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吉澤大・小山龍介対談|コロナ対応の財務・税務ーコロナを生き延び、コロナ後に飛躍するヒント

吉澤大さんはビジネス書の著者としても多数の著書を持つ、敏腕税理士。コロナの危機においても、政府の施策が発表されるたびにリアルタイムにその対策を情報発信されています。こういう状況では、ちょっとした判断ミスが、命取りになります。これは企業もそうですが、個人でもそうです。その吉澤さんに、コロナを生き延びるための財務、税務のヒントを伺います。(小山龍介)

今すぐ高台に逃げよ

小山龍介(以下、小山) 吉澤さんは、税務会計事務所の代表をされています。私からすると超ユニークなというか、歯に衣着せずにズバッとしたもの言いをされる方です。今回のコロナの件についても、いろいろな情報発信をされていて、オンラインセミナーなどもかなりされたんですよね。

吉澤大(以下、吉澤) お声がけいただいたのと自分で発信したのと、いろいろやらせていただいたつもりです。

小山 著書もたくさんあって情報発信もするなかで、比較的お行儀のいいというか真面目にきれいに言うタイプの人もいますが、どちらかというと吉澤さんは……(笑)。

吉澤 口が悪いですよね。絶対怒られるタイプです(笑)。

小山 でも、特に今回はあまりきれい事を言っている場合でもない状況なので、ぜひ吉澤さんに、今どういうことをしなければいけないのかを伺いたいと思います。もちろん、吉澤さんは会社の税務を見ているので会社が生き延びるということもあるのですが、おそらくそれは個人が生き延びるということにも直結する話だと思うんです。ですから、その辺りとちょっと紐づけながら、いろいろお話を伺えたらと思っています。

早速なのですが、いろいろな政府の支援策が出ている中で、いま吉澤さんが発信している「こういうことをしたほうがいいですよ」ということはありますか。

吉澤 キーメッセージは1個しかなくて、「今すぐできるだけ高台に逃げよ」というひと言だけなんです。このたとえが正しいかどうかは議論があると思いますし、不謹慎だと言われそうですが、要はものすごく大きな津波が自分の目の前にやってくることが予見されている状況ですよね。

これを避けられないなかでどうやって生き残るかというときに、正直言うと経営者の才覚はあまり関係なくなってきています。オリンピックの水泳選手でも、さすがに津波は泳ぎきれないよねという部分があるのです。

業種によっては、有能だと言われている経営者でも、とても泳ぎきれないような大きな津波がやってきているということは自覚してほしいと思います。それを体力や知力で乗り切ることは難しいのです。

なおかつ今回のケースは、今の段階では津波がどれぐらい大きくてどれぐらい長く影響があるのかということが、誰ひとりわからないんですね。未知のものなので、「うちは関係ないだろう」とか「影響はまだそれほどないし大丈夫だろう」という人も含めて、とにかくビビリでもいいから可能な限り高台に逃げておいてくださいというのが基本コンセプトです。これが言いたいことです。

借り入れて現預金の残高を積み上げる

小山 具体的には、どういうことなんですか。

吉澤 現預金の残高を可能な限り積み上げていくという、この1点だけです。

小山 これは、ふつうに考えると借り入れということですよね。

吉澤 そうですね。もうひとつ、一部補助金・助成金があって、それは恥も外聞もなく全部もらってきてくださいと言っています。ただ、額で言うと補助金・助成金はそんなにない。それよりも、すぐに出て額が張る融資を、可能な限り借りてくるというのがひとつです。

これも言うと怒られるかもしれないですが……、税理士は融資に対して抑制的な考え方の人が8割、積極的にガンガン行こうぜが2割ぐらいなんですね。

小山 じゃあけっこう抑制派が多い。

吉澤 なので、平時であれば借り入れ金は丁寧に借りていこうというのが、ごもっともな話なのですが、今は野戦病院みたいな状態だと僕は思っているんですよ。だから、平時の資金調達のルールはほぼ使えません。むしろそれにこだわりすぎると足元をすくわれたり出遅れてしまう可能性があるし、事実もう出遅れている人がいるんじゃないかなと正直思っています。

小山 それは、具体的にはどんな状況なんですか。

資金調達のセオリーが通じるのは大手だけ

吉澤 緊急融資、特別融資というのは、実際には2月から発表されているのです。僕は、ここはヤバそうだという会社には個別に「今すぐ行って借りてきて」と言っていました。そのときには、まだうちはそんなに影響がないしと言っていたところもありました。

