「美味しんぼ」再読備忘録2024「料理人のプライド」-第一巻「豆腐と水」第5話

この回は「フランス人プライド高杉問題」とかのタイトルにしたほうが良いと思うが、まあやっていこう。

初登場の東西新聞社社員食堂で栗田さん、花村さん、田端さんと昼食をとっている。社員食堂のコックは若いながらも腕が良いと評判で、他の会社の人まで食べに来てるらしく、大盛況である。

食べ終わって食器を返却しているとその若いコックと守衛のおじさんが親しげに話している。聞けば守衛のおじさんはこの若いコック大里良夫の父親の旧友で良夫の名付け親でもあるという。そういやコックって最近言わないね。シェフに統一させてもらおうか。

守衛のおじさんは良夫君の名付け親でもあり、小さい頃から色々と面倒を見てきたのだろう。この東西新聞社の社員食堂に勤務したのもこの守衛のおじさんの推薦があったから、であろうか。

花村さんが大里シェフに「いつまでも頑張ってね」と声を掛けるも困惑するような大里シェフと守衛のおじさん。なにかワケがありそうだ。

場面変わって夜の料亭「松坂牛 伊勢銀」。東西新聞社主催の料理研修会に招かれたフランス人シェフを文化部の一同、谷村部長、富井副部長、栗田さん、山岡が接待している。しかし、山岡はずっと鼻くそをほじって相変わらずやる気がなさそうだ。お前、それ三回目やぞ?。

そのフランス人シェフのルピック氏はパリの三ツ星レストランの料理長もしくはオーナーシェフであり、何度も日本に招かれている日本通だが、松坂牛を食べるのは初めてということでこの料亭が選ばれたようだ。

しかし、銀座界隈の松阪牛専門の料亭って実在するのかどうか知らんけど、物凄く高そうです。普通に一人五万円とかしそう(酒代含まず)。いやもっとか?。そして当然、経費ですよね。

富井副部長が「ここの牛肉は世界一ですよ」と自慢するが、ルピック氏は「世界一?それはフランスの牛肉ですよ」と反論する。谷村部長が「ルピックさんは愛国者でいらっしゃるから」と柔らかく受け答える。

料理が運ばれてくる。まず牛肉の刺身が出る。ルピック氏は何度も日本に招かれているというだけあって、箸も上手に使っている。分厚い切り身なのに驚くほどの柔らかさ、そして牛肉と醤油がよく合うことにルピック氏が驚く。

ところでこの接待の場に通訳は居なさそうだし、ルピック氏はフランス語を話しており、東西新聞社の面々は日本語で話しているようだ。意思の疎通はどうなっているのだろう。漫画的表現でその辺は省略したということだろうか。

そして続いてヒレ肉の網焼きが提供される。また富井副部長が「このヒレ肉が世界一なんですよ」と自慢し、ルピック氏が「いや、世界一はフランス産ですよ」とムキになって返す。

ヒレ肉の網焼きは大きめの一枚肉だが、箸でちぎれる柔らかさ。当然味もよいのだろう。網焼きを食べたルピック氏に富井副部長が「どうです。世界一の牛肉は松坂牛でしょう」とダメ押しする。

ルピック氏は押し黙り不満そうにする。谷村部長は富井副部長に「きみがしつこくフランスの肉よりうまいというから…」とたしなめる。富井副部長はこの後も何度も何度も接待の場でやらかすのである。否、やらかしまくるのである。トラブルメーカートミーの誕生回といってよいのではないか。

美味しい肉であることは認めるルピック氏。肉の味はわかったので、内蔵も食べてみたいというが、このような一流の料亭では内蔵は出さないと聞き、「一番美味しいのは内蔵ですよ。そこを捨てるなんて日本人は肉の本当の美味しさを知らないのだ」と少し自身回復したようだ。

その時、それまで一言も発言しなかった山岡が、ルピック氏がモツ料理を食べたいのならば、「同じ牛ではないけど、牛の内臓を使ったモツ料理の店に案内する」と言い出す。

そして、連れて来たのは東京の下町月島にある「岸田屋」である。実在し、現在でも営業しているお店である。そしてモツ煮込みと酎ハイを全員分注文する。この「岸田屋」のモツ煮込みは人によると「東京三大煮込み」のひとつなのだそうだ。行ったことないけど行ってみたいな。

