全く新しい言語を作って「異世界に迷い込んだ人」になりたい
導入
初めまして、blessと申します。
突然ですが、みなさんは異世界転移・転生するような作品を見たことがあるでしょうか。
私自身いくつか読んだ、見たことがあるのですが、とにかく触れたことがある方なら一度はこう思ったはずです。
「自分も異世界に行って、全く知らない場所を観光してみたい」と。
そこで、今回は異世界を作っていきたいのですが……では異世界を、世界を作るためにはまず初めに何をしたらいいのか、その答えは新約聖書に記されています。
そう【言葉】です。
全ての物は言葉から成っています。逆に言えば、言葉として知らないものは自分の中で存在してないのと同じです。言葉がないと道に数多生える草花を見ても、全部雑草と一括りにしてしまいますから。
もちろん、お互い名前も知らないけど毎朝挨拶する花屋の店員さんは他の人とは違う特別だろうみたいな例外は存在しますが、ほとんどのものは名前を知らないと存在しないものとして扱われてしまうのは事実だと思います。言葉は意思疎通の道具であると同時に、世界を覗き見るための望遠鏡でもあるんです。
ということで、世界を創るためには言葉、言語が必要! ということなのですが……
じゃあ言葉ってどうやって作るの?というのが今回のnoteの本題です。導入が長い。
異世界を観光したいですよね? 世界、創りたいですよね?
ならば、これから一緒に言葉の作り方を学んでいきましょう。
本編
みなさんは、人工言語というものをご存じでしょうか。
人工言語とは、読んで字のごとく人間によって何かしらの目的を持って作られた言語のことです。代表的なものだと、母国語が異なる人間同士の意思伝達を目的として作られたザメンホフのエスペラント語や、トールキンの『指輪物語』に登場する各種言語などが有名だと思われます。
対義語となるのはは自然言語、日本語とか英語とか、ある一定の民族みたいな集団から自然に発生した言語ですね。
というわけで、今回作るのはそんな人工言語になるわけです。創作の異世界の言語を作るわけなので、分類するならトールキンのものと同じ、芸術言語になるんだと思います。
なお私は言語が作ってみたくなってまず「言語 作り方」で検索するような言語学ド素人なのでこのnoteの記述は全然間違っている可能性があります、気になった方は自分で調べてみて、このnoteを知識の一部にしようとはしないでください。あるいは「ここ間違ってるじゃん!」と気づいた人は温かい目で見守りつつ、こっそり誤りを教えてください。
また、発音記号は使わず、便宜上近い音のカタカナ表記とさせていただきます。
なお、この先度々登場する宗教や人物、その心情は全てフィクションですので悪しからず。
さて、前置きはこのくらいにして早速作っていきたいと思います。
理屈はいいから完成した言語だけ見たい! という人は目次から『実際に使ってみよう!』まで飛んでください。制作パートがかなり長いので、その方がきっとテンポもいいです。
言語の作り方
1.音を考えよう!
言語を作るに当たって、まずは音から考えてみます。具体的には、子音と母音の組み合わせをどうしようかって話です、音素ってやつですね。今回は異世界の自然言語、みたいなものを作りたいなとロマン的観点から思っているので、アルファベットや日本語をそのまま移し替えたような音だと捻りがなくてちょっと嫌。ということで、今回作る言語は母音は3個、子音は12個の言語にすることにしました。
現実の言語に対応させると選ばれた母音、子音は画像の通りです。
アクセントはとくにこだわりもないので固定。声調はなし、文字を見てパッと発声できるような言語を目指したいので、文字のみからの判断が難しい声調は断念しようと思いました。あと単純に自分の知識が足りない。
また、これは少し先の話になるのですが単語を決める際のルールとして、音が母音のみとなる単語は認めないことにしました。必ず「se」や「cho」「v」のような、子音+母音または子音のみの形で単語は形成されるものとする、ということです。
2.文字を考えよう!
