逢魔ヶ刻の先

「夏と言えば肝試しって事で」
「は?」

そう言って額に青筋を立てかけている私の妹に話しかけたクラスの友達、藤ちゃん
聞くところによると街外れに昔何かの施設だった廃墟があり、折角夏休みに入るので肝試しに行こうという事のよう

「透怖いの駄目なん?」
「べべべべべべつううににこわかっっかっっっかかねーし」
「ダイナミック肯定」
「いや…透ちゃんほんとに駄目だからそういうの…」
「え、そんなに?」
「下手すると発狂して暴れるか幼児退行する」
「やば」
「いややばじゃねーんだよこっちは正気を賭けてるんだよ」
「もうすでに半ギレじゃん…えーじゃあ純は?」
「えー…?お化け屋敷とかホラー映画とか怖いけど…何ていうの?終わった後普通に感想言えるタイプ」
「あー楽しめるタイプだ、一番強いタイプじゃん。じゃあ純行こうよー」
「まぁいいけど…」
「えっ!?」
「何の話してんだー」

後ろから藤ちゃんの頭に腕を乗せつつ現れたのはもう一人の友達の椿ちゃん
関係ないがこの二人ギャルである
つまり

「前に話した廃墟に肝試し行こうぜって話」
「おぉあれか、アタシも行くぞ」
「おぅ来いや」

ノリが軽い

「えぁ…うぐ…」
「どしたの」
「…お姉ちゃんが行くならアタシも行く」
「いや…無理しない方がいいよ…」
「何も無い廃墟だったら別に…大丈夫でしょ…」
「うーん…」
「ちょっと行ったとこに公園あるらしいから無理そうだったらそこで待っててもいいよん?」
「…」
「どうせならあの二人も呼ぼうぜ、なー木菟森ー牛鬼ー」
「はい?」「あ?」
「肝試し、行こうぜ」

なんだか大所帯になりそうだ
でも肝試しとか初めてだからちょっと楽しみかな

「じゃあ○日に☓☓駅、18時集合って事で」
「楽しみだな」
「ほい」
「…」
「はーい」
「面倒なんだが」
「何だよ牛鬼怖いのか~?」
「は?」
「その気迫ありゃ大丈夫だな」
「おい」

お化け屋敷やホラー映画が大丈夫?なのは本当
終わってみれば面白かったとか言えるし、それ以前に透ちゃんがあまりにも駄目なので怖いのを気にしてられないのも正直ある
でもそれはあくまで人が意図して作り上げたものだから
作品の向こうに人がいるから

そこには人から離れた意思なんて存在しないから


「はーっ…はーっ…」
「いや死にそうだけどまじで大丈夫?」
「…やっぱ無理かも」
「じゃあ待機組って事で、うっしー頼む」
「…呼んどいてそれかよ」
「だって一人で置いとくわけにはいかないし…」
「…はぁ、さっさと行ってこいよ」
「ごめんね」
「…」
「木菟森どした」
「うーん…」
「え!?何か感じる!?」
「ナンデ…タノシソウナノ…」
「おい透が死にそうだからさっさと行くぞ」
「じゃあ行ってくるね透ちゃん」
「ハイ…」


「で、結局どういう建物なんだ?」
「さぁ」
「え」
「いや色々聞いたり調べたりしたんだけどよくわかんないんよ、自殺が耐えなかった宿だとかやばい医者がいた病院だとか嘘っぱちくせえ噂しかわからなかった」
「…それ大丈夫なの?」
「でも他にも私達みたいに肝試し行った奴らがいたみたいなんだけどその時は特に何も無かったって」
「…」
「それにそこそこ大きい建物らしいんだけど…まぁあの二人待たせてるしざっと回って帰ろっか」
「…そうですね」
「あっそういえばさっき何か感じてたんでしょ!?何々!?というか見えるタイプ!?」
「うるせえなこいつ」
「あまり言うようなものでも無いんですけど…まぁそれっぽいのは見えます」
「ウヒョー!ガチじゃん!それでそれで!?」
「…何でしょう、正直よくわからないと言いますか…違和感と言いますか…」
「いやこれマジでいるんじゃね?いるよりのいるじゃね?」
「うーん…」