そのモツ煮込みはうまい。内蔵のいろいろな部位を水で何日間も煮こぼして醤油で味をつけただけのシンプルな調理法で、「ルピック氏の三つ星レストランで提供されるような高度な内臓料理ではないけど、日本人も内臓の喰い方は知ってます」と言う山岡。

その言葉にハッとするルピック氏。山岡の言葉を認めてしまうと「日本の牛肉が世界一であることを認めることになる」と怒り出すのであった。プライド高杉問題勃発。

また場面が変わって多分翌朝であろうか、何処かの料理学校で東西新聞社主催のルピック氏の料理研修会が開かれている。この研修会には全国から百名以上の募集があり、ルピック氏に最優秀と認められたシェフはパリに留学出来るという。多分、ルピック氏のレストランで働けるということだと思うけど。

取材に来ていた栗田さんと山岡はそこに東西新聞社社員食堂の大里シェフと守衛さんが来ているのに出会う。そして百名以上の募集者からいきなり五名に絞られて、最終審査を受けることになる。その五名の中に大里シェフも入った。やはり良い腕をしてるんだなあ。

しかし、ルピック氏はその大里シェフが山岡の知り合いだと知ると、「君の友人だと知っていれば合格させなかったのに」「牛肉のようにはいかんぞ。ソースはフランス人の命だ。日本人に本物のソースの味は出せない」と言い放つ。

このままやと最終審査でも大里シェフにはかなり厳しいことになるだろう。栗田さんは、(最終審査で駄目だったら私達のせいかも…)と責任を感じている様子。山岡もそう感じたのか「材料を仕入れに行こう」と提案する。

翌朝、「千葉 木山牧場」へ来た一同。守衛のおじさんついて来てんねんけど役にたつんか?そしてこれも「究極のメニュー」の経費で落ちてんのか?

牧場長に挨拶する山岡。牧場長は「海原の若旦那」と山岡のことをそう呼ぶ。電撃奔る栗田さん。「海原なんて知らん。山岡だ」と慌てて訂正する山岡。そうでしたそうでしたと牧場長。これ、知り合い全員にこれからは山岡と呼べとわざわざ連絡したんやろか?。

牧場長からなんとも見事なチャンピオンの牛を見せてもらう。普通やったらこの牛の乳も他の牛のと混ぜて出荷されてしまうが、このチャンピオン牛の乳だけだったら、「世界中どこに出してもグランプリものです」と太鼓判を押す牧場長。

このチャンピオン牛の乳だけで生クリームとバターを用意してくれ、という山岡。出来上がった生クリームとバターは大里シェフが今までに見たことのない最上質のものだった。しかもとびきり新鮮である。

さて、この牧場、牧場長が山岡のこと「若旦那」と呼んで敬愛しているようだ。昔から縁があったと思ってよいだろう。その後、第十巻第7話「牛乳ぎらい」の回で富井副部長のナマイキなクソガキのヒトシ君を連れて行った牧場と、第四十二巻「愛ある朝食」で栗田さんが出した牛乳とバターはここのじゃないのかな?と思ってるんやけど、どうかな?。

そして最終審査に残った五名中の四名は、ソースの味がぜんぜんだめとルピック氏に言われ、早々に落選となる。最後の大里シェフの番。ルピック氏はそのソースの出来に「完璧だ」と評価し、使われていた生クリームとバターの上質さと新鮮さに「こんなのフランスでもなかなかない」と驚く。そして山岡の元に行き、「あなたの仕業か」と睨みつける。

結局、大里シェフは唯一人ルピック氏のお眼鏡に叶い、合格となる。去っていく山岡の後ろ姿にルピック氏は「日本人もなかなかやるな」と脱帽するのであった。

そしてパリ留学に勇んで旅立った良夫シェフを見送ったであろう守衛のおじさんと、例の「岸田屋」でお祝いの酒宴となる。店の人からルピック氏からの手土産だと包みを渡される山岡。それは生ハムであった。多分ルピック氏のお手製であろう。

あれから毎晩モツ煮込みを食べに来ていたというルピック氏、山岡にプライドを散々傷つけられ、そのお返しの品ということらしい。その生ハムを切り分けて皆で食べてその美味しさに一同が感嘆する。

そういやこの時代、生ハムなんてそんなに流通してなかったはずだ。そもそも山岡以外の面々はもしかしたら生ハム自体初めて喰ったことであろう。生ハムがそこら辺のスーパーマーケットで当たり前に買えるようになるのはいつ頃からだっけかな?。

渋い、渋すぎる!

しかし最後のこの締めかた。最高である。







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