次に、先ほど考えた母音と子音に加えて、数字を文字に記したらどうなるか、というのを考えていきます。
例えば日本語、ひらがなでは、「あ」は「a」、「て」は「te」みたいに、ひとつの音に対してひとつの読みが割り振られています。日本人からしたらわかりやすいですが、これはあんまりよくないです。法則などがなくて暗記必須になってしまいますから。あと何十個も文字を考えるのが大変。
中国語、漢字も断念。日本語と同じ理由に加え、意味に対して1:1で文字が必要なのはひらがな以上に負担が大きいです。倉頡がすごすぎる。
一番イメージに近い文字はハングルでしょうか、母音子音が見ただけでわかって簡単に読める、そんな文字にしたいと思います。
というわけで、作ってきました。
一番上の列が数字の一覧、真ん中が子音の一覧になっていて、一番下の列が母音の、右下のがアクセントの記し方の例示です。
数字は4進法を選択しました。後述する子音は三角形を基準にしてますし、母音の数も3つ、子音の数は12で3の倍数と、漠然と3を意識してる感じ。宗教的に「3」が優位な世界の文字だとこうなりそう、こういう世界だと言語が広まったのは聖書や聖典を読み解き、伝えるためだと思うので、その言語が宗教由来でできてるのは多分納得感あると思います。
子音は単純明快、ひとつの記号がひとつの子音を表しています。線と三角形との組み合わせ。それぞれの形が似ているようにも見えますが日本語に例えると「ぬ」と「め」や「は」と「ほ」と「ま」の区別くらいの難易度なので問題ないかなと。英語の筆記体のように文字同士が繋がる見た目だとかっこいいかなと思ったんですが、良い見た目が思いつかなかったので断念。
母音の表し方は悩んだ結果、向きで表すことにしました。これは実際に存在する自然言語、イヌクティトゥット語という言語の文字を参考にさせていただき、向きで表すことにしました。通常の向きで「e」、右向きで「a」、左向きで「o」、逆さになっているときは「母音なし(子音のみ)」となります。
文末に付ける記号もそのまんま、句点とか読点、ピリオドとかコンマみたいなやつです。
3.詳しい発音を決めよう!
先ほど「これが文字です!」といかにも完成しましたみたいに提示しましたが、全然完成ではなくて、言語としてちゃんと「読めるもの」にするためには正確な発音を定める必要があります。
例えば今回定めた子音のひとつに「ch」がありますが、現状では「ch」が「チ」とよむのか「ク」と読むのか「シ」と読むのかがわかりません。これが子音分あるのでもう大変、母音の読み方も「e」が「イ」なのか「エ」なのかわかんなくて更に大変、ということでここで一気に決めてしまいます。
決めました、じゃん、一覧です。
読み方はこの通り、これでだいぶ言語として形になってきたような気がします。が、この時点ではまだ進捗としては半分くらい。ですがここから一気に「言語」としての中身が固まってくるので、「やってる感」もすごく上がってきます。
4.文法を定めよう!
文法を決めていきます。高校だか中学だかで「SはSubjectで主格を表して〜」とか「この動作はSVOだから〜」とか習ったと思いますが、今からそういう感じの法則のあれこれをこの言語に定めていきます。
まずは簡単な構造を決めるために、いくつか実際の言語から例を得たいと思います。
日本語は「主語(S)」→「目的語(O)」→「動詞(V)」の順番のSOV型
「私はプリンを食べた」だと、「私」が主語で「プリン」が目的語で「食べた」が動詞ですね。そこに「てにをは」のような繋ぎとなる付属語が入る、といった具合です。
英語は「主語」→「動詞」→「目的語」の順番のSVO型
「I ate a pudding」だと、「I」が主語で「ate」が動詞で「pudding」が目的語ですね。さらに日本語と違い付属語がなく、冠詞が存在する、という点にも差異があります。
他にも突き詰めていけば差はいろいろあるし、世の中を見渡すとOVS型やVSO型の言語もあるらしいのですが、少数派なので省略させていただきます。
いろいろ見た上で、今回作る言語は「SOV型」「付属語無し」「冠詞あり」の言語にしたいと思います。それぞれ理由としてはSOV型は日本語と同じで慣れているから、付属語無しは単語の区切りをわかりやすくするため、冠詞ありは前々節でも話題にした3を重要視、つまり数を正確に把握する風俗のある世界の言語であるという設定を補強するためです。
異世界の自然言語、という目標を目指すにあたってこういう存在しない世界の風俗を想像するのはすごく楽しかった。
さらに決めておくべきものとして疑問文、否定文に感嘆文と命令文の際の形があるので、それも決めておきましょう。
