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前編:コーヒーの水分値の重要性とその理解【vol.85】
みなさんこんにちは!青島です。
今回はコーヒー豆を知る上で重要な水分値についてやっていきましょう。
豆の品質と保存性、焙煎や味覚特性に至るまで、さまざまな側面に影響を与える要素のひとつが水分値です。
水分値の適切な管理は、生豆の取引や保管時の基準を満たすだけでなく、焙煎後のコーヒーの全体的な完成度を左右します。
特に、スペシャルティコーヒー業界ではわずかな水分の変化が大きな影響を及ぼすため、水分値の測定と管理は科学的アプローチが求められる重要な課題となっています。
「水分含有量」と「水分活性」という異なる2つの指標が、コーヒーの品質評価において特に重要です。これらは保存中の安定性や微生物汚染のリスク、そして焙煎中のメイラード反応に密接に関連しています。
今回は前編と後編に分けて記事を作ります。
コーヒーの水分値の定義やその重要性を基礎から解説し、生産地での管理方法や実際の測定ツール、焙煎や保存時の活用法に至るまで、すべて深掘りしていきます。
また、水分値が適正範囲を外れた場合のリスクや、それに対処するための実践的な方法についても触れていきます。
水分値の基礎知識:水分含有量と水分活性の違い
水分含有量とは?
「水分含有量」とは、コーヒー豆の中に含まれる水分の割合を指します。これは生豆に含まれる水分も含めた総量を重量をベースで測定したものです。
一般的には「%」で表され、適正な範囲は10~12%程度とされています。
たとえば、1kgのコーヒー豆の中に100gの水分が含まれていれば、水分含有量は10%となります。
水分含有量は、コーヒー豆の輸送や保管、焙煎に影響します。含有量が適正値を下回ると、コーヒー豆が過剰に乾燥し、割れやすくなり、風味も失われやすくなります。一方で、適正値を超えると、微生物汚染やカビの発生リスクが高まります。
例え適正値でも船での温度設備が備わっていないコンテナ輸送時はカビの発生リスクはかなり高くなります。
水分活性とは?
一方、「水分活性」は水分の「蒸発しやすさ」や「動きやすさ」を表す指標です。水分活性は小数点(0.00~1.00)の数値で表され、
1.00は純水、0.00は完全に乾燥した状態を意味します。
適正な範囲としては、コーヒー豆の場合は約0.60未満が望ましいとされています。
例えて言うと、先ほどの水分含有量はコップに水を入れた時、コップに対して水そのものがどれだけ入っているかを測ったもの。
一方、水分活性は、その水がどれだけ自由に動いて蒸発したり周囲に影響を与えたりするかを表します。
たとえば、スポンジが水を吸収した状態と、コップにただ水が注がれている状態を比べると、同じ量の水があってもスポンジ内の水の方が蒸発しにくいため水分活性は低くなります。
水分含有量と水分活性の違い
この2つの指標は、時より混同されがちですが、それぞれの役割は異なります。
水分含有量はコーヒーの輸出入や基本的な品質管理において使用されます。
水分活性は微生物汚染や焙煎時の反応を予測するために役立ちます。
例えば、同じ水分含有量のコーヒー豆であっても、精製段階の乾燥プロセスの違いにより水分活性が異なる場合があります。天日乾燥された豆は、豆内部の水分が均一に分散していないことがあり、水分活性が高くなりがちです。
一方、丁寧に機械乾燥された豆は、均一に水分が分散され安定した状態が保たれやすく、長期保管に適しています。
水分活性が焙煎に与える影響
コーヒー豆に含まれる水分の「量」だけでなく、「水分活性」も焙煎において重要です。
水分活性が高い豆の特徴
水分活性が高い豆は、内部の水分が通常豆より「自由」に移動できるため、焙煎中に蒸発しやすい傾向があります。
これにより、豆の内部と外部の水分移動が活発になり、焙煎の熱伝達や化学反応に影響を与えます。
焙煎への影響
熱伝達と焙煎均一性への影響
水分活性が高い場合
豆内部の水分が活発に蒸発するため、内部圧力が急激に上昇しやすくなります。その結果、焙煎中に「チップ欠け」や「クラック(割れ)」が発生しやすくなります。さらに、豆の内部が十分に焙煎される前に外側が過度に熱せられ、焙煎未発達や豆表面の焙煎ムラが起こる可能性があります。
例えるなら、ポップコーンの粒を加熱すると、中の水蒸気が急激に膨張して爆ぜるのに似ています。この過程を急速に早めると、均一な膨張や加熱が難しくなります。
水分活性が低い場合
豆内部の水分があまり移動しないため、熱が均等に伝わらず、内部が十分に焙煎されるまでに時間がかかる可能性があります。その結果、外側はすでに黒く焦げているのに内部が生焼けのような状態になることがあります。
メイラード反応への影響
水分活性が適切な場合
豆内部で適度な水分が存在すると、メイラード反応がスムーズに進行します。その結果、甘い香りやチョコレート、ナッツのような複雑なフレーバーが形成されます。水分活性が高すぎる場合
