おすすめ「OVAるろうに剣心追憶編」

いつかは書きたいことだったので、この場を書いて、アニメドラマを一作紹介したい。

るろうに剣心という漫画をみなさんは知っているだろうか。時代は明治10年。幕末の伝説の人斬りだった主人公の緋村剣心が不殺の理想を掲げ、襲い来る敵から身の回りの人々や国を守っていく話である。

敵キャラがとにかく立っている。お庭番衆、元新選組、廃仏毀釈で寺を追われた僧侶などなど背景はさまざま。火を噴き出したり、催眠術を使ったり、飛んだり、回ったり、めちゃくちゃでかかったり、メチャ早かったり、ほうき頭であったり攻撃方法もさまざまである。

今回紹介したいのは、るろうに剣心の番外編とも言える追憶編という4話計2時間のOVAである。追憶編はなぜ剣心は人斬りをやめ不殺を誓ったのか。頬の十字傷にはどんな意味があるのかをテーマに、幕末時代の剣心(当時は抜刀斎)の人斬り時代を描いている。

新しい時代を作るため人斬りを行う剣心とその人斬りに婚約者を殺され復讐を誓う巴。巴は剣心と接触することに成功するが、剣心は誰もが安心して暮らせるような新時代をつくるため人斬りを行うことにおおきな戸惑いを感じ、巴はそんな剣心の心の弱さに触れてしまう。この二人の運命と心の変遷が幕末の動乱を舞台に美しく描かれている。

この作品の見所の一つは、花や風景など使って、美しい日本の四季を意識的に織り込んでいるところだ。その一つ一つ味わっていただければと思う。ただし、人斬りのシーンは若干今だったら年齢制限が入るのではと思うようなグロテスクな部分もあるので嫌いな人は注意である。

好きなセリフも多い、あげさせていただくと「名など無用」「病んでいる」「よくあることだ」「行くか大津へ」「ごめんなさい。あなた」など。これだけだと、なんのことかわからないだろうがぜひ見て確認して欲しい。「名など無用」は通常格好いいセリフとして使われていると思われるが、本作では剣心の心の葛藤から出る悲鳴のような言葉になっている。

特に個人的に心に残るのが終盤で剣心を狙う暗殺集団の長が巴に語りかけるセリフである。

わかるか。我らはみな業深き者の集まりなのだ。その宿業の中で生き、そして死んでいく。

業とはデジタル大辞泉をひくと

《〈梵〉karmanの訳》
1 仏語。人間の身・口・意によって行われる善悪の行為。
2 前世の善悪の行為によって現世で受ける報い。「業が深い」「業をさらす」「業を滅する」
3 理性によって制御できない心の働き。

とある。暗殺集団の長はこのセリフの前に徳川の世をどんなことをしても守りぬくことが我らの業といっていた。今の世の中を守ること、新しい世の中を作ること、愛すること、憎むこと、忠実であること、騙すこと、これらは全て人間の業であり、そしてその業は一人では抱えきれないような葛藤を生じさせる。そういった葛藤を抱えながら私たちは生きていると本作は言っている。この問いは本作のテーマになっていると思う。

なお、英語編では長の言葉は次のように訳されている。

Can you understand that ? Every man is full of sin. We live and die in sin

直訳すると 「わかるか。我らはみな罪深き者の集まりなのだ。その罪の中で生き、そして死んでいく。」となる。業は人間が生まれながらに背負ったもの、罪は神から生まれながらに与えられたものという宗教観の違いはあるものの、ともにいやがおうでも人間が背負っていく軛であり、両者の宗教観をうまく融合した翻訳だと思う。

自らに業があり、その業が自らを苦しめる。剣心や巴ほどの苦しみはないものの自分自身を振り返ってみればその通りだと教えられた。しかし、見終えたあとは強い思いを持って生きていたいと思えた。みなさまにもオススメの作品である。

#おすすめ #ことばについて #るろうに剣心追憶編