あなたの会社はテスラ?トヨタ?マーケの型と市場フェーズの適合を見極める / #マーケの落とし穴 03

多くの企業は無自覚ですが、それぞれの会社に「マーケティングで得意としている型」と呼べるものがあります。

それらのマーケの型は、業種、ビジネスモデル、事業ライフサイクルのステージである程度規定されてしまう部分もあるのですが、同じ業界内の会社でも得意とする型が大きく異ることは少なくありません。

むしろ「型」が違うからこそ、アウトプットであるブランドや商品・サービスが異なり、その結果、同じ市場の中で棲み分けているとさえ言えます。

「型」は視点次第で、無限にレイヤーと分類があるのですが、この記事では、「目に見えにくく定性的」だけど、企業のマーケにおける得意~不得意を分ける根源的な「価値の作り方」と「実行の序列」という2つの視点から説明します。

”アップルとサムスン”、”テスラとトヨタ”は、「価値のつくりかた」がどう違う?

商品・サービスは、顧客に何かしらの心理や機能の便益を通じて「価値」を提供しています。

ただ、その「価値」をつくるアプローチは企業によって大きく異なり、わかりやすい対比として2つの型を例にあげます。

顧客視点のニーズ適応型
市場・顧客で顕在化したニーズに適応することを目指し、商品・サービスの価値をつくりこんでいく
例:電機業界ならサムスン、自動車業界ならトヨタ
自社仮説で価値啓蒙型
自社が考えるより良い商品・サービスの価値を市場・顧客に提示・啓蒙し、新しい市場・顧客のニーズを創っていく
例:電機業界ならアップル、自動車業界ならテスラ

対比のために2つに分類しましたが、企業単位でデジタルにゼロイチで振り分けできるものではなく、実際には企業単位では比重のグラデーションがあります。

ニーズ適応型としたトヨタの歴史でも”ハイブリッド市場をつくったプリウス”や”オンロード重視のクロスオーバーSUV市場をつくったハリアー”のような価値啓蒙型と言えるような市場をゼロからつくった商品も存在します。
ただ、商品の大半は顕在化したニーズに最適化した比重が強い傾向があり、企業のDNAとしてはニーズ適応型と言って差し支えないでしょう。

同様に、イノベーティブな価値啓蒙型の典型に見えるアップルも、実際には各カテゴリの市場の成熟と共に、ニーズ適応型の色を強めています。iPhoneやiPadのサイズや価格展開などは、そのようなニーズ適応の典型例です。
ただ、iPhoneがスマホ市場を立ち上げた例を筆頭に、企業のDNAとしては価値啓蒙型を志向していると言えるでしょう。

ちなみにシーズから研究開発している企業は、価値啓蒙型が多いのですが、自前でシーズを研究開発していない会社でも価値啓蒙型は存在します。
小林製薬は、独自の研究開発は強くないですが、上手に新しい価値啓蒙を続けている企業と言えるでしょう。
トヨタは、顧客ニーズを理解して最適化する能力は、他の業界を含め、他社を圧倒している強みで世界No.1の原動力だと思います。
SNSやメディアでは、イノベーティブに見える価値啓蒙型だけがもてはやされがちですが、実際の市場機会の多さと成功率でいえば、価値適応型のほうです。つまり、マーケティングに関わる人は、そのスタンスとして価値適応型をバカにせずに愚直に極める覚悟を持つのが大切だと思います。

企業は型の偏り・癖があり、強みと弱みの表裏一体な要素

私がコンサルティングで様々な業界・企業に関わり、クライアント企業と競合を調べた経験則からですが、個別の会社内で、過去のヒット商品を調べ上げると、会社によって成功した商品・サービスの発想の型の比率は相当な偏りがあり、9:1とか8:2のような割合。
大半の会社は、器用に状況に応じて2つの型の使い分けはできず、ヒット商品で偏っているほうの型こそ、会社の強みであり癖と言えます。

現場のインタビューを重ねていると、ニーズ適応型が軸足の企業内にも、価値啓蒙型を志向する担当者は存在し「うちもアップルやテスラみたいなやり方で新市場を」という意思を持っています。
ただ、会社として不得意な型は、いざビジネスプランができあがっても社内でも投資実行がされない傾向があり、起案の偏りだけでなく、投資承認~実行における絞り込みで偏りが加速していると感じます。

勝った成功体験がないパターンの投資は、どの企業だってこわいので当たり前です。商品・サービスがコモディティ化し、価値啓蒙型の市場開拓が必要と頭でわかっていても、いざ実行で手足が動かなくなりやすいのが人間のサガです。

