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『みかんきょうだいのたんけん』が絵本になるまで    

2022年の春、第38回「日産 童話と絵本のグランプリ』において『みかんきょうだいのたんけん』が絵本大賞に選ばれました。
みかんのきょうだいが、人のいない夜のスーパーマーケットを探検するお話です。リアルな店内の描写とみかんたちのかわいいキャラクターがマッチした親しみやすい絵本です。
同年12月に絵本が出版され、その後異例の早さで重版にもなりました。

作者のホソカワレイコさんが、受賞から出版までの道のり、出版して思うことなどを文章にしてくださいました。この絵本がどうやって今のかたちになったのか、ぜひご覧ください。

絵本『みかんきょうだいのたんけん』(2022年12月15日 初版発行)

あらすじ
深夜のスーパーマーケット。「もう、こんなぎゅうぎゅうはいやだー!」と袋からとびだしたみかんのきょうだいが、誰もいないお店の中をたんけんにでかけます。ふたりがたどりついた売り場は……。いったい、どんなたんけんをしたのでしょう。

作者プロフィール
兵庫県出身。京都精華大学芸術学部デザイン学科卒業後、パッケージデザイナーなどを経てフリーランスに。学生の頃より絵本の世界に興味を持つ。

『みかんきょうだいのたんけん』ができるまで             ―ホソカワレイコ


このお話はみかんの大好きな息子たちに、みかんを題材にした絵本を作って喜ばせたいと思っていたとき、スーパーで他の果物に比べて雑に扱われているみかんが目に入り、思いついたお話です。
目的のためにがんばるみかんきょうだいが大真面目なのに、どこかおかしさがあるところを楽しんだり、ラストでほっこりした気持ちになってあたたかさを感じてもらえるとうれしいです。
日産童話と絵本のグランプリには4回目の応募になりますが、今回、絵本大賞をいただくことができました。
この絵本ができるまでの流れを書かせていただきたいと思います。


受賞式のあと

3月の受賞式はコロナのためオンラインでしたが、その後出版に向けて審査員の先生のお話を聞く機会がありました。
そのお話を心に刻んで、より良い絵本になるように、いろんな可能性を試しては削ったり、足したりを繰り返しました。細かい点も何度も変更を加え、ラフだけで約6回提出しました。最終的に、原画を半分以上描き直すことになり、その作業は大変でしたが、貴重な体験となりました。 

ページごとのラフをまとめた台割


ストーリーの進め方について

このお話は地の文でストーリーをすすめるより、主人公であるみかんきょうだいの会話で、おはなしを作っていく方が、テンポやリズムも生まれて、面白く読みやすくなるのでは?と意見をいただきました。
会話が増えたのでおにいちゃんとおとうとの話し方を変えてみると、それぞれに個性が生まれました。深みもまし、愛着もわいてくることに気がつきました。
また、文を直すときは、その箇所だけでなく言葉の言いまわしやリズムに気をつけて、他の文も直して全体のバランスをとらなければいけないことを学びました。その場面ごとにしっくりくる言葉を絞り出す作業は大変でしたが、担当編集者さんと声に出して読み合わせしながら作っていきました。
そして、絵と文章が互いを補いあうように物語が進んでいるか、何度も読みながら検証しました。

ちょっとおっとりしたおとうとみかん(左)と、活発なおにいちゃんみかん(右)。
ホソカワさんの息子さんたちがモデルになっているそうです。


この作品でこだわったこと(絵の構図について)

話の舞台はどこにでもあるスーパーマーケットですが、小さいみかんの目線を意識したアングルで描くことで、日頃からなじみのある場所も新鮮な景色に見えて、絵としての面白みが出るかもしれないと思いました。そして、商品棚の並びなどは、透視図法を使ってリアルな遠近感がでるようにしました。その一方で、同じような絵にならないようにほかのページの構図も工夫しました。

実際のみかんの大きさと商品の大きさを検証して描きました


『みかんきょうだいのたんけん』p12-13

(編集担当より)
ホソカワさんの作画は審査員の先生方にも高く評価されました。
……取材をもとに作画された店内は、棚の商品からポップ、商品のラベルに至るまで、何であるかわかるほどていねいに描かれ、みかんきょうだいの小さな探検の絵本としての完成度を支えている……と、審査員のおひとりである黒井健先生も述べられています。


また、「こたつにみかん」のシーンは当初、真横からのアングルで描いていました。みかんが主役の話なので、あまり人に焦点をあてたくないと思っていたからです。ただ、人物の顔が中途半端なところで切れてしまっていて、やや気持ちの悪い印象を与えてしまったようでした。
こたつを囲んでいる家族のあたたかい印象を残し、アングルを変えて少し上からの角度で描いてみたら自然な雰囲気となり、人物の切れ方も気にならなくなりました。

『みかんきょうだいのたんけん』p8-9



スーパーの店内の様子

みかんきょうだいたちが店内のどこをどう通ってレジに行き、元の場所に帰っていったか、また、みかんたちの目線で何がどのように見えるか、ということを、お店の俯瞰図を描いて、細かく検証しました。

