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渡辺一夫敗戦日記/串田孫一・二宮敬編

#本代サポートします
企画で読みたくなり寄り道した本。

読み始めて、借りて良かったと思っている。

土曜日の夜に図書館予約して、日曜日にもう借りられるとはありがたい。

Amazonのリンクの見た目とは違い、図書館で借りた本は、

落ち着いたグレージュで
背表紙にタイトルがあるだけで、無地なのだ。
(この記事のヘッダーがこの本の表紙である。)

中のページの2枚目に小さな絵と
タイトルが入っている。

本の表表紙にも裏表紙にもまったく一文字の文字もない本は初めて見た。
でも好きな装丁。

フランス語だったら、読めないわ。

と思っていたが凡例があり、

文頭に*ひとつ
→原文がフランス語

文頭に**2つ
→原文が日本語

となっていて、都度その他注釈もあるので読みやすい。

以下引用の最後の日付は私がつけたもの。

*もし竹槍を取ることを強要されたら、行けというところにどこにでも行く。しかし決してアメリカ人は殺さぬ。進んで捕虜になろう。1945.3.12

渡辺一夫 敗戦日記より

バルザックの『暗黒事件(フランス語で書かれる)』を読む。
イエナの戦前、丘の上に立つナポレオンは言ふ、敵味方にどの位優秀な青年がゐるか判らぬ。しかし、死なねばならぬ、と。
この考へが人類を不幸にしてゐる。
偉人はむしろこの優秀な青年達を生かすやうに努力する人々だ。Nは外道だ。1945.3.12

渡辺一夫 敗戦日記

己は日本国民の新生の為なら死んでもよい。しかし潰滅(フランス語で)の為にはnon!
1945.3.13

渡辺一夫 敗戦日記

**
1、頭は三分刈にすべし
2、三分刈以上の刈髪をせる理容師は営業停止す
3、巻ゲートルをつけざる者は電車に乗るを禁ず
1945.3.17

渡辺一夫 敗戦日記

渡辺一夫さんや串田孫一さんの自宅が空襲で消失したことの悲しみ、田舎への疎開、家族のこと、仕事のこと、日本のこれからのこと。

いろんな思いが日記に、強い言葉、ありのままの言葉で綴られている。


戦争犯罪者のリストが外ム省にあるさうだ。もちろん重慶作製のもの。
*連中は我々のため、民衆のために死ぬ気はない。奴らは我々を巻き添えにして死のうと思っているし、力と策略により我々を破滅の淵に引きずり込まんとしている。
1945.3.17

渡辺一夫 敗戦日記

僕は初めからこの戦争を否認してきた。こんなものは聖戦でもなければ正義の戦いでもない。我が帝国主義的資本主義のやってのけた大勝負にすぎぬ。当然資本家はこれを是認し、無自覚な軍国主義者は何とか大義名分を見つけようとしたのだ。
1945.6.20

渡辺一夫 敗戦日記

この時、反戦を大っぴらには唱えるのは危険だったに違いない。
日記にぶつけられる怒りが伝わる。

動員されたら、機械になるだけだ。
1945.7.7

渡辺一夫 敗戦日記

*埃にまみれ、荒れはてた書庫に茫然と坐す。この書物をいずれ灰となる。何ものかを築かんとして購ったこれらの書物はすべて、無に等しい。
1945.714

渡辺一夫 敗戦日記

*昨夜突然、僕は七日に芳枝に出した手紙のことを考えた。もしあれが検閲によって開封されたりしたら!
恐ろしい不安に襲われて、本を読むことも、眠ることもできなくなった。もしあれが検閲されたら、公的な証明書を偽造したとして告発されかねない。大いにありうることだ。間違っていた!

渡辺一夫 敗戦日記

検閲。
自分の書いたものが勝手に開封される。
大したことを書いていない私などの手紙でもいい気持ちはしない。
戦場下で毎日切迫した日常を過ごさないといけないのは苦しい。


そして、終戦。
八月十五日のものはない。

八月十八日
*母国語で、思ったことを何か書く歓び。始めよう。
**十四日登校。和平の噂聞く。
出教授「もう死ぬ薬は要らぬよ」と言ふ。帰途江戸川アパートに隈本叔母を訪ふ。和平の噂聞く。

渡辺一夫 敗戦日記


戦争が終わった時の歓び。
意外とあっさりで。
玉音放送のことは書いていない。


終戦後も、続敗戦日記として、1945年8月18日から11月22日までが続く。

八月十八日
壕中に納めて置いた書物を全部出した。十分に新聞紙で包み、それをカーテンでくるんだものは、かびの生え方も少いやうであった。

渡辺一夫 敗戦日記

3ヶ月の間地下にあった本との再会再を喜ぶ。
私だったら何を地下に埋めるだろうか。

九月五日(水)
十時、外国文學科の会。
集まる程のこともなし。
「外国を知らぬから負けたんだ」と諸教授申される。
「外国を知らぬからこんな馬鹿な戦争を始めたのだ」と訂正すべきものであろう。

渡辺一夫 敗戦日記

その他串田孫一さんへのお手紙も掲載されている。

後半の書簡には、戦争直後の暮らしが分かる内容も多い。

渡辺一夫さんの子供達が、『進駐軍のチョコレートを欲しがって困ります。一つ二〇円なので、七つ位買ふと月給がなくなるのです。』なんて記述もある。

何の気なしにすぐにチョコレートが買える今の時代。ありがたいことなんだな。


これは読まないとなかなか伝わらない本なのだが、読んで良かったと思うし買って手元に置きたいかもしれない。

渡辺一夫さんの他の著書も読みたくなった。

昔は今より娯楽が少なかったから、本を読む時間も多かった。

サポート本を読まないといけないのに大きく脱線中の私。。。


子供の頃、戦後はもっと近い気がした。
国語の教科書にも戦争の話はあったと思う。
一つの花とか一生懸命芸をするゾウの話とか。(あれで動物園が苦手になった気もする。)

街にもたまに傷痍軍人さんが座っていて目の前にお金を入れる箱を置いていた。
子供ながらに見るのは辛かった。

そんな風景も今はなく、戦後が遠くなって。

来年は戦後80年。
まだ100年も経っていないのにだいぶ昔の気がしている。

改めてあの時代のこと、昭和のこと、読みたくなった本だった。

サポート本の寄り道、次に買いたいのは串田孫一さんの『博物誌』。

今探し中。。。

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blanche
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