記事から 人材獲得競争の原理 2024年4月22日
人材獲得競争は、組織間の制度を平準化する作用を持つ。
弱い組織は強い組織の制度に近づく努力をする。そうしなければ、応募者を振り向かせることができないからだ。
例えば明治時代の場合は、民間が役所の制度に近づこうと努力した。
職務によらない官等給、新卒一括採用、学校成績主義、数年ごとの異動による昇進昇級という年功賃金制、総合的人物評価、定年制、退職金制度。
これらは元は公務セクター(官庁・軍)の制度だ。
採用力に劣る民間企業は、官庁と遜色ない職場であることを応募者に示す必要があった。そのために、官等給(身分給)、数年ごとの異動、それに伴う昇進昇級、年功賃金制、退職金制度などが取り入れられた。
新卒一括採用は官庁による帝大生の優遇から始まっているが、官庁がそのような行動に出るとすると、民間企業においても帝大生の獲得競争に勝るためには新卒者の予約を早期に行う必要があった。そうやって新卒一括採用が定着していく。
学校成績主義は官庁にも軍隊にもみられた。ただしこちらは進学率の上昇によるスクリーニング機能の低下により重視されなくなった。相対的に、人物評価のほうが企業にとって重要になっていった。人物評価は軍隊の評価法であり、徴兵経験のある成人男性ならなじみ深く、民間にも波及したものだ。考課という言葉も海軍からきている。
(『日本社会のしくみ』(講談社現代新書2528、小熊英二)第4章、第5章より)
明治時代とは逆に、本記事では、
「民間志望者も受けやすいように社会や人文といった教養試験を廃止」
「1次試験は民間の採用試験で用いられる「SPI」などに近い内容とする」
とあることから、役所が民間の制度に近づく現象が認められる。
現代では役所のほうが採用において劣勢に立たされているということだろう。
役所の他の制度も民間に近づいていくのだろうか、という点が一つの観察ポイントとなるかもしれない。
さて、もう一つの論点として、人手不足の組織に就職することの意味を考えなくてはなるまい。
応募者が歓迎され、試験も簡単になるというのは、まさに売り手市場という様相であるが、それでも応募者の数が振るわなければ、合格者は人手不足の組織に就職するということになる。
ワンオペ業務に近いような過重労働に陥らないか、研修・教育がおざなりにならないか、そういった心配はありうるのではないかと思う。
職場のほうも、「人を入れて解決」ではなく、業務を効率化したうえで人を入れる、という発想でなければ人材定着に至らないのではないか、などと思った。
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