「美味しんぼ」再読備忘録2024「美声の源」‐第三巻「炭火の魔力」第7話‐
東西新聞社の創立百周年記念事業のひとつとしてドイツオペラ団を招待して日本公演が行われた。ドイツオペラ団の最大の眼目は世界最高の美声と謳われるマリアセレーネのその歌声なのだそうだ。
当然、文化部の栗田さん、山岡も招待されている。東西新聞社の創立百周年記念事業の目玉として「究極のメニュー」の発表があったのだろうが、それはもう言わぬが花なのかもしれない。
しかしその演目の途中でマリアセレーネの声が裏返るというミスが有り、そのままマリアセレーネは退場し舞台を放棄してしまうという、スポンサーの東西新聞社の面目丸つぶれの事態となる。
普通ならこれチケット払い戻しとか、とんでもないトラブルになってると思うが、それはなかったのか?外タレってワガママだからしゃーねえな、で
通用した鷹揚な時代であったということなのか?どうなのか?。
そしてなぜか唐突にジャズを聴いて帰る展開になる。この昭和六十年代後半の日本でのジャズがどうだったのか?すみません。当時ボンクラ大学生だった俺様はジャズを聴いた経験がないような…。何も語れません。
後に判明するが山岡は相当なジャズマニアである。この時、ジャズバーの店主と懇意なのはそういうことである。そして作中のジャズシンガーの黒人女性ボーカルのサディ・フェイガンというのはもちろん架空の人物であるが、女性ジャズ・ヴォーカリスト御三家の一人の「ビリー・ホリデイ」の本名が「エレオノーラ・フェイガン」なのである。これは原作者雁屋哲氏の遊びゴコロであろう。
そして例によって楽屋にまで案内されてソウルフードをごちそうになる。
ということがあり、ドイツオペラ団の話に戻る。マリアセレーネはギリシアの出身であり、長い海外ツアーに心身ともに疲れ果てており、ホームシックにかかっているのだという。
スポンサーの東西新聞社としてはここはマリアセレーネを元気づけるために、と出身であるギリシア料理店での接待となる。当然、栗田さんと山岡も呼ばれている。しかしこのギリシア料理店の料理はマリアセレーネの口に合わず接待失敗となる。
そしてこの山岡のドヤ顔の通りにマリアセレーネにとっての「ソウルフード」、つまり貧乏な漁村出身のマリアセレーネには東京に出店しているようなギリシアの上流階級に認められるような高級料理でなく、精製されていない野趣あふれる香りのオリーブオイルとタコや鯵などの大衆魚を普通にグリルして、オリーブオイルをぶっかけたような「ソウルフード」が必要だったというわけだ。
そして大原社主も谷村部長も喜んでいるマリアセレーネを見て「味噌汁が飲みたくなったな」「我々日本人のソウルフードですな」と締めてメデタシメデタシとなるのでした。
ところでドイツオペラ団なのにギリシア人のマリアセレーネが歌姫って、当時はなんとも思わなかったけど現代ならこれなんか移民とか色々むずかしい政治問題が絡んでんじゃないの?とかそういうこと考えちゃうんですけど、どうなんですかね?これって…(つづく)