泉谷しげる with LOSER 25周年LIVE「吠えるバラッド」 Zepp DiverCty Tokyo 2013.04.28.
思い入れがあるバンドのこうしたライヴは色々な予想や期待を事前にして行くが、1曲目が始まった途端、そんなものは一瞬で吹き飛ぶ。
オリジナルLOSERの25周年ライヴ、しかもフェスなどではなくフルサイズ。
ということで、そりゃぁ前日までは興奮していたけれど、当日は努めて冷静にしていようと思って臨んだ…が、何と会場に入ると客入れBGMが『IZUMIYA SELF-COVERS』なのである。このバンドのこんなライヴの開演前に本人たちの曲をガンガン流しているのである。再発のプロモーションもあっただろう。でも、これで盛り上がらないわけはないでしょう?
案の定、客電が落とされ、ステージを覆う幕に泉谷のシルエットが浮かび、「長い友との始まりに」が歌いだされた瞬間、アタマは真っ白になった。
音がよい。僕の席の位置がその理由かもしれないけれど、5人の音の分離が素晴らしかった。こんなにいい音のLOSERは初めてかもしれない。おかげで、特に左右に分かれたチャボと下山のギターがハッキリと聴きとれ、その音とフレーズの違いや絡みを思い切り堪能させてもらった。
仲井戸麗市と下山淳。個人的にはこの二人が同じバンドでギターを弾いているのは奇跡だ。何度か書いてきたが、世界でちばん好きなギタリストと二番目に好きなギタリストが、同じバンドでギターを弾いているのである。奇跡というのは大袈裟ではない。
曲によっては間奏のギター・ソロを二人で分け合うというアレンジがまた最高で、チャボの後に下山が、そして下山の後にチャボがソロを弾くというのは、視覚的にも最高に絵になる。
そうそう、下山の音が当時のまんまだった(ように聴こえた)のには感動した。あの輪郭がハッキリしない独特のサウンド。そこに輪郭どころか体積までハッキリしているチャボのギターが絡んでぶつかる。まぎれもないLOSERサウンドが再現され、2013年の音として鳴っていた。
ポンタのドラムは圧巻。当時から聴かせるだけでなく見せるドラマーだと思っていたが、スティックさばきというよりも、単にシンバルを引っ叩くアクションや、スネアに振り下ろす左手の何というカッコよさ! 最高だった。
吉田建はバンマス的クールさの佇まいで通す。マイペースで引っ掻き回す泉谷のペースにも冷静で対処。「火の鳥」のイントロでバンドに出していたカウントの仕草がカッコよかった。もちろんベースはズンズン。「国旗はためく下に」のイントロは凄かったなぁ。
泉谷の大将は…まぁ、LOSERの音について来れなかった瞬間が何度もあった。限られた時間であっても、これだけのメンバーが真剣に取り組めば、この夜のような音が出てくるのは当たり前だろう。ただ、それに応えるヴォーカルが同じでは到底追いつけないと思うのだ。少なくとも倍の時間、倍の想いが、意識だけでなく体力的にも必要だっただろう。その意味では、泉谷のミスがなければ満点のライヴだった。
以上が今の時点で振り返る冷静な感想。ただし、あらためて個人的な印象を言えば、マイナスに感じた点を含めても、最高のライヴだった。
オープニングでステージに並ぶ5人を確認した瞬間。最初に飛び込んで来たのは下山淳が抱えるギターである。ブルーのファイヤーバード。これだけで感激でしたよ、私は…。このギターであのイントロとあのバッキングをプレイしているんだぜ? もしチャボがグレコのチャボ・モデルだったら…は、まぁいい。
ライヴは休憩が入る二部構成。大まかにまとめると一部は『吠えるバラッド』で、二部は『IZUMIYA SELF-COVERS』というメニュー。そこに当時のライヴ・レパートリーやレア曲が挟まれた。事前に勝手にリクエストした『90'sバラッド』からの2曲、「リアル1/2」と「ハードレイン」が演奏されたのは驚いた。特に「リアル1/2」のチャボがカッコよかったよ。チャボのあんなギターはなかなか聴けないからね。
泉谷以外ではチャボの立ち位置にのみマイクがセットされていた。映像作品にもなっている『HOWLING LIVE』でもそうだったが、あの時は結局『果てしなき欲望』のみコーラスをつけていたと記憶している。でも、この日は違った。「果てしなき欲望」の他に「眠れない夜」と「行きずりのブルース」の3曲で、チャボはコーラスをつけていた。この中での「行きずりのブルース」については後述する。
泉谷クラシックスが怒涛のごとくぶちかまされる二部はもう…。演奏される曲が予想の範囲であっても圧倒される。「地下室のヒーロー」のイントロには感電したもんなぁ。セット・リストは泉谷のブログに載っているが、結局29曲が演奏されたようだ。凄いわ。あらためて凄いメニューだ。
オリジナルLOSERは、その思い入れがありすぎるバンドなので、たとえ冒頭に書いたように予想や期待をしていても、当日はまったく違う感情が生まれたりする。あらかじめポイントと思っていたところでは意外とスルーとなり、逆に思いがけないところで自分の感情が揺さぶられたりする。実は、この日は " 泣く " とは思っていなかったのだけれど、一ヶ所だけ目頭が熱くなった瞬間があった。それは「国旗はためく下に」の下山淳のギター・ソロ。理由はまったくわからないが泣きそうになった。この感情はいつか言葉や感情にしてみたい。
終演後、泉谷は " また会おうぜ " と言った。どういう意味かはわからないが、僕は勝手にこう捉えさせてもらった。泉谷が言った相手はLOSERの4人である。そして間接的にLOSERから客席に向かって言った言葉でもある。また会いたい。
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★追伸
一部の中盤にアコースティック・セットがあったが、そのチェンジ中に泉谷が歌ったのが「美人は頭脳から生まれる」だった。『吠えるバラッド』のCDのみに収録された曲だ。この曲でピアノを弾いているのは忌野清志郎である。
そのアコースティック・セットで演奏された「行きずりのブルース」。当時も演奏されていたのでレアではなかったが、チャボがコーラスをつけていたことには、耳じゃなくココロが反応した。『IZUMIYA SELF-COVERS』のこの曲でコーラスをしていたのは、忌野清志郎だったからである。チャボはそこを歌ったのである。
ライヴ前に泉谷が自身のブログで、" アルバムに入ってても、今までライブで演ったコトない楽曲を歌ってもみたい " と書いていた。そんな曲として、『吠えるバラッド』から「あらゆる場面で」が取り上げられた。この曲でピアノを弾きコーラスをしているのは忌野清志郎である。
この3曲を取り上げた理由は、つまり、そういうことだったのだろう。<2013-04-29 記>
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