「美味しんぼ」再読備忘録2024「ダシの秘密」-第一巻「豆腐と水」第7話-


第6話と前後編というか、対になる回である。場面は夜の料亭「花やま」。前回、海原雄山が東西新聞社を訪れた際に、大原社主は海外へ社用に出ていて不在であった。その詫びということでもなかろうが、大原社主が海原雄山を招いて会食している。

杯を重ねつつ、大原社主は雄山に父子の和解を提案している。雄山、山岡が協力して「究極のメニュー」作りに取り組んでくれたら成功間違いなしだから、と大原社主。その助平根性には後で手痛いしっぺ返しが待っているのであった。

当然、雄山はその提案を一蹴する。前回の天ぷら勝負で山岡のことは「究極のメニュー」の担当者にふさわしくないと判定してやったではないか、あんなんといっしょにするな、と言いたげなと雄山。

続けて、和解などとんでもない。今は山岡は家を出ているが、出ていく前に山岡が何をしたか、知ってて、和解を提案してるのか、と大原社主に問う。

場面変わってタクシーの車内。いつもの面々、谷村部長、富井副部長、栗田さん、山岡が同乗している。そこで山岡が家を飛び出す前に海原雄山の作品、絵画、書、陶器などを全て残らず破り捨てぶち壊したとの山岡の告白を聞き、驚愕する一同。

タクシーは料亭「花やま」に着いた。谷村部長が「大原社主は別室で他の客と会っているので合流するまで我々だけでやらせてもらおう」と言う。雄山と山岡を和解させ、乾杯して協力して「究極のメニュー」に取り組んで万々歳というのが大原社主と谷村部長の描いた絵図やったんやろう。

しかし、残念ながらそんな簡単にこの親子が和解したら「美味しんぼ」は百十一巻も続いてないのである。自分の作品を全て台無しにされた話を聞き、「そんなことがおありとは…」と落胆する大原社主。

そこに吸い物と魚の煮付けが運ばれてくる。吸い物に口をつけて雄山が「女将を呼べ」と仲居に言う。


この、ムホッがエエよな。ムホッが

そして女将が来るのを待つあいだに煮付けにも箸を伸ばす。そして…

この男が後に「もてなしの心」とか「作法は心映え」とかなんとか言うようになるのだから…

そしてこれ。飛んで来た女将に雄山が「私が誰だが知らぬはずはあるまいな。」と言う。知らん言うたれ女将(無理)。「当然です。この料理の世界の者で海原先生を存じ上げない者は居りません」と平身低頭である。

「この私を海原雄山と知ってよくもこんな吸い物と魚の煮付けが出せたな。作り直してこい」と命じる雄山。そして「なにか不都合なことが…」と言っていた大原社主に向かって「こんな店の料理をうまいと言っているようでは美食倶楽部の会員の資格ないですな」とチクリ。大原社主は「いやこの店はもっとうまかったはずですが…」とシドロモドロである。

この第一巻でこの第7話で料亭が三度登場して、二度がイマイチ、一度は豆腐と水の判定するのに料亭を借りただけ。銀座周辺にもっと良い料亭はないのか?。そもそも豆腐と水の判定に借りた料亭「白扇」、なんで使わんねん?。

そして別室の文化部一同に場面は移る。こちらは料理が全部出終わったようである。大満足の富井副部長。しかし、イマイチと感じていた栗田さん。谷村部長は別室の大原社主と海原雄山が合流してこないので、うまくいかなかったようだな…と不安げである。

別室の様子を確かめようと女将を呼ぶ谷村部長。しかし現れた女将がオロオロし泣いている様子であり、明らかに異常である。声を掛けると「別室に厳しいお客様が来ており、吸い物と魚の煮付けの味に納得せず、二回作り直させた。」しかしそれでも客は満足せずもう一度作り直せと命じられたら、今度は板前が怒って出ていった、とのこと。

谷村部長は「最近、板前が代わったのか」と問う。「おわかりになりましたか。実は先月、花板が事故で入院し、代わりの板前を臨時で雇ったが腕前が今一つで…」と女将。その別室の客、つまり雄山にあんたのせいで板前が怒って出ていきました、とも言えないであろう女将は進退窮まった様子。

それを見かねて山岡が俺がやろうと申し出る。「素人のお客様にはとても…」と言ってた女将ももうどうしようもないので山岡に任せたのか?。素人の赤の他人に厨房に入られて、板前の弟子とかも怒り出しそうなもんやけども。どうなんかな?。

ところで吸い物と魚の煮付けの前に順番からすると先付けが出ていたはずやけど、それを食べた雄山は怒り出してなかったようだ。まあ許容範囲内やったんかな?。

さて、厨房では、鰹節の削り器は錆びており、薄くかけない。しかしこれ錆びた削り器で鰹節を削ってたのか?。錆の味とか匂いとかしそうやな。山岡は仕方ないのでタンブラーを割ってその破片でうすく鰹節をかいて吸い物のダシをとる。魚の煮付けに使う昆布のダシも「引き出し昆布」の技法を用いてダシをとる。

実は美味しんぼの料理を再現しているYoutubeのチャンネルは結構あるのです。この技法を再現してる回もありました。興味があったらご覧ください。

大原社主と海原雄山に出来た吸い物と魚の煮付けを女将が持っていく。三度目の正直である。待っている間に雄山に散々バカにされていた大原社主、(店が気に入らなければ席を立てばいいものをこうやって何度も作り直すことで私に恥を…)と内心、腹に据えかねている様子。こんな親子を和解させようと思った、ちょっと前の自分をぶん殴りたいであろう。

そして実は山岡が作り直した吸い物と魚の煮付けをそれとは知らず褒めちぎる雄山。「さっきとまるで味が違う」と大原社主。「板前が代わったのか」とその板前を直接ほめてやろうと厨房に来た雄山は、そこに山岡の姿を発見し驚き、憮然となる。

「こんな奴が客と知ってりゃ作らなかったのに」と山岡。「このダシの取り方は私が教えたものだし、なによりこれくらい美食倶楽部なら誰でも出来る。素人がいい気になるな」と雄山。ダシの技法は分かっていても誰もがその通りに作っても同じ味になるものではないことは雄山ならば百も承知であろうに。


この大原社主の顔!

「でもアンタさっきあんなに山岡の料理をほめちぎってたくせに~」とニヤニヤする大原社主。美食倶楽部を脱会することになってもうたけど、さっき恥かかされた仕返しが出来て良かったね。

これで一勝一敗だと喜ぶ富井副部長。しかし、まだだ、これでは勝ったとは言えない、と新たに闘志を燃やす山岡であった。でも仕事中に競馬場に行ったり居眠りしたりはやめないよってオイッ!。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?