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冷静と笑いで「たのしいお産」を

先日の話。
久しぶりに「たのしかった!」と言えるようなお産をサポートさせていただきました。

その余韻がじわじわと後を引くうちに伝えたい。

お産は痛いし、怖いかも知れない。だけどそれだけではありません。
世の中の女性ほとんどがお産を怖い思っているはず。
そんなみなさんの一筋の光になってもらえたらと、助産師が感じた「たのしいお産の世界」へとご案内しましょう。



お産が停滞していた産婦さん

先日お会いした産婦さん、受け持った時にはすでに微弱陣痛でお産が停滞している状況でした。

産婦さんは約1日、陣痛間隔も10分以内ではあったけど、なかなか縮まらず、ダラダラとつづくという微弱陣痛と闘っていました。

大きな病院だったら分娩促進剤使用の適応になるようなケースですが、クリニックは違います。
お腹の中の赤ちゃんが元気であれば、お産は自然ですから、そのまま経過を見守るしかないのです。

その産婦さん、夜眠れなかったぶん、しっかりとご飯を食べて、寝て、それから三陰交を温めて、スクワットをする・・・お産をすすめるためにできることを色々と試していました。

子宮口はジワジワ開いていたのですが、どうしても加速がつかない。
赤ちゃんを生みだすチカラである陣痛が、どうしても強くなりません。

だけど、弱音ひとつも吐かず、陣痛の間は休めています!ウトウトできています!と笑顔で応えてくれるのです。


冷静だった産婦さん

なかなか子宮口が全開(10㎝開くこと)にならず、普通だったら「もう嫌だ」「帝王切開にして」「助けて」と泣き叫ばれるような状況にあったのだけど、なぜかその産婦さんは違っていました。

なぜ進行がゆるやかなのか、その理由を私が説明すると、「そうですよね、間隔開いてますよね」と陣痛が弱いことを受け止めていました。

「大丈夫です。ウトウトしてます。」
「少しづつ食べています。」
「水分も摂っています。」

先の見えない不安があろう中、「今」の状況を自分なりに受け止め、パニックにならない姿は、脱帽。

なぜ、そんなに冷静でいられるの?と、感心してしまうほど。
それにはご本人のパーソナリティーだけでなく、絶妙な存在があったのです。


冷静なパートナー

絶妙な存在とはパートナーであるご主人。
このご主人、感心するくらい素晴らしいサポーターでした。

暑かろう、感染予防のためにガウンにマスク、帽子をかぶってのサポートでしたが、産婦さんが痛いときには腰をさすり、おさまると休憩する。
水分や栄養を声を掛けながら上手に補給してあげている。
肩の力が抜けた、黒子度ハンパないナチュラルなサポートでした。

ゆるやか過ぎる進行にも、まったくイライラせず、ただただ寄り添う。しかも冷静に。

基本、サポートするご主人の方が熱くなりすぎたり、冷めすぎていたりで、陣痛のたびに動揺して助産師がそばにいないとナースコールしてくるというパターンが多いのですが、このご主人は自然体。

お陰で、私もおふたりの呼吸にあわせてつかず離れずのサポートすることができました。

現在、コロナ禍で立ち合い出産が制限されていますが、その影響なのかコロナ自粛のせいなのか、悲しいかな「産後うつ」の発症リスクが高まってきました。私のはたらくクリニックでは、予防の一環として立ち合いはご主人のみ、出入りは一度きりとして立ち合い出産を解禁しています。(臨月から毎日検温記録してもらっています)


ゆっくり過ぎる進行

ゆっくり過ぎるお産の進行だったので、私の勤務ではうまれないと予測していました。
高位破水してから時間も経っていたので、うまれなければ翌日の朝から促進剤使用の指示が出おり、きっとそれまで進まないだろう。子宮口の全開を確認してしまうと、遷延分娩問題が浮上するので極力内診するのはやめよう、外診で判断しようと決めていました。それほど陣痛が弱かったのです。

23時頃、変化があまりなかったのですが、受け持ってから一度も内診をしていなかったので、赤ちゃんの回旋をみるためにも一度診察をしたのですが、思った通り進行しておらず、また、赤ちゃんの頭も下がっていないし、産道が滅茶苦茶狭かった。

やっぱり朝までコースだ・・・・そう確信したのです。


予測を超えた進行

日付を超えてしばらくすると、急に陣痛の間隔が短く、強くなりだしました。子宮口が8㎝も開いているのに、4㎝開いている程度の産婦さんの呼吸が、突然荒く、声も出るようになったのです。

ご主人も腰をさするだけでなく、お尻を圧迫するようになります。

お?
ちょっといい感じ?