店内を俯瞰して描いた図
『みかんきょうだいのたんけん』p18
みかんたちの先に何が見えているかを俯瞰図などで確認しながら、
遠近感がでるように描きました。


苦労したところ

講評の際にも指摘されていたのですが、私が描く人物はどうしてもマンガっぽい雰囲気になってしまい、丁寧に描こうと心掛けているものの、自分の中でも違和感を感じていました。先生から、具体的な指摘をいただいたりして、ようやくわかってきたような気がしました。人物もよく観察して、日頃から人のスケッチなどを描くことが大切と学びました。

『みかんきょうだいのたんけん』p30-31
地に足がついた自然な人物を心がけました


また、特にいろいろと考えたのは、ふたりがチョコレートを運んで、レジの台へ登る場面です。

『みかんきょうだいのたんけん』p19

当初の絵は、レジの台の下がすべて引き出しで階段状に開いていて…という絵だったのですが、現実的ではないと指摘されました。
サービスカウンターの棚を足場になるように書き足したり、レジの台を階段のようにして登れないかと無理矢理、描いてみたりするけれど、やはりどこか不自然でした。
最終的には段ボールをレジのそばにいくつか置くことにして、そこをみかんきょうだいたちがのぼっていくようにする、ということになりました。検証することが全てにおいて大切であることを学ばせていただきました。
 

試行錯誤中のラフとスケッチ


また、実際に段ボールを登っていくルートを、点線でたどれるように、上からや下からのアングルで描いたりもしてみましたが、それは読む子どもたちに連想させたほうがいいということで、やめました。

点線で道筋を描く案もありました


つじつまをあわせること

原画の修正の時に、総菜コーナーにおにぎりが並んでいるのを消したほうがいいと指摘されて、はっとしました。閉店後の人のいないスーパーなのに、おにぎりがそのまま残っているのは不自然です。すみずみまで詳しく描くことにとらわれていて、冷静な判断ができずにいました。

『みかんきょうだいのたんけん』p20-21

レジでバーコードを読み取る場面では、当初みかんきょうだいが実際にレジを操作する設定にしていました。これも深夜の無人の店でレジに電源が入ったままでいいのか、と検討しました。でも、ここは楽しい場面でもあるので、どうしたら残せるか考えました…。
最終的には、みかんきょうだいたちは本当の操作の仕方はわからないのでは!?と、おにいちゃんみかんが"ピッ”と口で言ってしまっているという想定に行きつきました。
 不自然な点はないかと注意をはらうのは、絵本においてとても重要なことで、少しでもおかしい点があると気になってしまうでしょうし、それで本当の絵本のおもしろみがうすれてしまわないよう心がけました。


表紙について

『みかんきょうだいのたんけん』表紙

商品の顔になる表紙ですが、店頭に並べられた時に手にとってもらえるように、できるだけ楽しい印象にしたいと思ってラフもたくさん考えました。
当初は読みやすくするために、タイトルの背景にはイラストを描かずにいました。でも、どこか寂しい印象になってしまうようでした。
そこで、画面いっぱいに描いたお菓子売り場に、みかんきょうだいがもぐり込んでいるような案はどうかと提案されました。ごちゃごちゃして読みにくくならないか心配でしたが、やってみると以前よりぐっと華やかな印象になりました。
背景にはお菓子以外の絵も考えていましたが、やっぱり子どもたちの一番興味があるのはお菓子売り場です。せっかくならみかんに関係のあるお菓子にしようとこだわりました。
色も初めはオレンジ系の色味でまとめて配色していましたが、そうするとみかんきょうだいが絵に埋もれて全く目立たなくなってしまったので、描き直して色を増やし、現在の表紙となりました。タイトルのフォントや周りのぼかしなどは、デザイナーさんが絵のイメージから、いろいろと試行錯誤してデザインしてくださいました。

受賞時の表紙(左) オレンジでまとめた当初の表紙案(右)


出版して思うこと

担当編集者さんとも話していたのですが、絵本が出来上がっていくまでは、まるで螺旋階段をぐるぐると上っているかのような感覚でした。
でも、少しずつ作品がブラッシュアップされていくさまは、自分でも納得のいくものとなったと思います。
 
この絵本には、他の果物と自分を比較し悲観していたみかんきょうだいが、袋から飛び出しスーパーを楽しく探検したように、絵本を読んでくれた子どもたちが、どんな境遇におかれても、自分らしく生きられる場所を探してほしいというメッセージも込めています。
わくわくしながらページをめくり、みかんきょうだいと一緒にスーパーを探検して楽しく読んでもらえたら、作者としてこの上なく幸せに感じます。

絵本が出版されてから、私自身が思っていた以上に周りの方々の反響が大きく、驚きでした。夢だった絵本作家としてデビューできたので、日産童話と絵本のグランプリに挑戦して本当に良かったと思います。
今後は絵本の物語のなかで、子どもたちに愛されるようなキャラクターを生み出していきたいと思っています。         
                                   

(編集担当より)
最初にビンやペットボトルが並んでいる絵を見た時、本物のように透明感のある絵に惹きつけられました。リアルな描写と対照的なかわいらしいみかんたちが見事にマッチしているのが、この本の魅力だと思います。
すごくかわいくて、その一方でとてもリアル。
もしかしたら実際に夜のスーパーでこんなことがおきているのでは……と、想像をふくらませながら、このファンタジーの世界を楽しんでもらえたらうれしいです。

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