rain tonight

このフレーズは、まさに今夜、ここに集まったぼくたちの思いそのままのような気がした。

デビュー40周年
オール・タイムヒットから最新の重要曲まで

記念ライヴにありがちな、こうした事前インフォメーションを素直に受け取ることは少ない。しかし、佐野元春だ。想像と期待はしていいだろう。そしてそれは、想像していたとおりであり、期待していた以上。3時間のベスト・アルバムのようなプログラムだった。

演奏された曲を振り返ると、モヤモヤした感情や怒りの思いからの "ぶち壊せ " 的な、いわゆる、ある種のロック的定番なエネルギーで盛りあがるのではなく、あくまでもポジティヴな思いがステージから投げかけられ、それをみんなで共有していくのだから素晴らしい。そんな場にはHappinessしか生れない。

自分の思いや想いをそこに重ねるには最高のセット・リストだったが、きっとこれは誰もが同じであったと思う。あらゆる年代のファン各々が、自分の思い入れをぶつけられる曲が演奏され、その曲はそれを深く受けとめてくれる。そしてそこから返ってきて欲しいと思っている答えが、その通りに届くのである。さらに、こんな自分だけのハイライトが、3時間の中で何度もやって来るのである。

元春の40年に、ぼくは自分の40年をぶつけた。返ってきた答えは " 幸せ " だった。最高のライヴ。そして最良の音楽の魂にふれた夜だった。

p.s.

遠くから、すーっと現れたその音。ぼくの耳がそれをキャッチした瞬間、アタマの中を40年前から今が一瞬にして通り過ぎる。そしてあのピアノのイントロが鳴った。

何度ぼくは『Truth '80~'84』を観たことだろう。そして何度「HEART BEAT」をぼくは観たことだろう。名演と呼ばれるものが映像化されているケースは、日本ではそう多くはないと思うが、R&Rナイト・ツアーで収録されたこの曲は間違いなくそれだ。

80年代から今に至るまで、この映像を観るたびに、音楽を聴くことでしかできない体験を、ぼくはする。それを言葉や文章にすることは難しい。しかし、身体と心は正直だ。2013年に『Film No Damage』を映画館で観た。スクリーンいっぱいに映る「HEART BEAT」。四方から音で包んでくれる「HEART BEAT」。モノクロとブルーの美しい映像に乗って、歌われ、語られる「HEART BEAT」。何かがぼくを肯定し、励ましてくれた。自分の意思ではどうにもできないほど、心が動かされ、身体が震えた。

言葉に出来ずとも、こうした体験を何度もしているから、そしてそれを知っているから、ぼくは音楽から離れられないのだ。

自分の思いや想いを重ねることができ、しかもその思いや想い通りに受けとめてくれる曲が、すぐ目の前で演奏されるなんて、何と幸せなことだろうか。流れた涙のもとは悲しみや切なさではなく、喜びなのだ。2021年3月13日 日本武道館。ここで披露された「HEART BEAT」を、ぼくは一生忘れない。<2021-04-07 記>

     **********

「緊急事態宣言」

無闇に恐れないで
無駄に油断しないで
いつものフローで行こう

記念ではなく
祝祭でもなく
唄う理由を知るための
まぎれもない証

今ここに迎えた40年ではあるが
今ここで舞台に立てることに感謝

直の場
仮想ではなく現実の場
リアルな場、本物の場

君に会えるのは
これで最後になるのだろうか

そうであっても
そうでなくても
明日は来る

ここにささやかな場を
仲間たちに捧げたい

守って、祈って
準備ができたら知らせてほしい
門は開けっぱなしにしておくよ

一緒に過ごそう

2021.2
佐野元春

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?