こんな感じ、否定文は動詞に否定の修飾語が、疑問文は頭に疑問詞が、命令文は主語が消え分の順番が変わり、感嘆文は修飾語が頭に来る。それぞれ覚えやすいよう、シンプルに決めました。
これにて、文法は完結です。
5.語彙を決めよう! 名詞編
ここからはようやく、言葉を定めていきたいと思います。ここもかなり世界観が反映されて楽しいパートなのですが……全部書いていると本当に長くなってしまうので、かいつまんで解説していきます。また、先ほど文字を作成しましたが、便宜上というわけで最初は名詞の話。
というわけで、まずは数詞を決めていきたいと思います。本当なら人称代名詞とかから決めた方がいい気がするのですが、少しやりたいことがあるのでこちらを先に決めさせていただきます。
というわけで、決めたものがこちらです。
4進法を採用している言語なので、読みが与えられている数は0〜3に加え4、16、64に飛んで4096です。
読み方の法則は日本語とほぼ同じです。10進法の21を「に×じゅう+いち」と読むように4進法の23を「に×よん+さん」と読むようなシステムになっています。位の読みがない1024の位に差し掛かる10000のような数は「いち×よん×ろくじゅうよん」のように読みます。画像では4096の位まで考えて止めてしまいましたがこのあとは3桁位が上がるごとに読みを追加していきます。英語の「thousand」「million」「billion」と同じ頻度ですね。
次に人称代名詞、「私」「彼女」「you」「they」みたいな、話し手、聞き手の視点から立場を定める代名詞です。
そんなに語ることもないのでざっと作っていきます。
上の一列が「私」「あなた」「あの人」「それ」を示す言葉で、その下に続いているのが順番に「私たち(2人)」「私たち(3人)」「私たち(3人以上)」というような、複数人の場合の人称代名詞を表しています。何度も記している通り3を重要視している宗教観ですので、人数ごとに一人称が変わったら面白いな、と思ってこんな風にしてみました。数詞を先に決めたのもこれのためです。
実際言語として勉強することを考えると死ぬほど面倒くさいけど、あまり論理的すぎるのも自然言語としては不自然な気もするのでこういう風俗を考えて反映させるのはリアリティとして結構効果的な気がする。
格変化、「あいまいみーまいん」って言うとわかりやすいでしょうか、「私が」「私の」みたいなのによる変化はなしにしました。この世界の価値観的に、そこは重要視していない気がする。
残りは固有名詞、形式名詞、そして一般名詞ですが、固有名詞に関しては考えるものではないので除外。形式名詞は動詞の項目で考えることにして、一般名詞の話をしたいと思います。
一般名詞は読んで字のごとく、一般的な名詞を指します。「名詞」「プリン」「愛」全部一般名詞です。
というわけでそんな一般名詞を考えていくのですが……何十個も考えて何十個も並べていてはきりがないので、ここでは考え方だけを示して実際の名詞は数個例を挙げるだけに留めさせていただきます。
というわけで、ざっくりとした名詞の考え方です。
第一に、子音の印象を決めました。完全に主観です。
画像の通りに、12個ある子音それぞれにざっくりとした印象を与えて、印象に合った単語の頭文字はそれに決定してしまおう、という算段です。
しかしこれには単語を決めやすい反面、似たような意味の単語が同じ音から始まることになるので聞き間違えやすくなってしまう、という欠点がありますが、そこまで考えていると一生終わらないのでその欠点には目を瞑ることに決めました。
次に、単語の作り方を決めました。
名詞の形は「〇o〇o〇」「〇a〇e〇」「〇e〇o〇」の3パターンのみとして、〇の部分に入れる子音を入れ替えるだけで無限に名詞を生成することができます。これにより、似た印象の単語の音が更に近くなってしまうのですが、それも無視することにしました。
最後に、派生してできる単語、複合名詞の命名法を決めました。完全に楽をするための命名法です。
今回の例えですと「バラ」という単語は「花」と「トゲ」という2つの名詞を合わせてできる造語、というように命名することにしました。もちろん「花」という単語を「植物」から命名するわけではないように例外はあります。
ただこの命名法も欠点があって、なら「トゲのある花」を全て「バラ」と呼ぶのかと聞かれたらそんなことは当然ないのですが……この後決めていく用言も交えて命名していけば、新しく単語を作りたくなったときに困ることはないはず、と判断しました。
今挙げた3つの法則を使うことで、機械的に名詞を量産することができます。もちろん、何も考えなくていいということはなくて、作る名詞にも風俗を反映させる必要があります。日本語で区別される米と稲が英語ではどちらもriceになるのがいい例です。
