「美味しんぼ」再読備忘録2024「炭火の魔力」‐第三巻「炭火の魔力」第1話‐
さあ、三巻やっていきましょう!。以前登場した中松警部と板山社長が再登場します。
冒頭、泥酔した男が夜の銀座の繁華街で大暴れしている。当然、警官が出動するが、それを見た泥酔男は包丁を取り出し振り回して抵抗する。しかし、中松警部に取り押さえられる。
中松警部は投げ飛ばした男の包丁が鰻裂きに使う包丁だとひと目で分ったようだ。鰻が好きだからってわかるものでもないだろう。蕎麦の回といい、江戸の食文化に相当精通していることがうかがえる。
そして何故か栗田さんと山岡が銀座中央警察署に呼び出されている。この前の蕎麦の屋台の店主花川から「いろいろ聞いてるんだよ。」と中松警部。どういうことか?と行ってみると、暴れていた泥酔男の取り調べというか捜査協力というか。ま、しかし食い物のことなら山岡の出番というが周知されつつあるのだろうか。
泥酔して店のショーウインドウを叩き割り、警察に抵抗し刃物を振り回して、つまり公務執行妨害だろう。これらがどれくらいの罪になるのか分からんけど、中松警部の胸三寸におさめることなんて出来るのだろうか?。出来るんやろな。知らんけど。
話を聞くと、勤めていた老舗の鰻屋「筏屋」が代替わりして青年実業家の若旦那に代わって、効率重視の経営方針に変わり、板前としてやっていたこの泥酔男金三はその若旦那のやりかたに反発し、仕事が面白くなくなり、つい酒が過ぎ、暴れてしまったらしい。
じゃ「筏屋」をやめてよその鰻屋で働くというのも中松警部ならどこか良い店を紹介できそうではあるが、金三も昔気質の板前だけに「先代の御恩があるので他では働きたくない。なんか別の仕事をやる」と頑固である。それで困って山岡に相談を持ちかけたらしい。
その「筏屋」がニューギンザデパートに支店を出すというのを聞き、山岡に名案が浮かんだようだ。板山社長に話を通し、「大江戸物産展」が開催されるニューギンザデパートの催しもの会場に一時的に金三の店を出すことに決まった。
そしてニューギンザデパートの「筏屋」の支店は「鰻割烹 筏屋」となっている。ただの鰻屋じゃないぞ!という若旦那の意気込みと狙いが感じられる。実際に鰻丼でなく、鰻重と他に小洒落た小鉢などつけて客単価を高め、一回の食事としての高級感と満足感を演出して女性ウケするようにしたようで大繁盛している。
大量注文をさばくために、鰻は焼いておいたのを保温して置いて、注文が入ったら軽く炙って、注文から五分以内に出す。その効率化に金三は反発したようだ。しかしこの大繁盛にニューギンザデパートの担当者もニコニコ顔である。当然、若旦那も得意満面である。
と、そこに番頭らしき男が若旦那にご注進してくる。裏切り者の金三の店を見つけ、怒鳴り込む。番頭も「先代の恩を仇で返すとはふてぇ野郎だ」と息巻く。「筏屋」御家騒動はこの番頭が癌だな。
しかし、金三の店は客が入ってない。何を言っても客の入り、売上がすべて。しかも金三の店は「大江戸物産展」の期間内の一時だけ、ということもわかったのであろう。若旦那は余裕の表情で鼻で笑って帰る。
「世の中ホンモノの味がわかる客がいるはずだ」との金三の言葉通り、いや山岡の助けもあって、十日後にはその客入りは逆転する。そして、なんやかんやあって若旦那も金三と和解して、老舗の鰻屋の味と伝統は守られた、メデタシメデタシとなる。
いやちょっと待て!と言いたい。昭和のその時代ではそれで良かったかも知れんが、令和のこの世、どう考えても若旦那は「早すぎた」のである。今の時代なら若旦那のほうが正しいんじゃないか?。若旦那の戦略はまちがってないと思う。
昔気質の職人は本店で思う存分腕を振るうようにして、このギンザデパートの支店は筏屋のセカンドブランドとして、一見客や女性客にも入りやすいお店として、棲み分けすれば良い。今の時代、当たり前の戦略ではないか。
本店は天然鰻の本格、このギンザデパートの支店は養殖鰻で少しリーズナブルに敷居の低い店で良いではないか。実際、この令和の世にこういう鰻チェーンが大流行しているのである。
上記のYOUTUBEでは、コメント欄は不評の嵐ではあるが、牛丼屋チェーンなどでも鰻を毎年出しているところからも、ファーストフード的に早い、(そこそこ)うまい、安いでも商売になっているということ、やり方次第であろう。
時代が違うのもあるだろう。当時は外国産の養殖鰻の、しかも冷凍だろうし、それは相当に質が悪かったと思われる。しかし、天然鰻もその環境、生育状態にかなり影響されるのは当然だ。なにがなんでも本物、つまり天然が養殖に「絶対的に」勝るということはない。餌などが改良された養殖のほうが、餌などが恵まれない環境の天然よりも上の場合もある、ということは、のちの美味しんぼも認めているところである。
この回では若旦那は徹底的にやり込められたが、逆に言えば問題点が洗い出されたともいえる。ガスで焼くと玉ねぎの腐ったような匂いがつく、といっているが、九十一巻、あの飛沢初登場の「”焼き”の深さ」の回では炭火の焼き鳥より工夫されたガス火の方が美味しい焼き鳥が焼けると言っているのである。
また、ご飯と鰻を別々に提供するのは見た目は良いがすぐ冷めて味や風味が落ちるという欠点も器の改良で保温性を高める、または最近流行りのひつまぶし風に温かい出汁をかけてたべてもらうようにすれば良いだろう。
つまりここで言われた欠点を「改善」すれば良いのである。若旦那ならばPDCAサイクルくらいは当然知ってるであろう。一回の失敗でへこたれている場合ではない。改善のサイクルを回しまくれ!若旦那!。
あの番頭が悪いだけで?、平成、令和と時は流れて、この若旦那の戦略は復権しているのはまちがいない!と断言して冷凍中国産鰻を電子レンジでチンして一杯やるのであった。(つづく)