理想の家庭、現実の世界


私の両親は比較的仲が良い。

幼い頃は同級生の間で話題になることもあったくらいには仲睦まじい夫婦である。また、そんな夫婦の間に産まれた私たち兄弟も仲が良いとは思う。

そんな家庭を作った両親に日々感謝している。(小っ恥ずかしくて本人に言えた事はないが…)


そんな家庭で育った私ではあるが、不満がないわけではない。「恵まれた家庭で育ったから文句言うな」のような事を言われたこともあるが、不満がないわけがないだろうとしか思えなかった。



1つ目は外出。

兄弟の歳が離れているため、買い物等の両親と私の3人で出かけることが多かった。アウトレットやショッピングモールは3人で仲良く歩く。ここまでは良くある事だし、ドラマでも描かれがちである。

ここまでは問題ない。

問題は車で移動中だ。

父は運転、母は助手席に乗るのが定番の位置。私は後ろに乗って本を読んだり、ゲームをしたりして過ごしていた。すると、前方でラブラブオーラが出始める。会話が初々しいカップルや新婚のソレ。甘ったるい、砂糖を直接食べたときのような空間が生まれるのだ。そもそも前にも書いたが兄弟の歳は離れている。つまり、夫婦になってからそれなりに年月が過ぎているのだ。しかも、時折ふられる話題に当たり障りない対応をしなければならない。ここでの対応をミスり口喧嘩に発展されては困る。それが最初の苦痛だ。



2つ目は片方と2人きりのとき。

先ほど話した甘ったるい話ではなく、こちらはただの愚痴。私のではない。お互いのである。

母と2人きりの場合は父に対する愚痴を聞くことになる。ここでは大半が頑固過ぎるということについてだ。逆に、父と2人きりの場合は母に対する愚痴を聞くことになる。ここでは大半が母の行動力についてだ。話を聞くに両者の意見は同意できるところもあるが、これがまた酷い。お互いを尊敬しつつも裏で思っている事を話す。そうすると根深い愚痴が至る所から出てくる。

これを聞く身になってほしい。内容までは流石に言えないが、板挟みになるため結構困っている。両者の捌け口は他にないのかよと思う。いや、むしろ、他にあったらそれはそれで大変なことになりそうなのでやめて欲しいが……



3つ目は日常的な話だ。

歳の離れた兄弟からも大切にされてはいるが、両者の過保護っぷりが凄い。高校での部活の顧問から言われた「お前、箱入り娘だな」が未だに嫌な記憶として残っている。確かに側から見たら箱入り娘に見える現状ではあった。送迎は父、遠征は両親揃って来ることが多かった。元々、運動が好きな両親だから余計に行きたいと思うのかも知れないが、私としては困る一面だった。

また、成人するまでは暗黙の了解で21時台には必ず駅に着く事という門限があった。むしろ、学校以外で20時を過ぎると「遅い!」と言われた。大学へは片道2時間以上かけて通うため、友達と夕飯を食べてから帰る事はほとんどない。

成人後もその門限はあまり緩和されていない。時間が23時までに駅に着く事となったぐらいだ。緊急事態宣言前は友達と飲みに行くこともあったが、1番に離脱する事が多かった。

何故、暗黙の了解で門限があるのかというと、両親が駅まで送迎しているからである。運転免許は持っているし、タクシーが捕まらないわけでもない。しかし、娘であるという面で必ず迎えにくるのだ。また、友達の家に急遽泊まりに行く事になったときは必ず疑われる上に「帰ってこい」とも言われる。その友達がたとえ同性でもそうだ。…少し縛りが強いと何度思ったことか… 




この3点がこの夫婦に生まれたことに対する不満だ。


当たり障りなく生活していれば問題ないし、ここさえ目を瞑れば恵まれた生活をしているなとも思う。…少し縛りが強いだけで…




両親は尊敬しているし、別に嫌いになったわけでもない。これからも心から嫌いになる事はないだろう。



毎日朝夕を作り、ときどき父の襟足を整え、髪も染めてあげるそんな優しい母と、誰よりも家庭のことを考え、家族が生活できるよう管理し、賭け事はあまりやらず、真面目な父のもとに生まれてよかったとは思うのだが……やっぱり、ここの家庭で暮らすのは少し大変である。





人生はないものなだりなのかもしれない。








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