と思ったのも束の間、カラダの向きを変えた途端、またもや陣痛が間延びして、声が出なくなったのです。

産婦さんも、痛みが強くなったけど、向きを変えたら落ち着いた。ちょっとしんどかったから、この向きでしばらく温存するといいます。
状況判断をちゃんとしているなんて冷静過ぎる。すごいなぁと感心。

それでもお産が進むような状況ではなかったので、ちょっと退室して他の仕事をさせていただいていました。
しばらくすると産婦さんから珍しくナースコールがきました。

「破水したかも」

内診すると完全破水しています。
赤ちゃんの頭もだいぶ下がってきていました。
だけど子宮口はまだ全部開いていません。

そうこうしている間に一気に陣痛が強くなり、いきみたいけどいきめない状況に入ってきました。いきなりの急展開・変化です。

声も出てきます。
その日は両サイドの部屋に、計画分娩の方2人がいらしたので、声にビビってしまうかも・・・と、分娩室に入ることにしました。


念願の分娩室で

「力が入る~!出したい~!」
に、まだ子宮口が全部開いていないからいきむと中が切れちゃうよ、赤ちゃんも苦しくなるよと声をかけると

「分かりました。呼吸ですね。」
と、返ってくる。
その冷静さに思わず笑ってしまいました。

いよいよ子宮口が全開となって、分娩体位をとり、呼吸にあわせていきみをはじめると、これまた赤ちゃんが下がってきて頭が見え隠れするけど、出てくるにはまだまだかかります。

その合間にも産婦さんは「お腹すいた」「眠い」をくり返し、その冷静さと余裕っぷりに私たちの爆笑をかっさらっていきました。

いよいよ先生を呼び、お産だよって頃には、産婦さん自身が「もう切りましょう」と会陰切開を指示。そこにいた全員が爆笑です。
「切ってーーーー!」「ムリーーーーー!!」のパターンはあるあるですが、産婦さんから会陰切開を指示するのははじめてです。

「もうちょっとがんばって」と言っていた先生すら笑い、希望通りに切開し、元気な赤ちゃんが誕生したのです。


たのしいお産

なかなか進まないお産は、ココロが折れそうになることが多々あります。

そんな中、産婦さんとご主人は、冷静さと笑顔を保ち続けていました。
きっと無意識だったと思います。普段のふたりがそうなのでしょう。

私は、朝まで進まないと思っていたことを謝り、2日間近くの頑張りをねぎらいました。(ホント、ごめんなさい)


そんな会話ですら笑いの渦。
笑顔は伝染しますね。
分娩室は笑いでいっぱい。


こんなお産は久しぶりで、私も高揚したのですが、その場にいたナースさんも「たのしいお産だったね~」とたずさわった全員が感じていたのです。

この産婦さんが、お産への恐怖や不安を全く感じていなかったとは思いません。恐怖や不安が拭えなくても、支配されずに向き合えれば、環境はどうにでもなるんだなって思えるようなお産でした。

自然に産みたいからフリースタイルで
会陰部切開なんて医療行為はナンセンス

かたや

痛いのが無理だから無痛分娩で
産ませてもらえればおまかせでいい

と、考え方は色々あります。
どちらも否定しません。
お産はお産ですから。

ただ、恐怖をすべて取り除くことはできないということ。
それにどう向き合うのか、その軸さえブレなければ、場所や手段がどうであろうとも、たのしいお産はできるのです。


笑いの効果

これ、科学的にも証明されています。

ヒトはストレスがかかると、ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されます。
このストレスホルモンは、リラックスした時に分泌されるしあわせホルモンオキシトシンやセロトニン、脳内モルヒネエンドルフィンを抑制します。

この状態が続くとどうなるかと言うと

免疫力の低下
血糖値の上昇
交感神経の緊張から心と身体に負の作用

病気になっちゃうというワケ。


反対に、笑いや笑顔は免疫力をアップさせます。
深呼吸で酸素を体内に取り込むと、ストレスホルモンは徐々に減少し、リラックスしていきます。

副交感神経が優位となりリラックスすると
脳内モルヒネであるエンドルフィンが分泌されやすい状態になります。

笑顔で過ごすことは病気の予防にもつながるのです。


エンドルフィンが十分に分泌されるとアスリートが良く言うゾーンに入った状態、すなわち感覚が研ぎ澄まされ、素晴らしい能力を発揮するような状態になります。

お産の場合にもこのエンドルフィンが作用します。

先日の分娩室では、産婦さん、ご主人、そこにいたスタッフ全員からしあわせホルモンが笑いによって分泌されていました。

「たのしいお産だったね」と全員が共有できたのは、産婦さんだけでなく、その場にいたひとりひとりの笑顔だったのかも知れません。

そんな場を提供し続けたいと思うけど、それには産婦さんのマインドが鍵なんです。

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長くなりましたが、いかがでしたか?
たのしいお産、しあわせなお産は、あなたにもできます。

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罫線優しさ系

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助産師ゆかり
パラレルキャリアをもつフリーランス助産師です。歩くパワースポットと呼ばれるくらい幸運体質な私が、妊娠/出産/子育て/女性の健康/の情報発信と日々のくらしのよしなごとをエッセイでつづっています。サポートしていただけたら最高にうれしいです!