「ソウル動物映画祭」(SAFF)でプレゼンターを務めた話④
韓国で開催されていた「ソウル動物映画祭」(SAFF)にてプレゼンターを務めさせていただいたので、4回に分けてレポートを書いてきました。
今回は、その締めくくりです。
上映へ至る過程は、こちらからお読みいただけます。
メガボックス弘大2に到着した際の話。
『ねこさがし』の構造と当日のプレゼン内容。
「自分の斧を持つこと」について。
最後に、「ソウル動物映画祭」(SAFF)についての、私の個人的な印象などを述べたいと思います。
世の中には映画同様、映画祭もたくさんあります。しかし、中にはあまりしっかりしてない映画祭もあります。(「映画の細胞」も現状アナボコだらけなので、あまり他所のことはいえないのですが……)
私の場合、招待などがあっても、それが一斉送信メールの形式できた場合には、基本参加しないことにしています。(一斉送信メール自体が悪いとは思いませんが、問題を起こす団体及び個人は判で押したように一斉送信メールを使いたがるので)
その点、「ソウル動物映画祭」(SAFF)のプログラムマネージャー황연정(ジュン・ファン)さんは、昨年度にお邪魔した「Video poem competition of La Factorie」のPaul Nurkさん同様、応対が非常に丁寧でした。
応対が丁寧というのは、社交辞令の定型文をコピー&ペーストして送りつける技術が高いという意味ではなく、自分の言葉で他者へ語りかける努力を惜しまないということです。
ジュンさんという窓口を通じて、私は「ソウル動物映画祭」(SAFF)の在り方を信頼することができました。また、実際に参加してみて、そのクオリティの高さや、志に強く魅了されもしました。
「人間と人間以外の存在との関係についての考察を促す」というステートメントにあるように、受賞した監督には、廃プラスチックを使用して作られた盾が贈られていました。販促資料は、リサイクルまたはアップサイクルできる材料から丁寧に作られていましたし、お土産も、日常生活で長く使用できるよう、高品質なものが取り揃えられている印象でした。
上映館内では、使い捨てのボトル入り飲料水を提供していないため、スタッフやボランティアの方々は、自らタンブラーを持参していました。
私は特に環境活動家というわけではありませんが、日本では、町おこしや拡販を目的とした映画祭が多いため、そうではない特性とプライドのもとに運営・コーディネイトされているというだけで、何だかとっても新鮮で現代的に映りました。(町おこしや拡販自体は悪いことではないと思うのですが、集客が目的だとノミネート作品が被ってしまう傾向があるため、その映画祭に行かなければ観れないラインナップにはならず、結果として足が遠のいてしまうというようなことが起こる気がするのです。会社同様、映画祭にも人格がいるのでは?というのが私の考えです)
「人間と人間以外の存在との関係についての考察を促す」という強い目的意識は、組織体制によってキープされているのでしょうか。
「ソウル動物映画祭」(SAFF)の実行委員は、プログラマーの황미요조(ミヨジョ・ファン)さん、임유빈(イム・ユビン)さんをはじめ、その多くが優秀な女性たちです。
男性のみによって運営される組織は腐るほどありますし、そこから輩出される監督や映像作品(と不祥事の数々)を私たちはもう十二分に観てきたわけですから、そうではない体制から生み出される映画や潮流を鑑みて、差異や傾向を比較検証してみたいと思うのは私だけでしょうか。
レバノンのとある映画祭で、青少年審査員と共に子供審査委員が配置されているのを知って驚いたことがありましたが、学生映画祭で学生が審査するのは当たり前として、一般的な映画祭でも子供の眼からのジャッジがあったりすると選考にも少しは変化が生まれそうな気がするのですが、どうなのでしょうか。
その辺も踏まえて、今回の上映作品の中で気になったものをいくつか挙げてみようと思います。
Sally Aitken監督の『Every Little Thing』は、ハチドリの羽ばたきのスローモーション・シーンが幾度も反復される長尺の映画でしたが、精巧な翼の動きは何度観ても新鮮な驚きをもたらしてくれます。故にBGMの補助は要らなかったんじゃないかと思っています。
Julia Parks監督の『The Wool Aliens』では、映画『羊たちの沈黙』とはまったく違うベクトルの新鮮な眼差しを与えられた気がしました。それは、いうなれば『羊たちの慟哭』です。
Joe Fereday監督の『Rodent』は、私のもっとも映画を観ない友人にすらも興味・関心を抱かせる「エンターテインメント動物映画」足り得ているのではないかと想像を逞しくしました。
観客賞を受賞したSebastian mulder監督の『And a Happy New Year』は、GoProやドローンといった現代的な撮影機材と、花火や犬といった原初的なモチーフとの配合が素晴らしく、動物映画としても記念碑的な仕上がりになっているように思いました。
作品賞を取られた유하나監督のAnatomy Class (Chap.2)は、予告編の1カットだけで、あらゆる映像美術をもってしても得られぬマテリアルを刻印することに成功していますが、その映像的なフェティシズムが解剖実験という暴力的なシチュエーションの中でどのように処理されるのか、映画を観て確かめたい気持ちになりました。
どさくさに紛れて、自作『ねこさがし』を観てくださった韓国の方々のレビューも少しご紹介します。
"인간의 편의에 고양이를 소외시키곤 가타부타 다른 변명으로 그 사실을 덮으려 하진 않았나, 다시 되돌아 보게 하는 영화"
「人間の都合で猫をないがしろにし、別の言い訳でその事実を隠そうとしてきたのではないか、と振り返る映画」
"사라진 대상과 점차 합일되는 도시 괴담의 얼굴을 한 인드라망 고양이 다큐멘터리"
「消えた対象と次第に合体する、都市伝説の顔をしたインドラの猫ドキュメンタリー」
"고양이들이 사라진 마을, 그리고 합리적인 의심."
「猫が消えた町、そして合理的な疑い」
皆様、貴重なご感想をどうもありがとうございます!
감사합니다. 기뻐요!
以下は、映画祭にまつわる韓国国内での報道記事です。
‘제7회 서울동물영화제’ 동물의 치열함 삶 담은 채 폐막
제7회 서울동물영화제 성황리에 폐막... 관객과 창작자가 외친 "있는 힘껏 살다"
公式サイトのまとめ
ぱくぽ☆いしなかこと岡本和樹監督が、「たぴにつき」というシリーズで私やその周縁のことをつらつらと書いてくれてるようなので、こちらも是非お読みください。(なんといっても、岡本さんのほうが文才あるからね!)
しかし、この記事を読むに、ご本人も楽しみながら同行してくださったみたいで何よりです。でも私は、岡本さんにはまだ何のお礼もできていないのです。いつか必ず……。というか、近いうちにソウルへお邪魔して、とりあえず共に映画を撮りましょう。
'서울동물영화제'(SAFF) 여러분, 수고하셨습니다. 수고하셨습니다. 가치있는 시간을 가져 주셔서 감사합니다!!
(終わり)
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