SF小説「ジャングル・ニップス」 3−5
(タイトルを「ジャングル・ニップスの日常」に変更しようかなと迷っております。)
ジャングル・ニップス 第三章 作戦会議
エピソード 5 目玉焼き
「でも。虫を見てるとよ、やっぱこの世界はデジタルだって思うよな。」
本をしまうと、エースケはトーストを齧ってスマホを弄りだした。
「たしか、ヤスオが前、写真をアップしてたんだけどなぁ。」
ヤスオさんのフェイスブックページをスクロールしているようだ。
ドライカレーは想像していたよりスパイシーで、コールスローと良く合う。
半熟の目玉焼きでも上にのっていたら堪らないはずだ。そう思いながら、ショーネンは残りのコーヒーを口に含んだ。
「これだ、このカマキリ見てみ。」
ピンク色のカマキリだ。
「オーキッド・マンティス。熱帯アジアのハナカマキリ。これは多分まだ幼虫っぽいな。かっこいいべ。」
エースケが自慢気に言ってまたスマホをイジる。
「ほら。こうやって見ると何処にいるのかも分かんないだろ。」
花に紛れて何処にカマキリがいるか分からない。
「まるで何処にいるか見当つきません。」
ショーネンは正直にそう答えた。
「まあ、いいから食いな。そうなんだよ。コイツラよ、花のフリして蜜蜂とかを待ってんだ。考えて見ろよ。畑に収穫に行ったら、畑のフリした化物にバクッて食われちゃうんだよ。おっかねえだろ?」
バターが染みたトーストが異常に美味い。
「何を見ているんですか?」
トシさんがテーブルに来た。
「カマキリだカマキリ。ちょっと前に、ヤスオがアップした写真。これ見るとやっぱ、宇宙はデジタルユニバースだって思っちゃうだろ。なっ?トシ。」
「これショーネンクンもどう?パーコレータで淹れているボクのだけど、良かったらお代わり。」
そう言って、トシが銀のポットでエースケとショーネンのカップにコーヒーを注いだ。
「スミマセン。いただきます。ドライカレーマジ美味いです。」
「ありがと。毎回味が変わっちゃうんだけどね。」
トシはそう言ってポットを隣の席に置いた。
「エースケさん好きですよね、インテリジェント・デザイン・セオリー。」
「だってよトシ、これ見てよ。なんでカマキリが洋蘭の形になるんだよ。」
「うーん。そういうプログラミングがされてるんでしょうね。」
「そうだよ。」
「たぶん、環境に合わせて変化し続けるよう、DNAレベルで仕組まれているんですよ。」
「だよな。そうなんだよ。誰がプログラミングしたんだって、そこなんだよ。」
エースケは満足そうだ。
「でも、トシよう。コイツに言わせれば。オマエのドライカレーは最高だけど、目玉焼きのっけたらもっとグレートらしいぞ。」
そうエースケが言うとトシは腹を抱えて笑い始めた。
「違いますよ。コールスローも絶妙だし、何かコリコリ歯ごたえがある物も入っていてスゴク美味いです。最高です。エースケさん勘弁してくださいよ。」
メンゴメンゴと言いながらエースケがおどけている。
「ああ、うん、それタケノコ。ご近所さんに頂いてね。いやウケル。笑ったのはそれ、エースケさん、エミがいっつも言うんですよ。ロコモコみたいにレタスものせて混ぜて食べたら抜群だって。」
トシが涙を拭いている。
「ナニ?アタシの事なんか言ったぁ?」
カウンターの奥で冷蔵庫の中を見ていたエミが声を上げた。
「ショーネンクンが、ドライカレーに目玉焼き乗せたら美味しいだろうって。」
トシが笑いながら答える。
「でっしょーっ。絶対見込みあるオトコのコだって、一目で分かった。ショーネンクンあなた料理人の才能あるわよ。」
エミがグレープフルーツジュースをグラスに注いでいる。
ヤスオが振り向き、トシのオカアサンもオトモダチと一緒に三人を見ている。
「オカアサン。この図鑑、スゴイですよ。」
エースケが二冊の本を手に取って声をかけた。
「そうでしょう。ワタナべさんのご主人、本を沢山集めていらしてね。」
「重たくって、床が抜けるんじゃないかって心配になるくらいあるの。どうしたらいいか分からなくて困っているんですよ。」
ワタナベサンはとても嬉しそうだ。
「ボクもワタナベさんのオウチには、子供の頃から行かせてもらって、ずっと図鑑を読ませて貰いました。」
「そうよね。ウチの娘達、まったく興味がなかったから。あのヒトも、トシオさんが来ると喜んでね。」
エミがグレープフルーツジュースを奥の席に運んで行く。
「ヤスオ、悪いけど先に中を見せて貰ったぞ。」
エースケがそう言うと、ヤスオがありがとうと言うように軽く頷いた。
「ワタナベさん。あのコがエースケ君。この絵と、居間の西洋ツツジの画伯。」
ワタナベサンが眼を丸くして驚いている。
「ああ、スミマセン。こんな奴なんです。申し訳ない。」
エースケが頭を掻いた。
ワタナベサンがもう一度、壁の絵を見て、へーっと言うように頭を何度も上下させている。
ヤスオがホホホっと声を上げて笑った。
「ヤスオ君の絵は少し怖いけどね。エースケ君は、昔から素敵な絵を描くのよ、ワタナベさん。」
ワタナベサンがヤスオとエースケを見比べてまた驚いている。
「そうなの、二人の絵って、なんかアベコベで、エースケちゃんがヤスオさんの絵を描いてるみたいよね。」
エミが付け足した。
「ああ、それは。」
ヤスオがエミに答える。
「エースケがオレのインスピレーションで、エースケがいないとオレの作品はないからだよ、エミちゃん。」
ワタナベサンが大きく頷いて、トシのオカアサンは嬉しそうにヤスオを眺めた。
こういうのには弱いんだな、エースケさん。
気をつけして、ガッチガチに固まってるじゃん。
ショーネンはなぜか嬉しくなり声を出して笑ってしまった。
つづく。
ありがとうございます。