「資産とマネタイズが釣り合わず、組織が疲弊」#マーケの落とし穴 04

ビジネスの世界には「売上をあげるマネタイズで疲弊している企業」と「疲弊が少ないまま、ヘルシーに売上を伸ばしつづける企業」があります。

その差の理由には様々な複合要因がありますが、ここでは「ビジネスにおける資産」の視点で説明します。会計上の資産の定義に囚われず「実際のビジネスにおいて、お金に換えられるもの」をビジネス上の重要資産と定義して話します。

マーケティング成果は、“資産価値”との掛け算で決まる

マーケティングで成果を出す考えのひとつの断面からみた捉え方ですが、マーケの成果とは「何かしらの資産を、4P施策でマネタイズしたもの」と捉えることができます。

無理やり公式化すれば

“マーケティングの成果=ビジネス上の資産の大きさ×マネタイズ4P施策の良さ”

となります。

そのマーケにおける資産ですが、おおまかに3つあります。

・実体資産
(研究開発・技術力、製造力、組織力など)

・ブランド資産
(対象市場で認知されている、期待を持たれ信頼されているなど)

・顧客資産
(既存顧客の数と質、見込み顧客の数と質)

マネタイズする4P施策は、上記の資産を使って顧客に価値を実体化して届ける行為といえ、企業の現場は当然ながらベストを尽くしてがんばります。

ただ、極端な例えですが、ただの野原の土地という資産を人に貸すのと、マンションを貸すのでは顧客獲得の労力や難易度はまったく違います。資産のレベルを上げるほど、顧客獲得と維持は容易になり、無理なストレスがかからずにマネタイズができます。

*大手デベロッパー不動産企業くらいのブランド力があれば「我々がこれから町ごとゼロから開発するので安心してください!」と言えば、野原の土地を売れるかもしれません。それはまさにブランド資産を使った換金です。

企業の疲弊状態とは「資産価値<マネタイズ」

事業に関わっていると、今までと同じような4P施策をやっているつもりでも、なぜか数字が積み上がって良い成果が出てくる時期がある。それは一部の測定は難しいけど、ブランドや顧客や実体の資産が積み上がってコンディションが良くなっているときだと推察できます。

逆に、同じような4P施策をやっているのに成果が出ないならば、資産価値が劣化している、もしくは売上目標の高さに対して資産価値が追いついていないと推察できます。どれだけ質の高い4P施策を展開していても、資産価値が低いと階段の踊り場がやってきます。

資産価値以上の売上成果を社内に求め続けると、マネタイズ施策のROIは悪化し、顧客獲得コストがあがる、実態を超えた価値に見せすぎて売ることになり、いざ売れてもリピートされない、評判も悪化という負のサイクルを誘発します。

このあたりは金融資産の額が少ないのに、無理して高いリターンを得ようとすると、運用でハイリスクな無理をして、結果的に大きく損をしがちという話と非常に似ています。

資産運用で大きなリターンを得るには、資産を太らせながら、リスクを適切にマネージしないと危ないのはビジネスも同じです。

自社にとっての資産は定義し、売上成長の先行指標として積極マネージする

そもそも「何が自社の重要資産か?」という問いは、業態の特性もありつつ、かなり企業毎の思想と勝ちパターンで答えが異なる個別解の世界です。

例えば、私が社外取締役を担うMinimalでは、経営陣はチョコレートやスイーツの開発と製造を担う職人を重要資産とみなし、優先順位高く先行投資で採用し、育成にも相当な投資をしています。その職人チームの組織能力=資産が積み上がれば、質が高く迅速な商品開発ができるようになり、それが結果的に顧客からの魅力となって、最後は売上に転化するという想定です。

資産は人の技術のような実体資産に限らず、ブランド資産もありますし、顧客資産もありますが、これらの定義と投資と測定に基づく運用の仕方で、大きく差がつくのは間違いなく。

資産は人です!という認識レベルではなく、次のレベルに引き上げるには、どのようなスキルレベルの人が、何人必要か?そこから逆算して採用と育成を実施するという粒が必要で、ソフトウェアが軸の会社ならば『優れたエンジニアこそ資産』なことは多いでしょう。各社でそこは定義しないと機能しません。

ブランドもある事業規模を超えたら、定量的に認知だけでなく購買意向を見ておかないと判断を誤りますし、顧客資産も売上計画から逆算したら、何かしらの定量目標は見えるはずです。

多くのノウハウがコモディティ化してきたビジネスの世界ですが、この自社独自の資産の定義と育成こそが、競争優位の源泉であり、経営の形式知が進んでいない最後のフロンティアと思います。だからこそ、経営の頑張りどころ。

会社が小さなうちは、経営トップが目の届く範囲で資産の状況を把握し、感覚的なさじ加減でマネージしていれば大きく間違えません。

ただ、組織規模が大きくなるにつれて、トップが見きれなくなります。自分がひとりで見きれない組織規模の経営がうまい人とは、自社のビジネス資産の定義、投資、運用が上手い人で、資産メンテの仕組み構築に長けています。

企業における中期経営計画は、通常、明確に数字目標が掲げられ、それが部門の責任者へと割り振られていきます。しかし、その未来の数字をつくるのに必要な資産の定義、資産育成のアクションの分解が不十分で実行に至らない、結果がでないケースは非常に多いと感じます。(ここ大事)

経営陣のほうから、売上成長目標と連動する形で、重要資産の定義と育成の計画を事業部長に求め、その進捗をシビアにウォッチする仕組みを経営レベルの定例ミーティングで実装することが重要です。

成長が持続する会社は、資産の定義が明確なだけでなく、その資産レベルの向上の追求が営業数値を求めるレベルでシビアなのが常です。

私の経験からは、この企業の資産の定義に始まる運用能力を高める基礎的な仕組みの質を高めるだけで、業績が持続的に成長した企業は数しれず。

マーケティングで成果出すために4P施策頑張るのも大事ですが、資産が太れば、よりヘルシーに成果を出せますよ、と。お試しあれ。


落とし穴を避けるポイント-------

・”資産価値の大きさ=マネタイズ施策投資”の釣り合いがとれる状態を常に意識して目指す

・売上拡大の計画に連動した、資産の育成投資計画を持ち、売上と同じ熱意で進捗をフォローする

「マネタイズにアクセルを踏むな」というゆるいことが言いたいのではなく、マネタイズのアクセルを深く踏むためにも、それと釣り合いが採れ続けるように資産投資も頑張ろうという話でした。

世の中で腕の良いマーケターと言われる人々は、「資産とマネタイズ」という言葉やフレームワークを使っていないかもしれないですが、その両方をバランスよく、そして迅速にやるという神業を持っています。

資産価値を高めるテコ入れができる人は強いです。

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