ひとときのうた 新谷祥子マリンバシアター2016 キッド アイラック アート ホール 2016.12.01.
キッド アイラック アート ホールでのマリンバ・シアターは4回目。しかし、残念ながら会場が年末で閉館ということで、ここでは最後の開催となった。もちろん新谷さん本人はこのシリーズを続けていくことを宣言していたが、それでもラストらしく、前半は過去3回のプログラムを振り返る構成で進んだ。
1回目はゲストに山本祐介さん(vibraphone)を迎えての寺山修司没後30年トリビュート。2回目は3rdアルバム発売記念ライヴ。3回目はオカリナの君塚仁子さんをゲストに迎えた鳥を歌う、鳥を弾くと題されたライヴ。
これらの様子を語りながら、そこに纏わる曲を演奏していくのだが、そのときに演ったのとは別の曲を披露してくれたのが実に新谷さんらしい。中でも、歌詞に鳥が出てくることで歌われた「雪が降る」は、演奏と歌はもちろん、照明の演出も含めて印象に残るハイライト・シーンだった。
さて、4回目のこの日。新谷さんのオリジナル曲を聴きたいという僕自身の希望は叶えられたのだが、やはり、というか、またしても、というかの新谷祥子だった。これまでのライヴ同様、ほとんどが新曲であった。発表されている3枚のアルバムには、もちろんライヴの核となりうる曲もあるし、この日に限っても、テーマに似合うというか、相応しい曲だってあったはずだ。
それでも、彼女は新曲を演るのだ。
演奏よりも歌うことが上になり、言葉をつけることが先にくるというニュアンスのMCがあったように今の音楽的キャパシティで最大限に占められ優先されているのが " 歌 " なのだろう。もしかしたら、マレットでマリンバを叩けば、その一音ごとにひとつの言葉が生まれているといった状態なのかもしれない。そう思ってしまうほど、ステージ上の彼女からは歌うことの喜びと楽しさが伝わってくる。歌われる唄、奏でられる音だけでなく、こうした本来なら見えない感情を掴めることが、新谷祥子のライヴの魅力だ。だから感動するのだ。もはや彼女の世界は演奏と歌だけで表現されるものではない。ステージに立つその存在そのものがひとつの表現となっていたと思う。表現者・新谷祥子を強く感じた80分だった。
タイトルの ひとときのうた は、マリンバ弾き歌いを意味する 人と木 であり、日常を離れることの 非と時 でもあるという。まさにその通り。そこには人と木の響きあいがあったのみ。キッド アイラック アート ホールに非と呼べる時が生まれていた。<2016-12-02 記>
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