存在しない異世界の風俗を考えるのはすごく楽しかったですが、いかんせん機械作業すぎて辛かった。
あと、名詞といえばでついでに冠詞も決めていきます。
人称代名詞と同様、単数、2個、3個、4個以上複数の4パターンで決めていきます。
こんな感じ、特に説明はありません。単数の場合は冠詞のみ、2、3、4個以上はそれぞれ名詞にも変化が生じます。英語の複数形みたいなものですね。
自分で作っておいてなんだけど、この言語すっげ~面倒くさいな。
これにて名詞編は終了、次に向かいたいと思います。
6.語彙を決めよう! 動詞編
次は動詞を決めていきます。
これも全部を並べ立てるときりがないので、考え方だけを書き並べていきます。
とはいえ、動詞の作り方も名詞と同じです。形を固定して、子音をひたすら入れ替えて作っていきます。
更に楽をするために、いくつかは先ほど作った名詞から逆輸入して動詞を作っていきたいと思います。
どうするかというと、例えば「料理」という意味の名詞の子音3つをそのまま動詞の枠に入れて「料理する」という動詞として扱う感じです。これでかなり労力削減できました。
そして、動詞は単語を決めただけで完成ではなく、もう一つ定めなければならないものがあります。それが活用形です。過去形、未来形、受け身、名詞形(形式名詞)なんかの形も決めていきました。
まあ書いてある通りです。それぞれの活用形に応じてそれぞれの子音がくっつく形で変形し、名詞形に関しては母音が名詞に使われる2つに入れ替わる、という法則です。名詞と動詞は母音の位置が違うので、この法則のせいで同音異義語ができちゃった! みたいなこともない……はず。
更に、動詞に付属する助動詞も考えてきました。それぞれ可能、推量、義務、勧誘を表していて、動詞の前にくっつけることでそれぞれの意味を示します。
これにて動詞編は終了、もうすぐ語彙を決めよう! 編も終わりです。
7.語彙を決めよう! 形容詞・副詞編
これでラスト! 形容詞と副詞、要するに修飾語を作っていきたいと思います。
これも作り方は名詞・動詞とおんなじです。母音を決めて、子音をひたすらブルートフォースアタックしていきます。
さらに、楽をするために形容詞・副詞の区別をなくしました。「素早い」と「素早く」の区別をなくして、同じ1単語で表すようにするってことです。
拘りたいところは拘り、そうでもないところは手を抜くのが継続のポイントですから、と昔から勝手に言い続けているので。
8.語彙を決めよう! 接続詞編
これでラスト! 接続しを決めていきます。
「and」「しかし」のような、文と文を繋ぐ役割を持つ語のことです。
こんな感じ、使いやすさを重視させていただきました。もちろん、これで全ての接続詞を網羅できたなんてことはないのですが、ひとまず最低限を。
基本的に名詞や文の後ろに付けて使います。仮定や時間の接続詞は、修飾する側の文に付けて使います。
この節はこれで終了です。ペース配分が下手。
さて、これにて単語が完成し……言語もめでたく、完成となります!
もちろん、これで完璧、ということはないのですが、ひとまず使ってみることはできるレベルまで到達した、という点では完成と言っていいと思います。使ってみて見えてくる欠点もあるでしょうしね。
また、これから実際に使っていくにあたって、文字を並べ連ねられても意味がわからないと思うので辞書のようなものを貼っておきたいと思います。
翻訳しながら読んでみたい! という物好きな方は是非。
実際に使ってみよう!
……えーっと、手招きする女の子にとりあえずついてきちゃったけど……どうしよう、風景も全く見たこともないような街並みだし……
「あ、あはは……」
この子が何言ってるのかも全然わかんないし……
何か、指差してるみたいだけど……
これ……看板、だよね? 全く見覚えがない……絵? 文字? が並んでるけど……もしかして、異世界転移、って、やつなのかな……?
「えーっと……」
なんか、手招いてるけど……ついてきて、って、ことなのかな? というか、この建物はなんなんだろう……何かいい匂いがするし……もしかしてご飯屋さん、かな?
だからわかんな━━って、ジェスチャー? ええっと、口を塞いで……耳も……塞ぐ……これって……僕が話せも聞き取れもしないってことが、わかってもらえたって、こと?
……もし、何かこれが特有の意味を持つジェスチャーだったら怖いけど……まあ、賭けてみてもいいか。
「う、うん! わかんない!」
意味もなく声を上げながら、自分を指差してから彼女のしていたジェスチャーの真似をしてみる。最初は頷こうかと思ったけど、それが肯定の意味かもわかんないし……
声色と、柔らかい表情からして……伝わった、のかな?
胸に手を当てて……任せてよ、みたいな?
