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「美味しんぼ」再読備忘録2024「舌の記憶」-第一巻「豆腐と水」第9話-


これが第一巻の最後の話になります。栗田さんのおばあちゃんのたま代さん登場回です。このあともたま代さんも結構出てくるようになるのでそういう意味ではなかなかの重要人物になります。

栗田さんのおばあちゃんのたま代さんは御年七十二歳。そろそろボケてきたということ家族は心配しています。そのたま代さんがなにかの拍子に昔よく行ってた鶏鍋屋に行きたいとつぶやいたらしく、元気づけようとその鶏鍋屋で休日の昼に食事会をするようだ。エエ家族やないですか。

実は後から分かるけどたま代さんは昔学校の先生をしていました。その息子である栗田さんのお父さんは東西大学の教授です。となると教育一家なのか、と思いきや、長男の誠さんは大日電機というメーカー勤め、栗田さんは新聞社勤め、栗田さんのお母さんは専業主婦っぽい感じ、である。古き良き昭和の家族であろうか。

もう亡くなってるらしいおじいちゃんとよく食べに行ったというその鶏鍋屋、築地の「鳥玄」に向かう栗田一家。「鳥玄」は五十年続く老舗らしい。まあまあの格式ある店構えですね。

早速、鶏鍋を食べる。皆はうまいうまいというが、たま代さんは「これは私の知ってる鳥玄の鶏鍋じゃない」「鶏肉が不味い」「鶏肉がくさい」と泣きわめき出す。

おかげでちょっとした騒動になってしまい、その顛末を東西新聞社の同僚たちに悲しそうに話している栗田さん。しかし、その話を聞いていた山岡が「たま代さんは本当にボケているのかな」と疑問を呈す。

その山岡の発言に驚く栗田さんを尻目に「取材に行く。モタモタしてると置いてくぞ」と山岡。慌ててついていく栗田さん。着いた先は養鶏場で、大量生産のためにシステム化され、次々と生産され、出荷される、いわゆるブロイラーの鶏の生産過程を見せられた栗田さん。

この工場見学の次は、山岡の知り合いの昔、家で働いてたという鶏を育てるのが上手なおマチ婆ちゃんのところに遊びに行く。昔の山岡の家、つまり「美食倶楽部」で働いてたってことか?。ちなみにこのおマチばちゃんは幾つなんやろな。

いかにも工業製品のように誕生から出荷まで全てを完全に管理されたブロイラーの鶏と伸び伸びと育った鶏の環境の違いを体験した栗田さん。その違いに驚いて、これが「同じ生き物かしら」と疑問に思う。

山岡は「その問いに対する答えを君のおばあちゃんが出したんじゃないのか?」と言う。その山岡の言葉にハッとする栗田さん。

そして、再度、たま代さんを「鳥玄」に連れ出す栗田さん一家。たま代さんはこの前の美味しくない経験を覚えており嫌がるが、今度のは、あのおマチばちゃんの鶏である。その鶏鍋を食べてみて、「この味よ」「これが本物の鳥玄の鶏鍋なのよ」と途端に元気になってバクバクと食べ出す。

「鳥玄」の主人は昔、海原雄山の「美食倶楽部」で働いていたこともあり、山岡の知り合いであった。今回の経緯を聞き、ショックを受ける。そして、もう一度ブロイラーでない、本物の鶏を使うよ、と宣言する。めでたし、めでたしなのだが、これどうなのかな?。

この当時のブロイラーの鶏は確かに生産効率、コスト重視が第一で、味などは二の次という部分があったのは否定しません。現代と違い、流通や保管などもいい加減な部分があったことでしょう。スーパーマーケットの特売の鶏肉なんかは食べたら臭いようなのもあったしね、実際。

しかしおマチばっちゃんの鶏肉は確かに噛みしめると旨味が溢れてくるが、かなり固い肉質であることは否定できない。おマチばちゃんの鶏肉や銘柄の地鶏を固くてダメと拒否する人もいると思う。

実際、この時期に一緒に食事した人でもこんなブロイラーの鶏は本物じゃない。田舎で放し飼いの鶏を喰った人間からしたら、都会のこんなスーパーマーケットの鶏は喰えん、という人も周りには居ました。しかし逆に地鶏は固すぎる、柔らかい食感のブロイラーが好き、そういう人も居ました。

2024年の現在、鶏唐揚げが日本の飲食業界を席巻しています。これはブロイラーの柔らかい肉質の鶏肉が安価で安定供給されているからこそ、ここまで流行したのは事実です。噛んだら柔らかくジューシーで肉汁溢れるっていうのが今のトレンドでもあるし。これはブロイラーの鶏肉の品質向上を抜きには語れないと思います。鶏の唐揚げが何よりの大好物である私は感謝しかありません。

ブロイラー特有の臭みなどは調理の段階で香辛料や調味料などである程度カバー出来るでしょう。流通や保管なども改善されているでしょうし、与える餌などもかなり研究されており、業界は日々品質向上に努めているのは皆さんも御存知のとおりと思います。

大量生産は良くないというけど、ではブロイラーを使わずに、しかも安定供給するという部分、例えば今までこの鶏鍋一人前2,000円でやってたものが、本物の鶏を使ってますから、って3,500円に値上がりしたら、経営として成り立つのか?どうなのか?。

現在のスーパーマーケットに売ってる国産のブロイラーの鶏肉は品質的に全然悪くないと思うし、それは業界のものすごい努力の賜物と思う。それもこの「美味しんぼ」がこの時代にこうやって警鐘を鳴らしたのが、大きな契機となった、大きな役割を果たした、と思います。

国民の美食、食の安全への意識の向上、TV番組や雑誌なそもこぞってグルメを取り上げるなど、様々な啓蒙活動も相まって、日本の食品業界、飲食業界のレベルをこの「美味しんぼ」が大きく底上げしたのは間違いのない事実です。

でも大量生産が絶対悪みたいに言われるとちょっと反発したくなる気持ちもあるんですよね…。でもこれからそういう回が増えていきます…。







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