つくちゃんが見えるというのは本当らしい
そもそも木菟森家がちょっと不思議な生まれだとか言ってたけど、行き先にもいるのだろうか
…さすがにリアル幽霊は怖いかな

「さて見えてきたあちらが目的地となっておりま~す」
「おーボロってんなぁ」
「新月だったらかなり怖そう」
「今日月明るめで良かったね、じゃあ行くべ」
「…」
「…つくちゃん?」
「…?」
「つくちゃーん?」
「えっはい」
「行くって」
「…はい」
「…どしたの?」
「…よくわからないんですけど、体が強張って」
「なんだ木菟森も意外とビビりだな」
「つっくーも可愛いとこあるじゃん♡」
「お二人のほうが可愛いですよ、じゃあ行きましょ」
「お、おう」「うへへ」

つくちゃんは基本的に毅然としていて冷静だ
だから今日みたいな事はかなり珍しい
だからこそ警戒するべきだったと、今になって思う

「よしじゃあ私らでライト照らすか」
「ほいよ」
「うわぁ結構ボロボロ」
「でも躯体は見たところ大丈夫そうですね…」
「どっから行くんだ?」
「まぁ2階建てだから上から行こっか」
「…」
「つくちゃん大丈夫?」
「…多分思ったより怖いんですかね」
「…手握る?」
「じゃあ…折角なので」
「おーいイチャついてないではよ来ーい」
「「はーい」」

内部は表面的にはボロボロではあったけど足元や天井は思ったよりしっかりしていてそういう危険は無さそうだった
詳しくはないが同じような部屋が続いていた事と、中の作り的にはおそらく病院か宿泊施設のようだった
そして少しだけ、臭かった

「…何か変な匂いしない?」
「んー?」
「少し…何でしょう、生臭い?」
「何だろ、動物の死骸とかあるのかな」
「えー…見たくないなぁ…」
「衛生的にもねー、それに心が痛む」
「…人だったりしてな」
「っ」
「椿それは趣味悪いぞ」
「悪い」
「じゃあ2階はこんなもんか、1階行くぞー」

2階の探索が終わり1階に降りた
昇った時とは別の階段で下った先は、あの生臭い匂いが少し濃くなった

「…何か匂い強くなってない?」
「マジか、鼻がポンのせいでよくわからん」

入った時に匂いがしなかったのは風向きの関係だったのだろうか
そして

ペシャッ

「「「「!?」」」」

「(…聞こえた?)」
「(…あぁ)」
「(え…まさか…)」
「(多分…3つ先の部屋辺りからだと思います)」
「(つっくーすげえな、じゃあそこだけ覗いて帰るか)」
「(えぇ…やめない?)」
「(ん…確かにちょっと嫌な予感がするぞ)」
「(チラ見!チラ見だけ!)」
「(…じゃあ行くかぁ、どうせ帰るにもここ通ったほうが早いしな)」

そうして音が聞こえた部屋に近づいていった
近づくに連れ、匂いも濃くなっていった

「(ここ…かな…)」
「(じゃあアタシから覗くから)」
「(頼んだ)」
「(そーっと…)」
「(…つくちゃん?)」
「(…)」
「ヒッ!?」
「え、なnヴァッ!?」
「どしたの…!?」


目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目


部屋のいたるところに人の目が描かれていた
壁、床、天井にまで
精巧に描かれたものもあれば子供が描いたような歪なものもあった
そしてどれもから、血のような赤いものが滴っていた

