デジタル先進国デンマークはどのようにCOVID-19と戦っているのか:ガバメントDXの第一人者が(ざっと)教えてくれました
ガバメントDXに関する大先達として、黒鳥社・若林恵が、何度も教えを乞うてきたデンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンが、あまり日本では語られていないデンマークのコロナ対策を、デジタルテクノロジーの活用という観点を中心に教えてくれた。世界に名だたるデジタル先進国に、日本はいったい何を学ぶことができるだろうか?
インタビュー収録:2020年4月7日19時(日本時間)
Photo by Thomas Peham on Unsplash
クリスチャン・ベイソン|Christian Bason
デンマークデザインセンターCEO。1998-2006年までRambøll Managementにてコンサルタント、ビジネスマネージャーを務めたのち、2007-2014年にデンマーク政府のイノベーションチーム「MindLab」のディレクターを務めた。World Economic Forumの「Future on Agile Governance Council」のボードメンバーやEUのパブリックセクターイノベーションの専門家組織の長を務めたほか、デザイン、イノベーションとマネージメント、ガバメントイノベーションの専門家として7冊の著作がある。主著に、"Leading Public Design" (2017)、"Form Fremtiden"(Shape the future;2016)、”Design for Policy”(2014)、"Leading Public Sector Innovation" (2010)など。
デンマークデザインセンター|Danish Design Center
国が出資する半官半民の組織で、行政・ビジネスセクター双方に向けてデジタルトランスフォーメーション、デザインシンキング導入のためのコンサルティングやリサーチを行う。
──デンマークはいかがですか?
奇妙な感じですね。すべてがロックダウンされている状態ですから。ただ、ありがたいことに危機からは脱却しつつあります。疫病に関してはアンダーコントロールなようです。実際、入院患者数はすでに減少しています。徐々に正常に戻す動きになっていまして来週には学校の一部を再開する予定です。
──速いですね。
国をシャットダウンしたのが 3月11日ですから、たしかにかなり速いですよね。
──ほかの北欧諸国はいかがですか。
スウェーデンはデンマークとは異なるアプローチを取っていまして、シャットダウンということについてはかなり鷹揚でした。デンマークと較べるとはるかにリラックスしていました。街もいつも通りでしたし、人も集まっていましたが、現在スウェーデンは、入院者数も増えて、人口当たりの死亡率も上がっています。もちろんどういうアプローチが最良なのかを即断ですることはできません。長期的に見て何が一番適切かというのはなかなか見えづらいですよね。より多くの人が感染することで集団免疫が獲得されることが望ましいという考え方もありますから。最善のアプローチがどれかというのは難しいかと思います。
──デンマークのアプローチは、どの国のアプローチに似ているんでしょうか?
ある意味日本に似ているようにも思うのですが、どうでしょう? 日本も非常に迅速に学校をシャットダウンしましたよね。デンマークのやり方は、すべての公共機関、すべての学校、すべてのショッピングモールなどをとにかく早い段階で閉鎖するものでした。継続して営業しているのは民間企業の一部のみです。
──日本は学校は閉鎖しましたが、あとは基本「要請」に基づく自粛でしたので、ちょっと違うかもしれません。
コンサートについてはどうですか?
──コンサートも「要請」があっただけで基本、会場や興行主の自主的な判断ということですね。
デンマークでは、コンサートなどは 5月10日まで禁止が延期されました。すべてのショッピングモール、ホテル、コンサート会場、劇場、映画館は5月10日まで閉鎖です。
──なるほど。
通常状態への回復に向けて、徐々にゆっくりと進んでいる感じです。新たなアウトブレイクを防ぐと同時に、医療システムへの負担を避けるためには慎重な回復が必要ですが、そのおかげで現在、医療システムにもだいぶ余裕が生まれています。病床数にも余裕があります。逆に、政府はあまりに強く国民生活に規制をかけすぎたのではないかという意見があるくらいです。
上から、デンマーク政府保健当局・警察・ビジネスオーソリティのウェブサイト。COVID-19に関する国の発表では、検査人数58097人 、感染者数5402人、回復者1621人、死者218人、致死率 4.0%。人口は約581万人(2019年デンマーク統計局/兵庫県とほぼ同じ)
──デジタル方面での取り組みは、どのようなものがあったのでしょう?
