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「美味しんぼ」再読備忘録2024「寿司の心」-第一巻「豆腐と水」第3話-


栗田さんが会社にお弁当を持ってくる。おむすびをたくさん持ってきたので、と皆にも振る舞う。文化部の皆はうまい、うまいと絶賛するが、競馬場に馬券を買いに行くらしい山岡にもすすめると、山岡は一口食べて「30点」とボソリ。栗田さんはショックを受ける。

夜になって、「究極のメニュー」に対してやる気を見せない山岡に対して、大原社主、谷村部長、富井副部長が事情聴取とばかりに会食しながら話を聞こうと銀座の寿司屋に誘われる。

その寿司屋「銀五郎」は銀座でも一番と評判の店だ。店主銀五郎は客に怒鳴り散らし、威張りくさっている。その態度に山岡は反感を持っているようだ。銀五郎の高圧的な態度にすっかり萎縮してしまって、栗田さんは寿司を注文出来ないでいる。

それがまた銀五郎に火をつけたのか「貧乏人の小娘は自分がなにを喰いたいのかもわかんねえのか」「うちみたいな超一流の寿司はあんたにはまだ早い」「スーパーのパックの寿司が似合ってる」などと散々に馬鹿にされる。

現在だとこのような店でもし栗田さんのようなメにあったら、一部始終を動画に撮ってSNSにアップされて、逆に大炎上となるだろう。この回ではこのペコペコするお客は全員社用族の紳士ばかりのようだが、令和の今、女性同士で、なんから女性一人でも奥せず入店し、堂々と飲食する時代だからだ。

だから読み返してみて銀五郎の態度には怒る、嫌な気持ちになるというより、この当時はこういう店があったよな、という感想しかなかった。客に対してこれなのだ。多分、下働きや弟子への暴力などは日常茶飯事だったろう。

孤独のグルメでも下働きの中国人店員を怒鳴り散らす店主にゴローさんがその態度をたしなめ喧嘩となり、挙げ句高度な関節技を仕掛ける場面があったが、実際、食事の最中に、店で怒号が聞こえたら食欲は減退するし、味などわからなくなるから、こういう店が少なくなってきたとしたらそれは正しいと思う。

しかし、銀五郎の接客態度より気になったのが、栗田さんに対する銀五郎の暴言に

今ならイジメとかいうかハラスメントよな

このようにニヤニヤするだけで明らかに困っている部下を助けようともしない大原社主、谷村部長、富井副部長のこの態度であろうか。

昔ならなんなら一緒にニヤニヤしてたであろうが、再読して最も気になったのが、この上司らのこの態度であり、正直集団的なイジメにも似た気持ち悪さを感じたのが再読しての驚きであった。またこの銀五郎の得意気な顔がさらにムカツクではないか。

そして、山岡がついに助け舟を出すと思ったら「オヤジの言うとおりだ。スーパーのパックの寿司を喰え」と言い放つ。ここまで我慢していた栗田さんは山岡にまでバカにされたことで堪忍袋の緒が切れとうとう怒り出すが、山岡は続けて「こんな店の寿司よりスーパーのパックの寿司の方がよっぽどうまい」と言い…

続けて「確かにネタは最高、シャリも最高、しかしそれを握るオヤジの腕が最低だ」「日本人ってのはどっかおかしい。客のくせにペコペコするな」とズバリと一刀両断する。

当然怒り出す銀五郎。臆せず山岡は「明日の午後、俺に付き合ってもうう。お前に本物のスシがどんなものか教えてやるッ」と例の決め文句を言う。銀五郎は「ふざけるな」と今にも山岡に掴みかかろうとするが、大原社主の「面白いじゃないか。わたしも付き合おう」の一言でその場は収まる。この頃の大原社主にはこの威厳があったよなあ。

翌日の昼、中央区佃島へと繰り出す一同。いかにも下町風情ただよう長屋の並びに目指す寿司屋「しんとみ寿司」がある。そして銀五郎と「しんとみ寿司」の店主富二郎との寿司勝負となる。

その富二郎を見て大原社主は「おお、やはりしんとみ寿司の富二郎じゃないか」と懐かしそうに言い、富二郎も「大原さんおひさしゅうございます」とにこやかに返す。大原社主はこのしんとみ寿司の常連であったようだ。

