新谷祥子マリンバ弾き歌い one of the marmba roads 六本木STB139 2012.09.26.
新谷祥子と仲井戸麗市の共演はもう何度目になるのだろう?
頻繁ではないにせよ、既にそれなりの回数を重ねてきているので、お互いのステージ上での呼吸と言うものもわかっているだろうし、いい意味で余裕も見せられるのではないかと思うのだが、この二人は毎回が初めての共演のようなセッションとなる。ただし、あくまでも初めてのような…である。もちろん初めてではないし、本気のセッションを繰り広げてきた二人なわけで、目の前で観て聴けるのは、それはそれはとんでもない演奏と歌である。
ライヴは二部構成。第一部は山本祐介(vVibraphone)、第二部は仲井戸麗市がゲストで出演し、二部の終盤から三人でのセッションとなるという構成だった。
ライヴのたびに新曲が発表されるのは相変わらずで、まずはオープニングを飾った(タイトルは「美しい人へ」だったかな?)曲。マリンバ弾き語りの王道と言ったキレイなメロディを持つ、まさに僕が好きな新谷祥子…という曲だった。そして圧巻だったのが第二部のラストに演奏されたナンバーだ。
タイトルは「クラクションが鳴りやまない」というようだが、新谷さん自身が今回の三人用にカッコイイ曲を描いたと言っていた通りの曲だった。所謂、一般的な楽器でのバンド編成ではないトリオだったのだが、出していた音の力強さはどんなハードロックにも負けないものだっただろう。彼女の曲の中では異色かもしれないが、これは代表曲になるような気がする。そしてこうしたまったくタイプの違う曲を、同時に違和感なく聴かせてしまうのも素晴らしいと思った。
さて、彼女のライヴはオリジナル以外にカヴァーも楽しみのひとつなのだが、今回もいつものように直球ど真ん中の曲を取り上げてくれた。それは第一部で演奏された荒井由実の「あの日に帰りたい」。マリンバとヴィブラフォンでのアレンジがバッチリだった。ただでさえ…の名曲に新たな魅力を与えていたと思う。
即興で演奏されたという山本さんのオリジナル「ゴールデン・モンキー」も聴きもの。手拍子から踏み鳴らす足までも含め、全身で音楽する二人を観ているだけでも楽しめる。派手さはなかったけれど、見応え聴きごたえがある第一部だった。
第二部は太鼓の叩き語り(?)でスタート。前回ここで観た林英哲さんとの共演を思い出した。
そして、いよいよ仲井戸麗市との共演が始まる。まずは「November Travail」を軽く…しかしバッチリと決めた。その後の二人の共演は本当に本当に本当に素晴らしいものだった。意外だったのはチャボと共演した新谷さんのオリジナルを演奏すればいいと思うのに、わざわざチャボの曲を取り上げていたところ。でも、これは新谷さんらしいとも思う。
凄いと思ったのが「ホームタウン」だ。この曲はチャボのソロ弾き語りで聴く機会が多いのだけれど、そこでは良くも悪くも自由な演奏と歌、構成になるわけだが、新谷さんとのセッションでは、そういうわけにはいかない。
しっかりと決められた中でのチャボのギターと歌は、最近のチャボのソロでは決して聴くことができないものだ。しかも、チャボがゲストという立場であるからして、曲への集中力も違う。これはどちらが良い悪いというのではなく、その質が違うということだ。結果、「ホームタウン」の楽曲本来の姿かたちを聴くことができたように思う。それこそ発表された1990年のツアー時の匂いを感じたような気になった。こういうチャボを引き出す新谷祥子という存在は実に貴重だと思った次第だ。
さらに輪をかけて凄いと思ったのが三人で演奏された「BLUE MOON」だ。これまでの二人の共演でもかかさず演奏されている(はずだ)が、今回の三人ヴァージョンのあまりにもの美しさに、涙が出そうになった。雰囲気に反して力強さを感じる演奏が多かった曲なのに…。
アンコールのラストは「風よはこべ」。この曲は個人的にとんでもない名曲だと思っているし、事実そうなのだが、この日は映像が浮かぶ演奏になっていたように思う。三人用に新たにアレンジし直されていたからか、聴いている最中は圧倒されながらもアタマにはどこか無国籍な景色が浮かんでいた。
アンコールで出てきた新谷さんはカリンバで即興曲を歌った。優しくわかりやすく暖かくポジティブなメッセージに打たれた。人間なんて…そうだよな。明日は明日の風に…そうだよな。また新たな気持ちでがんばれるよ。
来てよかった。観て、聴いてよかった。こんな風に思えるライヴは多くはないけれど、この日は間違いなくそんなひとつ。新谷さん、ありがとう。
P.S.
二人の共演の定番でもあるストーンズの「アウト・オブ・タイム」。もちろんこの日も演奏されたのだが、実はその前に新谷さんはチャボの創った日本語詞を朗読した。それを聴いて思ったのは、単なる適当に曲に乗っけられた歌詞なんかではなく、実に感動的なエッセイになっていたことだ。わざわざ「アウト・オブ・タイム」に当てはめて歌わなくても、それこそ『だんだんわかった』や『1枚のレコードから』に収録されていてもおかしくない。
歌われる歌詞。
聴こえる歌詞。
読まれる歌詞。
刻まれる歌詞。
思い出しただけでも泣けてくる。ハイライトだった。<2012-09-29 記>
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