患者のケア、感染の拡大を防ぐことはもちろんですが、行政の重大な仕事は、同時に、いわば流れている血を止めるところにありました。つまり、非常に多くの企業を閉鎖していますので、企業が労働者の給与を支払うことができるような財政支援を行うことが政府のいの一番の重要な仕事となりました。さまざまな行政支援プログラムを上手に管理し、企業が円滑に申請ができ、スムーズに援助を受けられる体制をつくることが、まずはデジタルを用いた主要な取り組みとなっています。とはいえ、これは今回の事態によって新たに必要になったものではなく、長年やってきた行政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)の延長線上にあるものです。これまでつくってきたシステムが、今回の事態にあっても非常にスピーディに機動力をもって活用されました。さらに重要なのは、COVID-19に関連するものだけでなく、あらゆる行政サービスの運用の方法ですね。デンマークでは、今回の事態が、おそらくすぐには終息はしないと考えられています。であればこそ、この危機の時間は、デジタルによる適切な社会運営の方法を探るための、長い移行期間であると見なされています。
デンマーク政府は民間企業に対して75%の給与を支援。支援期間は3月9日〜6月9日までの3カ月。同時に、メッテ・フレデリクセン首相は全てのワーカーに対して5日間の強制休暇を命じた。
──ご自身の組織「デンマークデザインセンター」においても大きな変化はありましたか?
私たちの組織も含めた行政府の一部では、デジタル化の準備がすでに十全に整っていました。職員たちはどこからでも仕事をすることができますし、それを遂行するためのツールも使い慣れています。ですから、デンマークデザインセンターでは、私たちがこれまで行ってきた業務のほとんどすべてをオンラインで提供できることが今回の事態の中で明らかになりました。ワークショップやデザインスプリントやビジネスプログラムなどをオンラインで提供することが可能であることが見えました。とはいえ、デンマークの公的機関のなかでも雇用サービスや現場のあるサービスは在宅での作業は困難ですから、そうした仕事をきちんと後押しするためのデジタル化が求められている部門は、デンマークでもまだ少なからずあります。デジタルのポテンシャルが100%有用化されているとはまだまだ言えませんが、デンマークにおいては、今後さらに政府内のデジタル化を推し進めていく必要があるという認識に達しています。この考えは、おそらく今後しばらくは変わることはないでしょう。
──感染者の追跡にデジタルテクノロジーを用いるような施策はありますか?
デンマークの保健当局は、感染者について得たデータは、もちろんすべて公開しています。とはいえ、いま一番求められているのは検査に関する情報です。これにはパブリックテストによる情報と自己申告のものとがありますが、その双方を収集することでウイルスを保有している実際の人数を明確に把握できることになります。こうした自己申告の情報を得るべく、行政ではなく、民間部門によるアプリがこの間提供されました。感染者の足取りを追跡したり、病状などを自己申告をするためのアプリです。これらのアプリの利用を、国として後押しするのかどうかをめぐっては、保健当局のなかでも多少の悶着はあったようで、結果として彼らは自分たち自身で開発したアプリを近々発表することにしたようです。国が信頼性を担保するものになりますので広く使われることになるのだろうとは思うのですが、いずれにせよ、それが先行する民間のアプリからヒントを得たものであることは間違いありません。
──国の動きは民間と比べると、やはり遅かったわけですね。
なぜ国がこうしたアプリの開発に遅れを取っていたかといえば、やはりプライバシーをめぐる問題があるからですね。先行するアプリはGPSを使ってトラッキングを行うものでしたから、当然プライバシーの問題が議論に上がります。それは当然避けては通れない問題で熟慮を要するものですから、必ずしも政府の動きが遅かったとは言えないかと思います。
──民間のアプリとは具体的にはどのようなものですか?
自分の病状や症状を自己報告できるアプリは、Facebook上のアプリケーションですね。もうひとつは大学の研究所で開発された感染者の行動をトラッキングするもので、さらにそれにBluetoothで陽性と診断された人との接触履歴を記録することができる機能も搭載されました。これは、Bluetoothを用いますので、位置情報は記録されず、最も近い場所のわずかな周辺データだけを記録していきます。
EUやインドが開発したBluetoothを用いたトラッカーアプリ
──こうしたアプリによって集められたデータは、その後、誰が管理してどのように扱われるのでしょう?
