「創業期の“強み”は過去ではなく未来に求めよう」 #マーケの落とし穴 05
会社の創業期は、0→1の生みの苦しさを味わい、過酷なプレッシャーにさらされ、経営者をはじめ多くの人が不安の大きな時期です。
事業が立ち上がっていない創業期は、事業のお金がまわるかどうか不安な最大の危機でもあるのですが、見方によっては、過去からの慣習や、さまざまなやり方を変える最大の機会でもあります。
今回は、そんな創業期に「自社の強み」を設定する際の機会と落とし穴について。
創業初日の「会社の強み」は、創業メンバーの能力・経験・信用しかない
よほど優れた企業の子会社として設立でもされない限り、会社の創業一日目に存在する強みとは、創業メンバーの能力・経験・信用しかありません。
それは会社の強みというよりは、創業メンバーの強みであって、会社の強みに昇華していない状況、つまり会社としての強みがない状態です。
この創業期に「会社の強みをどうするか?」を考え、仕込むのは大変重要です。
「創業期の会社の強み」とは、顧客視点から言い換えれば「わざわざ創業間もない、実績もない会社から、商品・サービスを買う理由」とも言えます。
これを考えずに、創業メンバーの強みだけで無邪気に戦っていると、創業メンバーと個人的な信頼関係があると呼べる顧客への営業挨拶が一周したあたりで、新規受注・売上が途絶えることになります。
既存の知り合いから
「Aさんなら、信頼できるから商品・サービス買うよ」
ではなく
自社を知らない新規の会社から
「そういう強みがあるなら、おたくから商品・サービスを買うよ」
と言われる状態が、“会社として強みがある”と、市場から認識され、既存の知り合いに頼らずに新規顧客を開拓できる基盤になります。
会社の強み、大事です。
過去から慣れたもの、実績あることを”会社の強み”にしたくなる落とし穴
創業期の会社は、錆びついた社内習慣もなく、真っ白なキャンパス同然で、これほど新しいことをやるのに適しているタイミングはありません。
新しいことをやるときの壁は、多くの人を雇っていて人件費などの固定費が大きな組織だと、なかなか自社のコストをまかなう売上見込みが見えず、やりにくくなることにあります。要するに、新しいことが事業として収支が成り立つ金額のハードルが高いのです。
つまり、創業間もない会社は、組織としての過去慣性~過去の成功体験がなく、固定費も小さいため、新しい事業の強みを打ち出し、試行錯誤しやすいボーナスステージ期間といえます。(もちろん大半の現金残高に余裕のない会社は、キャッシュフローに余裕がなく、そこは新しいことが試しにくい面もあるのですが・・・)
人は、不安になるほど、自分が成功した経験に戻っていきがちです。
創業時は不安が多い時期だからこそ、過去に一定レベルでうまくいくと検証された方法にとびつく傾向があります。
ただ、創業期は新しいやり方を、”相対的には一番楽にやれるボーナスステージ期間”とも言えるので、これを逃すのはシンプルにもったいないのです。
多くの会社は、自分たちの理想を描き、理想から逆算した強みを戦略的に仕込むことを創業期にやるのは怖いと感じています。でも、これは創業から年数が経ち、歴史を積み重ねるほど、組織の習慣と固定費が積み重なり、転換は更に難しくなります。
創業期に新しい考えの強みをつくり、それに沿った商品・サービスや業務プロセスをつくりこむのは大変そうですが、会社が大きくなってからより楽な面もあるのです。
創業は「自分の考える新しいやり方や価値を市場に問う」絶好の機会
誰もが、何かの事業、商品・サービスに関わっていたら「本当は、もっとこうやったほうがいいのに」「もっとこう考えたらいいのに」と思うことはあります。
うまく言語化ができていなくても、少なくとも「これが一番の正解じゃないよな」と思いながら惰性でつづけてる判断や業務程度はあるはずです。
それこそが、創業者が新しい会社でうちだすべきビジョンや強みのヒントであり、強みに昇華させるべき素子です。
その小さな気づきの素子を、磨きあげ、市場・顧客から共感が得られるようなメッセージと解決策に昇華できたとき、それは「創業メンバーへの信頼」を超えた「会社の強み」となります。
「会社の強み」が市場の多くに認知されると、それはポジショニングと形容されるものになり、単に事業規模や価格ではない、別の理由で選ばれ、後発でも価格競争をせずに済み、超過収益を得る源泉になります。
創業は、キャッシュが尽きたら会社が潰れるため、キレイごとだけでは経営はできません。ときに食いつなぐために、ベストではないベターを選ぶことがあるのも、また経営のリアルです。
ただ、創業期こそ、新しい考えややり方で事業をつくる最大の機会なので、そのステージにいらっしゃる方がいたら、目の前の不安に負けず、ぜひチャレンジされてみてほしいと思って書きました。
他人へのエールのように書いていますが、私もまた、自分が代表取締役を担うインサイトフォースの経営だけでなく、別の新しい会社の事業立ち上げにおいて、いかに過去慣性にとらわれず、市場・顧客に貢献できる新しいやり方があるか?を現在進行系で考えている真っ最中です。
つまり、自分で自分に向けて励まして書いている面もあります。
創業期はタフで大変ですが、ぜひ読者で創業期の方がいらっしゃったら、勝手ながら私と同志と思っていただき、一緒に頑張りましょう(笑)
落とし穴と、それを避けるポイント-------
創業期は、忙しさや不安から、過去の自分の成功体験や、市場で成功が検証された方法論で事業の強みを組み立て、後発参入の市場でポジショニング形成が難しくなる落とし穴がある。(過去に市場で成功が検証された強みは、すでに他のプレイヤーがブランド想起を持っていることが多いため)
落とし穴を避けるためにには、事業の強みは、過去の成功体験に基づくものではなく、過去に自分が感じた違和感の素子を整理し、それを解決するような考えややり方を昇華させた「新しい強み」を設計し、仕込んでいく。創業期は、市場に自分の仮説を問いやすいボーナスステージと捉える。