さて、寿司勝負が始まる。寿司ネタが三つ並ぶが、この頃の画力がナニでアレであり、マグロ以外の寿司がなんだかよくわからない。しかも銀五郎、富二郎が普通に並んで皆の眼の前に寿司を出してるので、判定する大原社主、谷村部長、富井副部長、栗田さんがいくら目かくしても誰が握ったかわかりそうなもんだが、どうなんだこれ?。

ともかくも目隠ししての判定は、まず栗田さんが鋭いところを見せ、富二郎の握った寿司を「ご飯がサラリと崩れてネタとシャリがたくみにとけ合う」と評し、続いて大原社主も栗田さんの評定に同意し、逆に銀五郎の寿司を「ネタとシャリがバラバラ」と言う。

そして最初は「どちらもうまい」と悩んでいた谷村部長も「わたしも富二郎の寿司の方がネタとシャリが見事に調和していると思う」と言い、最後まで判定不能の富井副部長は置いといて、3対0で、富二郎の勝ちとなる。しっかりしろ!トミー!。

この判定に当然不服な銀五郎。しかし山岡は「味の違いをお前の目に見せてやる」と言い、何処かに電話をかける。そして場面が切り替わり、東都大学病院のCTスキャナが置かれた研究室のようなところに一同が集まっている。

そして造影剤をまぶした米で握ったという寿司をCTスキャナにかける。造影材を用意してたんか?山岡。そして造影剤をまぶした米でよくおとなしく寿司を握ったな銀五郎。

さらに山岡がこの寿司を渡したのは大学時代の同級生とかそんな雰囲気の人物で、山岡の謎の人脈がこの回に早くも登場するのであった。この謎の人脈に対しては、山岡どんだけ顔広いねん。どんだけ日本中いや世界中にも友人、知人がおるねん!と読者、特に俺様はこの後に何度も突っ込むことになるのであった。

CTスキャンの結果、富二郎の寿司には米粒の間に適度なすき間がありムラがないこと、銀五郎の寿司はピッタリとすき間なく固められており固まり具合にもムラがあると出る。

そして山岡の決め台詞が出る。

山岡カッコイイ!

「大学病院まで引っ張り出されて散々こき下ろされて、手前ェはなにがしたかったんだ」と力なく反論する銀五郎に「俺はただ言わずにはおれなかっただけさ…」とさみしげに呟く山岡が更にカッコイイのであった。

この結果に銀五郎は肩を落としスゴスゴと帰っていく。この顛末にフフッと笑う谷村部長、大原社主がその後ろ姿を見送り「これで銀五郎も昔の腕を思い出すだろう」とポツリ。

もしかしてこういうことになるんじゃないか、と大原社主と谷村部長は最初から目論んで、皆を、山岡を、銀五郎の店に連れて行ったんではないかとも思えてくるけど、どうなのかな?。

その後、しんとみ寿司に戻って、富二郎の寿司を堪能する一同。銀五郎の店の時とうって変わってリラックスして寿司を楽しむ栗田さん。それを見て山岡が「スシだけじゃない食い物はみんな心さ。究極のメニューなんてその心をどうやって表せっていうんだ。出来っこない」と言い、大原社主、谷村部長、富井副部長を暗くさせる。

しかし栗田さんがそんなひねくれた山岡の態度に「グータラのくせに偉そうに。ここのお寿司を食べる資格ないわ」とやり込める。山岡と栗田さんが段々よいコンビになってきたな、とばかりに、にこやかに杯を重ね合う大原社主と谷村部長。

翌日であろうか、また東西新聞社のランチタイムに栗田さんはまたおにぎりを握って来て、競馬場に行くらしい山岡に再度自分のおにぎりを勧める。山岡はそのおむすびをひとくち食べて、今度は「もらって行くよ。競馬場は腹が減るからな」とおにぎりを受け取る。

「この前は30点とか文句行ったくせに!」と怒り出す花村さん、しかし、栗田さんは満面の笑みで山岡を見送るのであった。いやあ22ページのこの話に登場人物の描写、性格、起承転結が無駄なく詰め込まれており、読ませるよなあ、初期美味しんぼは。



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