そこが、若干曖昧なんですね。 Bluetoothモデルのものは自分が理解している範囲では、どこかの中央データベースに記録されるものではなく、個人が自分のデータを管理できるシステムになっているはずです。ご存知のように、デンマークでは、すべての市民に個別のID番号が割り当てられています。ですから、こんな話をすると中国みたいだと思われるかもしれませんが、警察が全国民にテキストメッセージを送ることができるのです。デンマークではすべての成人に、パブリックコミュニケーションを行うためのメールアドレスを割り当てられていますので、国民の全員の受信トレイにプッシュ通知を行うことができます。 これは、デンマーク政府の公式文書文書および銀行業務や金融取引の受信箱として利用されているものです。こうしたツールを通じて、行政符と国民がコミュニケーションできるようになっているわけです。ちなみに、ロックダウン後の最初の週末には、警察から全国民にメッセージが配信されました。
──そのメールボックスはデジタルIDにリンクされているということですよね。
そうです、デジタルIDに紐づいています。デンマークでは、すべての国民がデジタルIDを持つことが義務付けられています。デジタルIDがないと、デンマークの市民になることはできません。それに付随する形でメールボックスと銀行口座が必要となります。
──警察が国民全員にメッセージを送ったというのは、その仕組みを通じてですか?
今回の場合は非常に稀な特例で、電気通信事業者と共同で行われました。警察がそこまでのアクセス権限をもったのは歴史的にも初めてのことだと思います。とはいえ、送られてきたメールは、「週末は変わらず週末です。ただし10人以上での会合は避けてください。お互いを思いやって、良い気候を楽しんでください。良い週末を」という、とてもフレンドリーなものでしたが、これまで体験したどんなものよりもビッグブラザー感のあるものではありました。
──日本では政府が通信業者にデータの提供を求めたところ、強い反発の声も上がりました。
当然の懸念ですよね。ただ、その一方で、オーウェルの『1984年』的な状況を支持する声も高いのです。今回のような危機のさなかにあっては意思決定の集中化は迅速な意思決定をもたらすものでもありますし。実際、政府への支持率はこれまで最も高く、首相と政権与党の支持率も過去最高となっています。
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──保健当局が独自のアプリを作成しているとのことですが、省内にデジタルチームがいるんでしょうか?
詳しいことは私はわかりませんが、デンマークには地域ごとに医療システムがありまして、病院を運営しているのは地方自治体となります。ですから、国と地域の間、そして地方自治体の間の相互的なリレーションが緊密にあるはずです。ただ、私の憶測では、保健当局が自らデジタルアプリのようなソリューションを構築する能力はそこまでないのではないかと思います。民間部門との連携もそれほど強くないと思いますし。
──政府全体についてはどうですか? デンマーク政府はデジタルトランスフォーメーションのための専任の省庁があったと記憶していますが。
デジタルトランスフォーメーションを担当する部門はありますが、中央政府のなかにあるものは、どちらかといえば戦略的な役割をもった組織で、オペレーションや実装を担う部門ではありません。おそらく行政内で最もデジタル化を強く推進している組織は、ひとつはテックサービス部門で、ここは約2000人のデジタル開発者を抱え、行政システムの大規模な開発機能を持っています。もうひとつは、先に述べた経済支援を行うビジネス当局で、ここも、かなり強力にソフトウェア開発を推し進めています。彼らも時と場合に応じては外部のサプライヤーを使うこともあるかとは思いますが、今回の事態のなかで外部に頼らずとも多種多様なシステムをつくりあげるキャパシティがあることが判明しました。現在、国内のスモールビジネスをいかに救うかが重要な課題となっていますが、その解決にあたっての彼らの功績は際立っています。非常に効果的なソリューションを提供できていることが証明されました。彼らは、この3週間、24時間体制で休みなく働いています。
──ちょっとこれは細かいテクニカルなことですが、行政府内では、たとえばリモートで会議やセッションを行う際には、どのようなツールを使っていらっしゃるのでしょうか。
行政府内では、基本「Microsoft Teams」が利用されていることが多いかと思います。わたしたちの組織内では「Slack」が大変役に立っていますし、ワークショップにおいては「Mural」を頻繁に使用しています。そのほか、オンラインでの支払いや請求や勤怠管理といったこと業務に関しては10-12くらいのシステムを使用しています。今回の事態のなかで、どのツールが役に立ち、どれがそうでないかといったことが明らかになっていますし、必要不可欠なものがどれかも明らかになってきています。そうしたなかでもSlackは非常に有用性が高いですね。現状における課題としては大規模なブレーンストーミングやワークショップなどを、こうしたツールを用いていかに執り行うか、というあたりで、さまざまな試行錯誤をしているところです。
──セキュリティの観点から脆弱性が指摘されているツールもあります。
この間「Zoom」の利用が世界的には増えているかと思いますが、少なくともデンマークにおいては、今後はMicrosoft Teamsがスタンダード化して行くのかなと思っています。セキュリティの問題が出てきたこともあって、行政府内でも、すぐにではないとは思いますが、Teamsか、あるいはSkype for Businessの利用が広まるのではないかと思います。いずれにしましても、物事が急速に動いていて、ツールの取捨選択について行政が「これは使っていい・これはダメ」といった判断をできる状況でもありませんから、対応は実利的なものとならざるを得ません。ですからプライバシー上の懸念から、さまざまな批判や提案が行われるのは当然のことだと思います。
──国外における取り組みなどはどのように把握されているんでしょうか?
