「はだける怪物」を食わず嫌いしている人に読んでもらいたい
どうも、最近はnoteの更新ペースを上げていきたいなあと思っています。文章って書かないと書き方忘れちゃうし鈍る気がするし。とはいえ、同じジャンルの話はそうコンスタントにできないので、スピッツとユニゾンとBL、と大方3つくらいのテーマで回していくことになりそうです。
というわけで、今日はBLの話です。苦手な方は全然読まなくていいです。商業BL買い漁り大学生こと私ですが、最近もそこそこのペースで読んでいます。電子書籍で大量の蔵書を譲り受けたため、気になるものから優先して読んでいる日々。読んだら毎回感想ツイートもしてるので、よろしければこちらから→[#piyo_fav_comics]
そんな私だが、シリーズものは追うのが大変そう、という理由で初期は1巻完結のものばかり読んでいた。しかし、そうは言ってもやはり世間で評価されているもの、話題になっているものは気になる性分なのだ。書店で平積みされていたらよく目に入るし、ランキング上位にあれば読んでみようという気にもなる。そして、そういう作品は大抵長く支持されているシリーズものであることが多い。かくして私は、金欠ながらもいくつかのシリーズものにハマり、口座残高を順調に減らしている。
今回はそんなシリーズものの中でも、「はだける怪物/おげれつたなか」シリーズについて語りたい。リリース順で1番早いのは「錆びた夜でも恋は囁く」であるが、ここでは便宜上「はだける怪物シリーズ」と呼ぶこととする。
このシリーズは、4冊のコミックスから成ると理解している。刊行順に並べると以下のようになる。
①錆びた夜でも恋は囁く
②恋愛ルビの正しいふりかた
③はだける怪物 上
④はだける怪物 下
厳密に言うと、これらは必ずしも続き物というわけではなく、登場人物がリンクしているような感じだ。4冊すべてに登場するのは「林田=かんちゃん」である。彼の過去や現在が物語の中心となっている。
あらすじの中の“DV”という文字で敬遠している人も多いのではないかと思われるが、暴力表現が含まれるのは①くらいである。他3冊はちょっとあるかないか(しかも回想)ってレベル。だから、暴力表現が見れないっていう人も②③④を読んでみたらいいんじゃないですかね、と、私は、思うのですよ、、、
ちなみに、エロがエッッッロイのは大きな特徴かも。まあ作者の他の作品も割とそうかもしれないけど、なんというか、質感がリアルというか、水とか汁っぽいというか……? まあ見れば分かる。
以下ではそれぞれの作品の感想を並べておく。ネタバレにはかなり配慮しているが、私自身がネタバレOK派なのもあり、もしかするとNG派にとってはアウトなラインまで入ってしまっているかもしれない。その場合は申し訳ないが、薄目で見るなどして頂きたい。
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①【錆びた夜でも恋は囁く】
2014年刊行。シリーズ第一作。
かんちゃんという高校からの彼氏に暴力を振るわれている弓が、中学時代の同級生・真山と再会することから物語が始まる。かんちゃん(林田)から弓への暴力の描写、それによる流血がそこそこ含まれているので、苦手な人には無理かも。
それでも、かんちゃんがただの悪役としての暴力彼氏で終わらないところが良い。ブラック企業勤務で心身を病んでいく中で、自分のため、弓のために苦しみながら決断を下す様は格好いい。DVは決して許されるべきものではないし、思い出として美化されることはないし、事実、後々出てくるが、弓の体には暴力の痕が残っている。それでもなお、かんちゃんがただの悪い奴ではない、ということだけは伝えておきたい。
ちなみに私が1番好きなセリフは「てかなんで文系のくせにムチムチなの」。私も文系だから分かるんだが、これは文系への偏見に満ち満ちている発言だ。しかも発言者に悪意がない。どういう論理だよ、と思うが…… ぜひ作品中のどこに出てくるのか探してみて欲しい。
②【恋愛ルビの正しいふりかた】
2014年刊行。表題作「恋愛ルビの正しいふりかた」と「ほどける怪物」が収録されている。
〈恋愛ルビの正しいふりかた〉
前作の弓・かんちゃんと高校の同級生の鈴木弘(ヒロ)と鷲沢夏生(なつおちゃん)が主人公の話。高校時代、ヤンキー夏生にパシられていた陰キャだったヒロが美容師になって見返してやる、と思っていたら惚れられちゃった。せっかくだからこれを活かし今は付き合って、後から酷く捨ててやろう! という復讐劇を計画する、という話。
表紙の涙粒の描き方がとても綺麗。もちろんストーリーとしても大事なシーンだけど、涙の質感が凄い、特に表紙はカラーだからそれがよく分かる。
田舎のバカ高っていう設定だから仕方ないんだけど、「園」が読めないなつおちゃん、人生大丈夫かな…… と心配になる。ま、ヒロが読んでくれるからなんとかなるんだろうな。
〈ほどける怪物〉
ブラック企業勤務から転職した林田(かんちゃん)が、会社の後輩・秀那と酔った勢いで関係を持ってしまってそのまませフレになる話。ここでタイトルの怪物とは、“後悔の数だけ開けたピアス穴だらけの怪物”こと林田のことを指している。