また、長くなるので詳細は割愛しますが、「実行の序列」視点では、需要獲得先行型とプロダクト開発先行型も大きく別れます。

前者は、とにかく営業や広告を先行させ、極端な話、受注しそうになったら商品の調達と開発を加速させるような企業。

後者は優れたプロダクトを開発することに注力し、その後、営業や広告への投資を強化していきます。これもグラデーションですが、明確に企業単位で経営のタクトの振り方に個性があります。

ちなみに現在は、投資金額と生産・調達量さえ高まれば、後から商品の質を高めていく戦法が有効な業界が特に製造業では増えてきたため、まずは営業なり広告投資で市場シェアの面をとってしまって、そこから規模の経済を活かした投資額の大きさで商品の質を高めて勝つというパターンは増えてきている印象です。

業界ごとに細かな調整適応は必須ですが、メガトレンドとしては、商品・サービスの成熟化が利益率低下をもたらすことで、ニーズ適応型ではなく価値啓蒙型の重要性はあがっています。

また、巨額投資で技術や組織を買える機会が増えたことで、まずは需要獲得に投資をする企業の勝率はあがってきていると理解して良いでしょう。

日本の歴史ある大手メーカーは、ニーズ適応型×プロダクト開発先行型が多く、市場フェーズの変化がミスマッチを引き起こし衰退という状況の企業が沢山あります

最初は偏っても良いので、勝率の高い型をつくり社内で横展開。あとで、両利きを目指す。

マーケの型は企業によって大きく偏っていると書きましたが、なにか偏った型で勝率が高い成功体験があるというのは「強みがある会社」ということで悪いことではありません。

むしろ、大半の会社は「偏り」どころこか、マーケティングの勝ちパターンとなる型がないままのカオスです。「偏り」があるだけで立派なもの。

しかし、経営として問題が起こるのは、市場環境と得意な型が合致してこない状況です。放置すると、同じ型で努力をしていても、どんどん衰退していきます。

そのようなミスマッチがおきたときは、自ら得意な型を柔軟にシフト・拡張して両利きになっていくか、異なる型が得意な人を上級職で招き入れ、権限を与えるしかありません。(ソフトバンクはこのあたりの見極めと実行が抜群です)

ちなみに、大企業内において、ニーズ適応と価値啓蒙型の事業を同じチーム内で推進するのは悪手です。求められる判断基準から人間の気質までかなり異なるため、明確に組織を分ける設計が重要です。ふたつの型が混在すると組織は混乱しパフォーマンスが落ちます。

弊社の経験からは、事業が多角化した大企業で業績をV字回復させる際の土台となる肝は、この型の視点による組織切り分けの見直しです。

あと、自社が得意な型では勝てない市場になってしまった場合は、とっとと事業売却や撤退し、勝てる市場に事業ドメインをシフトし続けるという経営判断もあります。名前は出せないですが、これが非常にうまい会社は数は少ないですが存在し、その事業ポートフォリオを変えていく経営判断は見事なものです。

自社のマーケの型と、市場フェーズのミスマッチが起きた時期は、経営として努力が成果に結びつかない苦しいシーンです。

その対処こそ、異なる勝ちパターンの型を自社に取り入れて両利きとして進化するチャンスとも言えます。その変化の必要性を自覚しないと、長期的に衰退する落とし穴にはまってしまいます。

最後に付け加えると、働く個人の立場で言えば、自分の得意~やりたいマーケの型と、組織のマーケの型が合っていないのは、成果もでないしストレスも増えがちです。その見極めは、個人のキャリアの落とし穴を回避するうえで大変重要です。

プレゼンテーション1

皆さんの会社は、皆さん自身は、どんな型なのでしょう?

別にこの記事の内容に限らず、型のレイヤーと分類は無限に考えられます。ぜひ一度考察し、市場とのマッチングやギャップも考えてみてください。

これは企業の経営層が「小手先ではなく、大きく変化すべきことを自覚して合意形成する」うえで非常に重要なトピックで、経営陣での議論やワークショップにも適したテーマです。(ファシリテーターのレベルが高くないと有効な結論に導くのが難しいのですが)

落とし穴を避けるポイント------

・自社や自分個人が得意~志向している型を理解する
・市場のフェーズと、自社の型のマッチング度合いを理解し、ミスマッチの場合は、リカバリの方法を冷静に考える
・柔軟に型を使い分ける企業が理想だが、難しい場合は、必要な型が得意な人を採用し権限を渡す

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