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「美味しんぼ」再読備忘録2024「接待の妙」‐第三巻「炭火の魔力」第6話‐
アフリカの飢餓を救うために東西新聞社でも寄付を集めることになった。社内の各部にノルマを割り当てられて会社を回って寄付を募ることになったようだ。文化部も谷村部長と栗田さんが大口寄付をしてくれそうな会社を回っている。
そのためにまず日本でも五指に入る「大日石油」を訪問している。しかし、まず本社ビルの外観がオンボロで栗田さんがそのギャップに驚いている。なかに入っても外観に負けず劣らずオンボロそうで、エレベーターもなく、で階段は階段で木造でギシギシと音を立てており、おっかなびっくり四階まで上がって社長室についたが、そこで掃除しているおじさんに「社長室はどこに?」と聞くと、「階段の脇にあるだろ?どこに目をつけてんだ」とケンモホロロの対応である。
しかし、その失礼な掃除のおじさんが社長の成沢氏であると聞き、二度ビックリである。そして寄付の話を切り出すと
「何?日本三大ケチの一人として名高い私にアフリカの寄付を募るだと?」
と一筋縄ではいかない感じの成沢氏。
「寄付金のリストのトップに社長が高額の寄付金を頂いていると書いておきますと他の会社も寄付金を弾んでくれるでしょう」とにこやかに返す谷村部長。
「なるほどケチ平と言われる私が寄付をしたのだから他の会社も断りにくいよな。うまいこと考えたな」とニヤリ。しかし、「それならば財布の紐が緩むように接待をしてくれよ」ということを婉曲的におねだりする成沢氏。しかし、これは罠であった。
東西新聞社に戻って大原社主に報告すると「なるほど。寄付して欲しかったら接待しろと?。さすがはケチ平と呼ばれるだけのことはある。よろしい。接待して寄付してくれるなら万々歳だ。ケチ平が見たことないくらいごちそうを並べて度肝を抜いてやれ。」と大原社主からGOサインが出る。
そして接待の夜。初登場の料亭「新川」で宴が始まる。大原社主は栗田さんと山岡も同席しろという。これはどういう意図だったのか?。贅を尽くした料理が出るから、だけなのか?。
ケチなのでそんな贅沢したことないであろうからドカンと贅沢させたら逆にシュンとなって、こちらがペースを握って、すんなり財布の紐が緩むであろうと大原社主は想像したようだが、そこはさすがに日本三大ケチの一人の成沢氏であった。筋金入りである。
豪華な料亭の一番良い部屋で最高級のもてなしをしたらシュンとなるどころか、お前らアホか!と怒り出したのであった。「こんな金があるなら、そして他人に寄付を求めるなら、その金を寄付すればよいではないか。自分はケチ平と呼ばれているが、それは自分の納得できない金はたとえビタ一文払いたくないということだ。こんな無駄金の使い方は一番キライなんだ。」と言う。
さらに「こんなバカみたいな金の使い方をするあなたがたに金を預けたらどうなるかわからない。ふざけるな」と席を立ち、帰っていった。料亭の女将に「自分の分の食事は折に詰めといてくれ。後で社員に取りにこさせる」と念のいった捨て台詞を残して。
呆然とする東西新聞社一同。これには山岡も脱帽するしかない。いやしかし…
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いやあの…って場面だよね。
しかし、ケチ平こと成沢氏に寄付の嚆矢をお願い出来るのと出来ないのとではその後の展開に大きく差が出るし、なにしろ一番最初に声かけた成沢氏を怒らせたままでは外聞が良くない。
と、困っているところに今からなにやら「百貨店のレストラン」へ行こうとする浮浪者の辰さんと出会ったことで山岡が妙案を思いついた。それを谷村部長と大原社主に提案すると、それはちょっと…と東西新聞社一の常識人の谷村部長が躊躇するようなアイデアであった。
しかし、大原社主も茶目っ気溢れる人物である。もともと、山岡を同席させたのも、もし成沢氏が接待に納得しなかった場合の最終手段というか保険の意味合いも大いにあったと思われる。非常識には非常識をぶつけるというか、この場に至っては山岡に頼るしかないと、大原社主はその山岡の破天荒なアイデアに乗った。
それはデパートの地下食品売り場の試食品をフレンチのフルコースに見立てて食べ歩きするという驚きの接待であった。それが辰さんの「レストラン」であり、もちろん、それを案内するのはこの道二十五年の浮浪者の辰さんである。辰さんは銀座界隈の有名店の厨房のゴミ箱など掃除して、余り物などをもらっているので実は口が肥えているのだ。
その「辰さんのレストラン」の接待に成沢氏は納得し、結局一億円の寄付をしてくれたのだが、成沢氏は「ただのケチではなく、金の本当の遣い方を知っている男」と山岡が尊敬の念をこめて評したように、この話以降に出てこないのが惜しい人物である。この日本三大ケチの一人の成沢氏に続く他の二人も登場するのか、と心待ちにしていたのは俺様だけであろうか。
またこのようなお金だけを渡す寄付は、送った人らの自己満足に過ぎず、アフリカの人のために本当にならないんではないか?。まず単純にこのお金は全部アフリカにいかず、中抜きして贅沢に暮らしているような仲介人が居るらしいこと、金が渡ってもアフリカの偉い人の懐に入り、本当に必要な庶民に金が回らないなど、弊害も指摘されている。
そして、昨今では、単に金をばらまくより、アフリカの土地を耕して農作物などを作る、井戸を掘るなど、自分らで金を稼げるような自助的な支援に変化しているというのは、良いことなのですが、しかし、この井戸を組み上げる機械や作物を作る設備などが、いつの間にか売却されてしまう、井戸の利権などを巡り、周囲との新たな争いの種になる、など難しい問題も生じています。援助って難しいですね。今もどうすべきなのか、という明確な答えが出ていないようです。(つづく)