新谷祥子×金子飛鳥 デュエット ~マリンバとヴァイオリン、声と声。打ち弾き歌う~ 南青山MANDALA 2012.06.14.
マリンバとヴァイオリンのデュエットによるライヴ。たったこれだけの情報でアタマに浮かぶのは何だろう。音やジャンルを勝手に、しかも単純で安易に想像すれば、例えばロックよりもクラシック、激しいよりも静か、そして興奮よりも癒し…だったりといったところかと思う。ただ、ここに新谷祥子と金子飛鳥という固有名詞を加えると…。おそらく二人を知る人ならば、その人の数だけ音のイメージが浮かぶことだろう。
僕の新谷さんに対してのことは常々ここにも書いているのであらためてふれない。個人的には約半年ぶりのライヴなので、とにかく楽しみにしていた。
もうひとりの金子飛鳥さん。音楽を熱心に聴き始め、レコードのクレジットを隅からすみまで目を通すようになってから、それこそ何度も目にしていた名前の一人だ。彼女が参加したレコーディング・セッションをリスト化したら、おそらくとんでもないものになるだろうと想像する。音楽ファンならば、気にしていなくとも彼女の演奏を耳にすることは多かったはずだ。それどころか彼女のヴァイオリンを耳にしたことがないという人はいないかも…。こう断言しても、もしかしたら大丈夫かもしれない。
個人的に近いところの参加作品では、仲井戸麗市の 『DADA』『PRESENT#1』 『PRESENT#2』 が挙がる。特に 『DADA』 収録の「さまざまな自由」のヴァイオリン・ソロは当時から大好きだった。僕があらためてここで言うまでもない、素晴らしいミュージシャンである。
そんな二人のデュエットなのだから、ライヴが発表されたときから本当に楽しみにしていた。うたモノが中心になるのか、インストが多いのかなど、どんな音が出てくるのかが掴めなかったが、もちろんそれも楽しみのひとつ。ちなみに飛鳥さんが自身の日記で今回のライヴについて記している。
●新谷祥子さんとのduo--世界観
彼女が言うところのめくるめく世界のライヴは、土台となる曲をめぐって二人の即興的な演奏が飛び交うものが中心であった。MCでは " 曲の解体 " という表現を使っていたが、決して難解すぎるものではない。それどころか聴きやすい。ただし、マリンバとヴァイオリンが調和してひとつの塊として耳に届くのではなく、お互いが対話しているようなライヴだと感じた。音をぶつけ合うのではなく、あくまでも対決的ではなく対話だったと思う。
二人は視覚的にも素敵なミュージシャンだ。弾く姿が実に決まっていてカッコイイ。新谷さんは言わずもがなだが、間近で観るヴァイオリンを弾く飛鳥さんがまた…。やっぱりミュージシャンはカッコよくなければいけないということを再認識した。
そんな二人の楽器の対話を聴き、観る。目の前で聴いて観た演奏が終わった直後は、アタマの中に具体的な言葉がなかなか浮かばない。アタマに浮かぶのは良かった…とか、感動した…という想い以外のものだと思うが、それを言葉で表せない。うまく言えないけれど、音楽を感じた…というニュアンスが自分の印象に近いかも。聴いた、観た、感じた。この3つの言葉が、僕のこの日のライヴの感想かもしれない。
緊張感溢れる演奏だったはずなのに、そんな雰囲気が二人のあいだに感じられなかったのも凄いと思ったが、その合間に挟まれる二人のヴォーカルが、また素敵だった。決して歌モノが中心じゃなかったけれど、だからこそ二人の声が印象に残ったのかも。飛鳥さんの歌声は初めて聴いたのだが、美しくて感動した。
更に付け加えることがあるとしたら、演奏の雰囲気とはまったく逆の女子トーク的なMCかな(笑)。グダグダになって肝心の曲についての話を飛ばすこともあったし。だって本編最後の曲…という説明さえ飛ばしたんだもん(笑)。でも、このMCがまた良いアクセントになっていたなぁ。
いくつかカヴァーが演奏されたが、まず驚いたのがカルメン・マキ&OZの「空へ」。僕も大好きな曲だが、あのハードさはないし、イントロなどの聴きなれたフレーズも無い。完全に二人の解釈で演奏されたこの曲はとても新鮮だった。それにしてもマリンバとヴァイオリンで「空へ」とは!
そして本編ラストの「Antinomy」。とても美しい曲でココロに残ったのだが、これは坂本龍一と大貫妙子の共作で、CDと映像それぞれの作品として発表されているらしい。そのオリジナルはヴォーカルもののようだが、この日はインストとして演奏された。坂本龍一本人に譜面をお願いしたそうで、その際に手書きのものが送られてきたそうだ。
良い音楽はいいね。何度か書いたことがあるけれど、素晴らしい音楽は素晴らしいという、そんな素晴らしいことを思った。またいつか二人のデュエットを観たい。<2012-06-15 記>