Journey / 新谷祥子 -2022-
新谷祥子の新作が届いた。『私ではなくて 木が...』以来、3年ぶり。2020年と2022年、コロナ禍において行われた、仲井戸麗市との無観客配信ライヴから15曲がセレクトされたライヴ盤だ。
初のライヴ盤制作には、彼女自身、逡巡があったようだ。記録した曲や音を作品として発表することに対して、自身が思い描くカタチはあるだろう。
" わたしの作品はこうあるべき "
" アルバムとはかくあるべき "
こうした感覚。まして、その場限りのライヴという性質から、作品化を迷うのはミュージシャンなら当然だと思う。ただ、制作の過程で、マイナスに感じられていた要素は、自分をポジティヴでプラスな方向に導いてくれるそれに変わったようだ。
その変化の理由を言葉として受け取るよりも、届けられた音を聴いて判断したいと思っていたし、聴けば理解できるだろうとも思っていた。彼女自身が " 残したい、作りたい、伝えたい " と心から思え、" 誇りであろう " とまで僕たちに言ってくれていた作品なのだから。はたして…。
彼女が言う " 渾身 " の15曲。ここには無敵の新谷祥子がいる。
ライヴなので、これまでのスタジオ作品と音は異なるが、それをいちばん感じられるのは歌…ヴォーカルだ。マリンバの弾き語りという言葉から単純に受ける印象。そして一聴すると線が細く、人によっては弱々く聴こえるかもしれないヴォーカル・スタイル。しかし、ファンならわかっているだろう、彼女の歌にある力強さを。
ここで言う力強さは、圧倒される " POWER " を指すのではない。歌、曲、楽器、演奏への思いや想いなどの、とてつもないチカラである。
ライヴから感じられるこうした彼女のチカラが、盤面にハッキリと刻み込まれている。たとえばアルバム冒頭の「Green Field」。聴いた人だけの四季それぞれの緑が浮かぶ、この優しく美しい曲からも、既に強さが伝わる。そのおかげでか、一層、緑が映えて見えた。全曲がこの調子なので、曲から浮かぶ映像も、僕の中にあったものと共に、新しい景色が広がっていく。思いや想いのチカラを音として感じられるのは、本当に素敵なことだ。
そして仲井戸麗市との5曲。マリンバ、打楽器、ギター、そして歌と言葉が塊となり、新谷祥子としての音が鳴っている。「アトムが飛んだ空」のスタジオ・テイクに顕著であるが、新谷祥子との共演では、お馴染みのスタイルとは違うプレイをみせるチャボ。強い記名性があり、どんな場でも個性が消えないチャボのギターが、見事に新谷祥子の音楽になっているのが素晴らしいのである。ただ、ライヴではいつもの仲井戸節が出るので、ライヴ盤ならではの演奏をこうして楽しめるのは嬉しい。
アルバムは「長い旅」と「未来」で終わる。これまでの長い旅があり、これからの長い旅が未来となる。マリンバ弾き語りを始めた当初から追いかけている身としては、これ以上無い感動的な2曲である。アルバムのタイトルは『Journey』。これからも一緒に僕も旅を続けたい。<2022-05-13 記>
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