水分が多すぎると、メイラード反応が抑制されることがあります。焙煎の初期段階で過剰な蒸発が起こり、化学反応に必要な条件が整わないからです。これにより焙煎後の香りが弱く、風味が平坦になる可能性があります。水分活性が低すぎる場合
豆が過乾燥の場合、必要な反応が進みにくくなり、風味が単調で薄い仕上がりになることがあります。
焙煎時間と温度の調整が必要
水分活性が高い豆を焙煎する際には以下の事を注意してみて下さい。
焙煎プロファイルの見直し
焙煎機の投入温度をやや高めに設定し、ガス圧は低く設定、1分ごとにガス圧を上げていく。135°まで熱伝達をスムーズに行う。
適切な水分活性がもたらす焙煎効果
理想の水分活性値である0.4〜0.6の範囲は、次のような焙煎結果をもたらします。
豆内部と外部の均一な熱伝達。
メイラード反応やカラメル化が効果的に進行。
豊かでバランスの取れた香りと風味。
均一な膨張と豆ツラが良くなる。1ハゼ音が綺麗に連なって聞こえる。
水分含有量がコーヒー豆に与える影響
水分含有量がコーヒー豆の品質に及ぼす影響は、プロの焙煎士やコーヒー業界において深く掘り下げられています。
水分含有量がコーヒー豆に与える具体的な影響を掘り下げていきます。
1 焙煎プロセスへの影響
水分が多すぎると、豆の内部で水分が一気に蒸発し、大きな膨張を引き起こす可能性があります。これにより、豆が割れてしまったり、焼きムラが発生したりする原因となります。逆に水分が少なすぎる場合、豆が均等に膨張せず、焙煎が不完全になることがあります。
焙煎の際、水分温度が上がるにつれて水は膨張します。
豆内の水分が適正値であると、この膨張がスムーズに行われて香りや味わいが均一に引きだしやすくなります。
逆に水分が少なすぎると、内部の化学反応が不完全になり、フレーバーが引き出しにくくなる可能性もあります。
2 風味の変化
豆内の水分が多すぎると、焙煎中に化学反応が不十分になり、豆の持つ本来のフレーバーが十分に引き出せません。
反対に、豆の水分が適正値であれば、焙煎中に反応が効率的に進行し、豆の香りや味が最大限に引き出されます。
水分が多いと酸味や苦味が強く出ることがあり、
味が一面的になってしまうこともあります。
フルーツの熟成を想像してみてください。
果物が適切に熟すためには、適度な水分が必要です。熟しすぎると腐敗が進んでしまい、逆に水分が不足していると味が酸っぱくなり、風味が落ちてしまいます。コーヒー豆も同様で、適正な水分が風味のバランスが大事です。少なすぎても多すぎても、味のバランスが崩れてしまうのです。
3 保存性への影響
コーヒー豆は湿気を吸いやすいため、高すぎる水分含有量は、微生物やカビを繁殖させ、品質が低下する原因となります。
また、湿度が高いと豆がもろくなり、挽いた際に粒度が粗くなりやすくなることもあります。逆に水分が少なすぎる場合、豆の風味がすぐに飛び、酸化が進みやすくなります。
適切な水分含有量を保つことで、コーヒー豆は長期間、風味を維持しやすくなります。コーヒー豆は、できるだけ早く消費することが推奨されますが、保存の際に水分が安定していると、味の劣化が遅くなるため、品質が保たれやすくなります。
例えると、干物を作るとき、魚は過度に乾燥させず適度に水分を残すことで長期間保存可能になります。過度に乾燥した干物はすぐに硬くなり、風味も失われやすいです。コーヒー豆も同じように、適切な水分含有量が風味と保存性を左右します。
水分測定方法とその重要性
コーヒー豆の品質を保つために、適正な水分値を測定することは非常に重要です。水分測定方法とその重要性について詳しく説明します。
代表的な水分測定方法
コーヒー豆の水分測定には、いくつかの方法があります。それぞれの方法には利点と欠点があり、目的に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
グラム法(乾燥法)
最も古典的な方法は、コーヒー豆を一定温度で加熱して水分を蒸発させ、その質量の減少量を計測する「乾燥法」です。
具体的には、オーブンや乾燥機を105度に設定、維持します。
豆をそこで加熱させて蒸発した水分量を計測します。
この方法は高精度ですが、時間がかかり実験的な作業が必要です。
水分計(モイスチャーメーター)
最も一般的に使われてる測定方法は、水分計(モイスチャーメーター)を用いる方法です。この機器は、コーヒー豆に圧力を加え、その反応から水分量を測定します。
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G-Won モイスチャーメーターのような高精度な機器を使えば、素早く正確な水分測定が可能です。
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NIR法(近赤外線分光法)
使用してる珈琲屋をまだみたことがないですが、この方法では、コーヒー豆に近赤外線を照射し、その反射を分析して水分を測定します。
迅速で、高精度な測定が可能ですが、設備が高額なため、コストがかかります。
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終
最後まで見て頂きありがとうございました!
次回もお楽しみに☕️