ネタバレにあたるかもしれないが、この2人は結局お互い好き同士になって付き合い始める(そもそもほとんどのBLは主人公2人がどうせ付き合う話ではあるから、最早ネタバレでもないかもしれないが)。秀那と林田の思いが通じ合ったシーンで、見開きぶち抜きページで上下にコマを組んでいるのが斬新。これまでずっと、“過去に暴力を振るっていた自分”に縛られ続けていた林田が、秀那と出会うことで前向きになっていく様子は、幸せになってくれ…… と思わされる。
③④【はだける怪物】
〈上巻〉
2017年刊行。「モテ男の初恋×元DV彼氏の最後の恋を描く傑作!」というコピーがつけられている。帯コピーは「初めてだ。こんなみっともない恋」と、表紙の秀那の表情と極めてマッチしているもの。
前作ラストで恋人同士になった秀那と林田だが、秀那に2年間の大阪転勤が命じられてしまう。なんだかんだうまく遠距離でもやっていくが……? っていう感じの話。大阪に行く直前の秀那を見送る林田の、寂しそうな表情が印象的。普段は仏頂面で表情が読めなくて冷たくて近寄り難い林田が、秀那には素直に感情を示せるようになったのか、という成長を感じる。
一方で、ただ普通に遠距離恋愛が上手くいくというわけでもなく、お互いに林田の過去が頭から消えない。林田はずっと高校時代の写真を剥がせないままだし、秀那はそれが自分にはどうしようもないことだと分かっていても気にしてしまう。
ちなみに大阪編には京阪とか京都とか、馴染みの地名も出てくるので読んでて面白い。大阪と京都の境の話も出てくるから(京阪沿線でいうとどこだ……?)と考えている。
上巻のラストで、秀那は大阪のとあるバーで知り合った店員に既視感を覚える。それが、林田がずっと剥がせずにいる、高校時代の写真に満開の笑顔で林田と並ぶ男であることに気付いてしまう……
〈特装版小冊子『薊』〉
上巻の特装版に小冊子として付いていた『薊』。「※リバ表現が含まれます」ってめちゃくちゃ何箇所にも書いてある。実際には会話で匂わせてるくらいなんだが、無理な人には無理なんだろうなあ。私自身はリバは全然どんとこい!派なんだけど、二次創作とか固定派多そうだし逆カプで揉めてそうだから、そのへんがリバ受け付けない勢なのかと理解している。私のBL経験値が上がったらそのうちリバ論についてでも考えてみたいね。
内容としては、かんちゃん(林田)が初めて弓を殴ってしまうに至る過程が描かれている。ブラック企業で精神を病んでいく様子は、見ていて苦しい。心に余裕の無くなった人間がどのように堕ちていくのか、という描写がとてもリアル。
これが元は同人誌っていうのに驚いた。初出の時期から推測するに、「錆びた夜〜」「恋愛ルビ〜」の後、「はだける〜」の連載前と見た。続編の始まる前に前日譚を、っていうことだったんだろうな。
〈下巻〉
2019年刊行。上巻から2年も空いているわけだ。連載自体は2018年3月号で終わってるから、コミックス派にとっては長かっただろうなあ。
販促コピーは「秀那×林田の最後の、本気の恋物語、完結!」。帯コピーは「許されないと思ってたのに、また恋をしてしまった。」と、こちらも表紙の林田の心情を表した言葉。それに加えてあらすじ文から、「好きだけで終われない恋の物語」と上巻の「好きのその後の物語」と対応した言葉が使われている部分が抜き出されている。本当にこのシリーズは帯コピーが秀逸ね。こういうコピーを付けられるセンスが羨ましい。
上巻ラストで秀那は弓に会ってしまうわけだが、そこから彼らの過去を垣間見て、弓の体に残る暴力の痕を見つけ、悩み、苦しむ。一方で林田も秀那が居ない中、過去を思い出し、秀那を傷付けたくない失いたくないという思いを強めていく。30手前の男2人の、これを最後の恋にしたい、するんだ、という思いを感じる。これは私の癖(へき)なんですが、“最後の恋”というワードに弱いので、コピーの秀逸さと終盤に向けて進んでいくストーリーが非常に好みです。
話のクライマックスとしては最終話手前あたりなんだが(そしてそこにも素敵なページやコマが沢山あるんだが)、個人的には最終話がかなり好き。終わり方としてとても綺麗。彼の過去やその後苦しんでいる様子や涙を流す姿なんかを見てしまうと、読者は誰もが林田の幸せを願わずにはいられないのだ…… 本当に、幸せになってくれよな…………
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以上がそれぞれの感想。本当は考察とかしたかったんだけど、今あんまり思いつかないからそれはまたの機会に。
今回は布教のつもりで書いた記事なので、誰か1人でもこれを読んで、興味を持ってくれる人がいたらいいなあと思っています。確かにヘビーだし暴力表現もあるし、人を選ぶ作品なのだろうとは思うけれど、食わず嫌いしているようなら1回踏み出して読んでみてもらいたいなあ。人気なだけあって面白いし、かなり作り込まれた作品になっている。
というわけで、誰かに響いて読んでもらえると嬉しいなあ。読んだことある人はぜひ考察しましょう。それでは。
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