「うわ…これやばくね」
「ちょ…っとこれはさすがに予想外だった」
「うえ…」
「…」

椿ちゃんと藤ちゃんが部屋の内部を照らそうとライトを動かす
そして私は1つ、違和感に気づいた
目から赤いものが滴っている

”滴っている”のだ

「…これ」
「!?」
「っ!?つくちゃん!?」
「早く!!出ましょう!!」
「え?どしたの」
「いいから!!!!」

それから私達はつくちゃんを追って無我夢中で走った
つくちゃんがあんなに取り乱すのは初めてで、私はとてつもない不安感に襲われた




「はぁ…お姉ちゃんたち大丈夫かな…」
「…お前そんななりで何でホラー苦手なんだよ」
「なりは関係ねーだろ、昔から駄目なの」
「…」
「はぁーあ…」
「…思うんだが」
「ん?」
「見える人間と見えない人間っているだろ」
「うん、アタシは見えない見たくない」
「…本当は皆見えてるんじゃないかって」
「は?」
「見えてるけど、無意識化で脳が処理して見えなくしてて…だから人によっては見えたりして…」
「…」
「それに、悪い奴らばっかでもないだろ」
「…」
「お前の好きな犬もいるんじゃないのか」
「…あ、励ましてくれてる?」
「は!?」
「素直じゃないなぁ~」
「てめぇ…」

ダダダダダダダ

「ん?」

「はぁっはぁっ」
「ゔえ…」
「し…しぬ…」
「え!?何どしたの!?」
「ちょっ…と、ありまして」
「出たのか」
「ヒュッ」
「と、とりあえず駅まで行こう…」
「そうだな…」

その後、皆で駅まで歩いて少しカフェで休んだ
事の経緯を報告しようかと思ったけど暴れられると困るのできーちゃんだけに軽く話した

そして、私には気になる事が2つあった

まずあの目
あの目からは赤いものが滴っていた
それは滴っているのが描かれているのではなく、実際に液体が滴っていたように見えたのだ
見間違いかもしれないけど…ライトに反射していた気がする
つまり…描かれてからそう時間は経っていない…

そして

「ねぇつくちゃん」
「はい」
「あの時どうして急に走り出したの?」
「…感じたことの無い恐怖に襲われたんです」
「…そんなに?」
「何かは未だにわかりません、でも逃げ出さないといけなかった気がしたんです」
「…そっか」
「でも」
「?」
「そのお陰で3人を助けられたと、信じています」
「…ありがと」
「…どういたしまして」


しばらくして、あの建物の解体が始まったらしい
結局真相は何もわからなかったけど、わかってしまうのもそれはそれで正直怖い気がするからこれで良かったのかもしれない

とりあえず肝試しに廃墟に行くのはやめようと皆で決めた






ーーーーーーーーー






「ハァ…あっつい…リオーン?…リオン?何してるんデスか?」
「…ハナガサイタヨ」
「ハ?」
「アッッッッッぶなかった…」
「どしたんデスか」
「なんか、学生っぽいのがいた」
「は!?見られたんですか!?」
「いや…私はとっさにこれになったから見られてない…と思う」
「そう…デスか、というか…またすごいの描きましたね」
「どうよ、大作」
「fu○kin crazy」
「まぁそういう依頼だし」
「まぁそうですけど…あまり見てたくナイ…あと臭い、何使ったんデスか」
「なんだっけ、リュウケツジュ?私から生やしてその液使ったりあとは普通に画材とか」
「えぇ…」
「あとついでに私の血も混ぜた」
「…エェ」
「リオンちゃん死なないから☆」
「…ウワァ」
「…あと乾かしてここは終わり」
「はいはい、だそうですよスカーレット」
「…」
「まぁこの死神様の前じゃこの程度じゃ怖くないデスけど」
「おい禁止カードやめろ」
「…スカーレット?」
「…聞いてる」
「というか今回の依頼、色々なんなんデスか。廃墟に怖い絵描けとか…あとこの建物何だったんデスかね」
「…」
「病院か…ホテル?」
「そんなところだ、表は」
「はぁ」
「表って何よスカーレット」
「それは依頼から外の話だ、知る必要は無い」
「えーじゃあ後で探索しようぜゼラ」
「えぇ…この格好暑いんでさっさと帰りたいんですけど」
「脱げよ(イケボ)」
「fu○k」
「oh」
「いいからお前らさっさと仕上げろ」
「「ハーイ」」

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