……っとと、突然手を引いてきて……お店には、入るんだ。
◇
連れ込まれて、そのまま机に着いちゃったけど……キッチンみたいなところで、料理してる人が居るし、やっぱりここはご飯屋さんで間違いない……のかな。
なんかメニューっぽいのが机の上に置いてあるけど……
うーん……相変わらず読めない。多分、左側のが料理の名前で、右側のが数字、つまり値段なんだろうなってのはわかるけど……
……女の子が店員さんと話してて……指を2本立ててるし、僕の文も注文してくれてる、のかな?
……あ、店員さんが離れてく。注文、終わったのかな。
女の子が手で破いたみたいに歪な形の紙と……ペンかな? 墨みたいな棒を取り出して、何か書き始めた。イラストと……文字、かな。似たような形をさっきから何回も見てるし。
これって……なんか色々……絵と、文字みたいなやつ? 人と、指と……話す顔……
……あっ、もしかして……下にシンプルな文字が書いてある棒人間を指差して、彼女に目を向けてみる。
自分を指差して……「せ」みたいな。僕を指差して……「いぇ」?
やっぱり……多分だけど、僕に、言葉を教えてくれようとしてるんだよね……察するに、このシンプルな三角形の……「せ」みたいな発音をするのが私、その隣の矢印の上にある「私」に三角形とYを足したみたいなマークが「あなた」で「いぇ」みたいな発音……試して、みるか。
自分を指差して、震える口を開いて、慎重に言葉を繋ぐ。
言ってる意味は全然わかんないけど……優しい顔で笑ってくれてるし、合ってたってことで、いいのかな?
◇
料理を運んできてくれた店員さんに感謝を述べる彼女の言葉を聞いたままに復唱しながら頭を下げた。前二つが私、あなたのはずだから……多分「ありがとう」みたいな意味だよね……
届けられた料理を、さっそく大き目のフォークのようなカトラリーで口に放り込んで、幸せそうな表情を浮かべていた。どうやら美味しいらしい。特に抵抗のある見た目、とかいうわけでもない、むしろ彩もよくて美味しそうだけど、異世界の物だしアレルギーとか食中毒とか……いや、別にいいか。
マナーとかもよくわからないので、とりあえず彼女の食べ方を見様見真似して食べてみる。
「ん……」
……味、しないな、そんな気はしてたけど。
……
っと、あんまり黙ってるのもよくないか……手元のカトラリーを利き手と反対で指差して、覚えたばかりの単語を頭に浮かべて口に出す。
……別に、あんまりこれの名前とか知りたいわけではないし……というか、知りたいこととか、別に……
一瞬悩んだあとに、合点がいった、みたいに納得してくれた様子で……えっと、ポロットさん? が、答えてくれた。
さっき「私」と「あなた」の意味を当てたときと同じ言葉だから……やっぱり、彼女の名前はポロット、なんだ。意味は……ちょっとよくわかんないけど。
僕を制止して、彼女がまた紙に何かを描き足した。
そこに描かれた……花の絵、を指差して、彼女はそう言った。
えっと……つまり……ポロットは、花、って意味なんだ。
「……ふふっ」
いい名前、だな。響きもかわいいし。
「えっ……」
すごい圧と好奇の目線で彼女から質問を向けられて、少しだけびっくりしてしまった。けど、そっか、彼女もちょっとは……右も左もわからない奴に対する慈悲、だけじゃなくて僕に興味、あったんだ。
……こんなに感情が揺れたのはいつぶりだろう。少しの恥ずかしさと嬉しさを覚えて、僕は口を開く。
◇
「ん、んん……」
「……ふわぁ……あれ…………夢……?」
そう呟いて、ぼーっとする目を擦ろうとして手の中にあった何かに気づく。こんな……なんか握って寝るとか、したっけ……
不思議に思いつつも、手の中のぐしゃぐしゃになった、紙のようなものを広げてみる。
「これ……そっか……」
……結局、ほとんどどんな言葉、どんな世界なのかわからず仕舞いだったな……あの子のことも精々名前くらいしか……
……もっと、知りたかったな。
「……ふふっ」
こんな風に思うのも、あんなに優しくしてもらったのも、いつぶりだろう。今から頑張って思い出せば、彼女の言っていたことの意味ももっと━━
「……そうだ」
ふと頭に浮かんだ思いつきを実行できないかと思い、スマホを手に取っていつもは重苦しい気持ちで開いていた検索アプリのアイコンを前向きに押した。
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
参考:
人工言語の作り方 2024年12月22日(https://conlinguistics.org/create/)