オフィシャルなレイヤーにおいては、EUを通してさまざまな情報交換が行われているかとは思いますが、もっと身近なところでは、たとえば私などは「State of Change」というグループと情報交換をしています。ここは元々は英国のイノベーションラボ「Nesta」が運営していた組織ですが、現在はスピンオフして独自で活動しています。彼らは行政のデジタル対策に関するさまざまな情報を交換している有力な人びとのネットワークをもっていて、Twitterでもたくさん情報発信していますのでフォローしてみるのをおすすめします。私はここのwhatsappグループにも所属していますが、日々非常に緊密な情報のやり取りが行われています。そうした関係性のなかから、私は先週の日曜日にオーストラリアのニューサウスウェールズ州の方々に向けて、デジタル政府に関するオンライン講演を行いました。
──オーストラリアの方々の興味の焦点はどこにあったのでしょう?
いま行政関係者にとって重要なテーマになっているのは「イノベーション・ディビデンド」(Innovation Dividend)です。データや既存のテクノロジーを用いることで、いかに行政府の効率をあげていくかということですが、このことに強い興味が持たれている理由は、今回の事態によって、行政府が劇的な効率化をいきなり要求される危機的な状況に追い込まれてしまったからです。また、今回の事態に対する重要な答えのひとつが「デジタル」だからでもあります。デジタルを前提とした新しい思考様式が試されているわけです。今回の事態のなかで行政府は、通常であれば開発に3年かかるものを3週間でつくらなくてはならないという経験を迫られています。世界中のあらゆる行政府が、スピーディにデジタル化を図らなくてはならないエクストリームな局面にあって、多くの国の行政府は、それに果敢に取り組んでいます。
コロナ危機がもたらしたあらゆるリフォーム、行動変容、イノベーションを、社会的、経済的、制度的、環境的、そして個人的な側面から向上させるために持続的に保持していくことを謳った論考。「Covid Dividend」というキーワードが提出されている。
ベイソン氏が最近行ったオーストラリアで行なった講演の動画。タイトルは「ワールドクラスの公共サービス」
──特に活動を注目をしている国はありますか?
