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シンガーソング マリンバ / 新谷祥子 -2010-

音楽に詳しくない人と話していても、例えば " ピアノの弾き語り " や " ギターの弾き語り " と言えば、その人自身、イメージが浮かんだり想像できたりはするだろう…というか、できると思う。でも " マリンバの弾き語り " だったらどうか? 音楽にそれなりに詳しい人であっても、それを聴いたことが無ければ、想像すら難しいかもしれない。

実は、実際に僕は最近それを体験したばかりなのだ。久しぶりに会った友達との会話。そいつは昔、僕と一緒にRCサクセションの久保講堂に行ったヤツ、T君だ。音楽には普通に詳しい。

  最近はどんなライヴに行ってるの?
  新谷祥子っていうマリンバ奏者
  マリンバ?
  そう マリンバの弾き語りなんだよ
  ?

まったく想像がつかなかったらしい。

新谷祥子、初のマリンバ弾き語りによるアルバムが発表された。

今年の5月のライヴで、彼女から " ミニ・アルバムを出します " という発言があったのだが、それが制作過程で変更になった(嬉しい変更だった!)のだろう、最終的に10曲収録のフル・アルバム(だよね)になったものが、この 『シンガーソング マリンバ』 だ。

発表前に見たインフォメーションに記載された曲のタイトルには、ライヴで披露されていた曲がいくつか並んでいた。それだけで期待が膨らんでいたが、そうは言っても僕自身はライヴしか知らないわけで、いったいどんな音になって届けられるのかが、やはり想像できなかった。

はたして、届けられた作品は期待通りであり、期待以上でもあるものだった。

CDプレーヤーにセットし、最初に出てきた音を聴いた瞬間、" あぁ、これだ、これが新谷さんだ " と安心する。マリンバの音を言葉で説明するのはとても難しいのだが、この " 安心する " というのは、僕自身には適切な表現のような気がしている。

チャボとの共演を含め、これまで何度か彼女のソロ・ライヴを体験しているが、ライヴでは気付かなかったテイストを、このアルバムには感じた。それはフレンチ・ポップス。オープニングの「小さき者へ」や「静かな少女」などにそんな雰囲気を感じ、マリンバが奏でるフレーズにフランシス・レイを思い出したりもした。ただし、全体がそれ風だと言うことでは、まったくない。新谷祥子のオリジナルな世界以外の、何ものでもない。

マリンバによるリフ(でいいのかな?)が印象的な「美しいままで」と「黄昏ピーコック」。特にスピード感が溢れる中に新谷メロディが活きる「黄昏ピーコック」はかっこいい。

イントロが実にかっこいい「ユニコーン」。ヴォーカルというよりもヴォイスという彼女のスタイルがハマっている「クレッセント」。中盤に並ぶこの渋い2曲の強烈な存在感が、アルバムを引き締めている。

決して大袈裟なアレンジでは無いのに、スケールの大きさが感じられる「土」。音とフレーズの組み合わせが絶妙なのだろう。聴いていると映像が浮かぶ、映画のサントラ的な大作だと思う。

そして新谷祥子の代表曲になるだろう「冬の線路」。何度かライヴで聴いているが、とても気に入っている曲だ。切ない歌詞とメロディ。マリンバの美しいフレーズ。名曲という言葉しかあり得ない。

こんな表現はとても安易なのだが、今の季節にバッチリなアルバムだと思う。これから寒い冬へ向かうという時期に、マリンバは実に合うのではないか。くり返し安易な表現を使うが、凍えたココロをマリンバは暖めてくれるように思う。更に言えば、このアルバムは聴けば聴くほど、どんどん印象が変わっていくような気がする。いや、変わっていくというよりも、聴くほどに色々な姿を見せてくれるというほうが近いかも。

11月のレコ発ライヴでは、これらの曲を、また新たな気持ちで観て聴くことができるだろう。それは嬉しいことだし、楽しみなことだし、幸せなことだ。新谷さん、素敵な作品をありがとう。

T君に今度会ったときには、もちろんこのアルバムを教えてあげるつもりだ。<2010-10-21 記>

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