「美味しんぼ」再読備忘録2024「日本の素材」‐第二巻「幻の魚」第4話‐

冒頭、「小学出版」の招きで来日したフランスで著名な料理批評家のジャン・モレル氏を囲むパーティーに大原社主、谷村部長、栗田さん、山岡が招待されやって来る。

ジャン・モレル氏はレストランガイドを毎年出版しており、星一つもらえるだけでそのレストランは大繁盛、一生喰っていけるレベル(谷村部長談)であり、更に三ッ星となると…どうなるか?は描かれてないけどもうウハウハ状態になるんやろなという料理界への影響力が半端ない人物である。

今回、モレル氏は日本のフレンチレストランを調査して来年のガイドブックに載せるために来日したとのこと。そして、まず東京の有名フレンチレストラン数店からシェフを招き、その腕前を確かめてもらおうという趣旨である、と「小学出版」の社長から説明がある。

東西新聞社の一同は席につき、大原社主から「究極のメニュー」についての進捗状況を聞かれる。実際あまり進んでいないが、本物を追求するためにまず本物の材料探しから手をつけたい、そしてそれは非常に時間がかかる、ということを大原社主に認めてもらった。やったぜ!これで経費使い放題だ!。

そして東京の有名フレンチレストランの各シェフのこれぞという得意料理がそれぞれ運ばれてくる。全てを味わってのジャン・モレル氏の感想は「実に美味しい。見事です。」と絶賛する。緊張していたであろうシェフも胸を撫で下ろした様子である。「日本がフランスに並んだぞ」と招待客らも無邪気に大喜びだ。

しかしジャン・モレル氏は続けて「料理は美味しいが、似たようなメニューをフランスで食べたことあるものばかり。つまりは真似でありコピーでしかない。料理は芸術である。芸術であれば単なる模倣は評価に値しないのと同様に、今日の料理は最低の料理であるという他ない」とバッサリ切り捨てる。

一転、落胆するシェフたち。ジャン・モレル氏の発言は大変に厳しいが「モレル氏の言う通りでしょう。ピカソに絵を習って模倣するだけではどうしようもない」と山岡も納得の様子。

しかし、氏の続けての発言で「これで日本人の味覚がどの程度かよくわかりました」と主語を大きくされたことで山岡の反骨心に火がついた!。山岡は大原社主に「社主、今度は俺にモレル氏を招待させて下さい。モレル氏の味覚に挑戦です。日本人の味覚にかけて!」と頼む。俺の名前で招待するけど費用は東西新聞社持ち!。ドヤァ!。

その後、その足で山岡は小さいビストロを訪ねる。最近よく行ってるらしいお気に入りの店で、そこのシェフは若いが腕が良いと山岡が認めているようだ。更にフランス留学していない、フランス料理の権威、呪縛に染まっていない、その部分に魅力を感じ、勝負になると踏んだらしい。

そして翌朝、シェフと一緒に築地市場で魚と貝を仕入れる。ついで山岡はメインの牛肉を探しに長崎へ行くと言い出す。「あきれた。社費を自由に使えるからって長崎まで牛を探しに行くの?」と栗田さん。ほら。本物の味は本物の材料から、やからね。社主の公認ももらったし、経費もバンバン使いまっせ!。

その甲斐あって、日本式のビールを飲ませたりマッサージしてサシが入りまくった肉より放し飼いで牧草を食べて育ったしまった肉質のフランス人好みの牛肉を手に入れることが出来た。

あのビストロのオーナーらしき女性は佐賀とか長崎あたりの方言バリバリの男勝りの豪快な女傑だった。長崎の牛はもしかしたらこのオーナーの伝手があったのかも知れないね。

さて勝負の夜、江戸前寿司の技法で調理した蒸し鮑やスッポンのコンソメ、スダチを添えた鮎のホイル焼きが出て、見たこともない調理法や素材の活かし方に最初は懐疑的であったジャン・モレル氏も大変興味深く素材や調理法の説明を聞き、料理を楽しんでいる様子である。そして味にも満足しているようだ。

メインの、例の長崎牛のステーキも食べて味わい「日本にもこんな牛が居たのか」と驚いている。フランス人好みの牛を探してくるという狙いはあたったようだ。もしかしたら松坂牛や神戸牛を食べさせてもらってたのかも知れないね。

一見生に見えるそのステーキは実は大きな塊を焼いてその中心部分を取り出したという非常に手の込んだ物である。ステーキの調理法だけでなく、肝心のソースについても、材料から調理法までピタリと言い当てるジャン・モレル氏はやはり凄い人である。しかし、そのモレル氏にも味の決め手となる隠し味が何かわからない。

ジャン・モレル氏は厨房に突撃してシェフに「自分のレストランガイドにこの店を、君のことを大々的に取り上げる。星一つ、いや二つ献上する。しかし、このソースの隠し味を教えてくれたら三ッ星を進呈します!」と興奮気味に提案する。

三ッ星となるとそれは日本人シェフ初の栄誉となる。盛り上がる周囲。しかしシェフは「ソースの秘密は教えられない」とキッパリと断る。ジャン・モレル氏は落胆しつつも、その言葉に「そうだろうな。ソースはシェフの命だから…」と納得するしかない。

そしてジャン・モレル氏は山岡に向かって「素晴らしい料理と素晴らしい料理人に出会えた。貴方のおかげです」と感謝を述べる。「そう言っていただいてホッとしました」と珍しく殊勝な様子の山岡。

栗田さんはこっそりとシェフに隠し味の秘密を尋ねる。シェフは「醤油です。醤油を一滴入れたんです。牛肉に合うソースは醤油だとある人に教えてもらいました」という視線の先には…

多分これまでで一番ハンサムに描かれた山岡

さて、冒頭。ジャン・モレル氏には今回通訳が付いていた。しかし、

さすがメインヒロイン!

この場面、通訳したのは谷村部長のようだ。となると第一巻の第5話「料理人のプライド」のフランス人シェフのルピック氏の接待の場面で通訳の姿がなかったが、あれは谷村部長が通訳していたということだろうか。

実は後々色々とでてくるが、東西新聞社はフランスとの関係が深いので、谷村部長もフランス駐在の経験があるのかもしれない。もしかしたら大学時代はフランス語専攻とか留学経験があるとか?とすると部長のジェントルマンぶりもフランス仕込みなのかも?。

フランス仕込みのジェントルマン?

そしてパーティーには他に何人も妙齢の麗しきご婦人方も招待されているようなのにジャン・モレル氏に見初められる栗田さんは流石メインヒロインである。その魅力でジャン・モレル氏には教えなかったソースの隠し味もシェフからちゃっかり聞き出しているし、栗田さん恐ろしい子ッ。

そのソースの隠し味の醤油やけど、「18世紀に醤油、多分九州の甘い醤油が長崎の伊万里焼の陶器に入れられて欧州に運ばれ、欧州貴族の晩餐会などで料理人が調理の隠し味として使用し、ルイ14世も珍重した」とか、全然隠れてへん隠し味の逸話がまことしやかに伝わっているんよね。

これが眉唾もののハナシでなく、ホンマやとしたら、ジャン・モレル氏は醤油の存在を知らんかったんかな?とちょっとへんに思うけど、どうなんかな?。

この女傑とシェフは良いキャラだし面白いコンビだと思うのに、これ以降の出番がない(ないよね?)のが残念である。(つづく)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?