デンマークはこの間、世界で最もデジタル化が進んだ国のひとつとしてランキングされてきましたが、今回の危機にあっても、そのことは証明できたのではないかと思っています。行政府や財政支援機関の動きは非常に滑らかなものでしたし、私自身もつい先ほど政府の方との予算会議に参加してきたのですが、なんの滞りもありませんでした。世界的にみると、台湾やシンガポールのスピード感には目をみはるものがあると思っています。北欧の友人たちのなかではフィンランドもユニークです。彼らは、第二次大戦時にロシアによって侵攻された苦い経験を持っていますので、二次世界大戦以来ずっと第三次世界大戦に備えてきていたのです。そのおかげで彼らの医療部門は機器の面でも非常に優れた装備を十分に蓄えていました。加えてデジタルという面でも進んでいます。またオーストラリア、ニュージーランドもデジタルの使い方は優れているように見えます。一方で米国については、GoogleなどのIT巨人を筆頭に民間企業の動きに目が行きますね。
──コロナ対策はただでさえ非常に集権的な対策が求められるものですが、そこにデジタルテクノロジーが関与することで、さらに集権化が強まるのではないかという懸念もあるかと思います。こうした懸念を払拭する上でも行政府と国民の間の「信頼」は不可欠なものだと思うのですが、いったいどうしたら十全な信頼関係を築くことができるのでしょう。
わたしがいま言及しそびれた国のひとつが、デジタル化の哲学的側面において重要な視点を授けてくれるかと思います。プライバシーと市民の権利の保護という点で、最もエクストリームな国はエストニアです。エストニアのCIOの話を聞いてみることができたなら、おそらく、プライバシーについて、データの個人主権ということについて、より深い洞察を得ることができるかと思います。彼らの思考は深く、非常に鋭いものだと思います。一方のデンマークは、エストニアと比べると、より実利的、プラグマティックな考え方に立脚しています。先ほどお話したアプリはデンマークの大学で開発されたものですが、Bluetoothを使用することで、GPSを使った追跡が引き起こすプライバシーの問題をいくらか緩和することができます。こうした新しいモデルが現在いろいろと試行錯誤されている真っ只中ですが、いずれにせよ、そうしたものを実装するにあたっては、信頼は絶対的に重要です。私個人の経験からも、そしてデンマークが国として積み上げてきた経験からも、透明性が高ければ高いほど説明責任が高まり、信頼も高まります。
──透明性ですか。
データにおける透明性を実現するためには、まず利用をめぐる原則が明確に示され、データがどのように保護されるのか、どのように利用されるのかが厳密に明確化され、それが正しく運用される必要があります。デンマークには民間・行政を問わずデータ利用を監視する非常に強力なデータ保護機関もあります。デンマーク政府は、国民のデジタルIDを管理しているため、すべての人のあらゆるデータを取り扱うことが可能ですが、当局間のデータ共有には明確な制限があり市民の合意なくやり取りをすることができないようになっています。これにさらに、EUのGDPR規制によって、より強力な規制がかけられてもいます。
──幾重にも安全性が考慮されているわけですね。
はい。現在のこの危機にあって、政府は、市民の基本的な権利を政治的に停止することが可能な状態にあります。であればこそ、わたしたちは注意深くものごとを進めなくてはなりません。デジタルテクノロジーを使うことで、よりよいサービスを提供することが可能にはなりますが、同時に、ここで政府も国民も、自分たちが依って立つ信念を試されることになります。忘れてはいけないのは、この混乱のなかで起きることは数週間もたてば過去になるわけではなく、わたしたちの社会を長きに渡って拘束するものになりうるということです。危機的状況の中で下された決定が、危機を過ぎた後も消え去ることなく残り続けたケースは、歴史のなかにたくさん見ることができるはずです。
──長期的な視野をもった決断が必要ということですね。
そうですね。同時に、トップリーダーである首相がどのような座組を用意して、どのように関係当局を統合していくのかというのも極めて重要です。デンマークでは、首相が保健当局、ビジネス当局、そして警察のトップとともに記者会見を開きましたが、この記者会見を通じて、国民の健康・経済・治安における安全安心が首相の元で一体となって保障されるのだということが表明されました。力強いステートメントだったと思います。
──今回の事態のなかでテレビや新聞社といったメディア企業はどのような役割を果たしたのでしょうか。有用な機能を果たしていますか。
最新のニュースとデータを共有することで、市民に対して情報の透明性を確保するという面において、まずは大きな役割を果たしています。と同時に、彼らはまた専門家のアドバイスを社会に提供するという役割も担っており、これは行政が適切な戦略を策定する上で重要な示唆ともなるものです。メディアは、行政府のひとつひとつの選択やその長期的な戦略について、それが理にかなっているのかどうか、絶えず政府に圧力をかけ続け、政府の判断が、本当に疫学的なものなのか、あるいは単に政治的なものなのかを厳しく追求してもきました。たとえば、デンマークが国境を封鎖した際には、それが決して疫学的な措置ではなく、政治的な決定であったことを鋭く批判しました。興味深いことにデンマークではこの間野党は非常に静かで議会でも全会一致となることも少なからずあります。野党が大人しくしている間、メディアは、メディアが果たすべき役割をきちんと果たしているかと思います。
──お忙しいなか貴重なお時間をありがとうございました。
こちらこそ。近い将来にまた日本を訪ねることができることを願って、皆様の健康をお祈りします。
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