たとえばディズニーランドが完全に動きが止まったじゃないですか。だから、イベント業、飲食、インバウンドが駄目だなというのは誰でも想像がつきます。ですが、結局売り上げのほとんどがディズニーランドに集中しているところは、全然関係のない工事会社でも完全に売り上げが止まってしまいました。

そういうところが、3月の終わりから4月になっていよいよ融資を申し込んでも、実は間に合わない。いわゆる抑制派の税理士がよく言う「必要なときに必要な額だけ」を借りていらないものは丁寧に返していくという財務管理の基本鉄則ができるのは、超大手の話なんですよね。つまり、こちらの都合で資金調達の環境を選べるような企業はセオリーが通じるのです。

言いたいのは、金融機関が常に同じ姿勢じゃないということです。たとえば借りる側の会社の決算状況が同じでも、去年は融資が全然出なかったのが今年は融資が出ということが多く起きます。

超大手は、銀行がどんな環境に動こうが、いつでも融資は出るんですよ。そういうところは、タイムリーな資金調達をすればいいのです。いつやっても駄目な干上がっているところは、端から駄目じゃんとなります。中小企業というのは、実際にはその波間にいることが多くて、位置づけはたいして変わっていないけれども金融機関の融資姿勢によって金が出たり出なかったりしてしまうんです。

だから、そういうのを考えると、ある程度損は覚悟して金利は捨ててでも環境変化に対応できるように、その金利、無駄銭を僕は金融環境変化対応保険(金融環境変化への保険)だと言っています。僕が融資について見ているのは、あくまでも現預金です。現預金がなくなったら、会社はどんなに業績が良くても倒産してしまうのです。

小山 そうですよね。黒字倒産というのは、そういうことですよね。

現預金がないと負のスパイラルに入ってしまう

吉澤 こういうときに、現預金がジリ貧になってしまう会社があります。手元の金がない、だけど決済すべきものがあるとなったときには、たとえば工事だと赤字でも受注せざるを得なくなってしまいます。そうすると、赤字の仕事でもらった前金で手形を落とします。でも、赤字の仕事は時間がくれば必ず資金のマイナスを生むのでさらに金がなくなる。そうするとまた赤字の仕事を取るという負のスパイラルに入り、結果資金ショートにどんどん近づいていってしまいます。それを回避するために、仕事を断るという選択肢を得ることが重要なんです。

小山 それは、すごくよくわかります。

吉澤 だから、「俺はそんな赤字仕事今はいいわ」とグッと堪えられるだけのものが手元にあることが重要で、現預金の厚みが選択肢の幅を広げます。そのための最低の現預金の金額を、今まで僕は2カ月間売上高がゼロでも資金ショートしないだけの額と言っていました。けれども、今回は半年ぐらいは持っていてほしいなと思います。

小山 しかも、少なくともという感じですね。

吉澤 少なくとも。ただ、実際に調達をするときに「先生いくら借りてきたらいいの」と必ず聞かれるのですが、それは今回考えなくていいと言ったんですよ。とりあえず「貸せるだけ貸して」と言ってくださいと言っています。

平常時であれば、当然のことながらそのお金が返せるかという返済財源を考えるでしょう。それと、意外に重要なのが資金の使途なんですよ。将来に渡って投資として意義のあるものであれば、積極的に出すということです。それから、返済できなくなった場合の担保や連帯保証といった回収手段のこともあります。返済可能かどうかと資金の使途、回収手段、この3点セットの中で借りられる額が決まってきます。

けれども、今回はそれはいらないと言っているんです。資金繰り表もいらない。目的が備蓄だからです。可能な限り高台に逃げてくれということを言っているわけで、その高さはわからないので、今の力で借りられる金額全部借りてきてと言っています。融資を申し込む際には「目的は備蓄なのでお貸しいただける全額をお願いします」、そのひと言で、と言っています。

複数銀行に同時に融資を申し込む

吉澤 複数の銀行に同時に融資を申し込むことはフェアでないので、平時にはあまりしないのです。A行にまず打診してみて1千万駄目だったときにはB行に出す。だから、A行さん早めに回答してくださいとお願いします。

けれども今回は、政府系金融機関と信用保証協会、両方同時でいいと、出してもらえるところは全部行ってきてと言っています。両方出ちゃってもかまわないからというお願いの仕方をしています。だから結果的に、ふつうだったらまず調達はできないような年商を超える融資の残高になっているケースが多々ありますよ。

そうすると必ず、「先生これ返せるの?」と聞かれるんですよ。「月の返済が300万なんだよ」と言われるけれども、「使わなければ返せるでしょ」と言います。融資というのは、実は借りたことが原因でショートすることはないのです。

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