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ヴィラ=ロボス研究家Iのつぶやきその4 (ヴィラ=ロボスのチェロ作品、Museu Villa-Lobosについて)
こんにちは。横浜特派員の市村由布子です。本日のテーマはこちらになります。
・ヴィラ=ロボスのチェロが含まれる室内楽作品のご紹介
・ヴィラ=ロボスの作品番号と総数について
・ヴィラ=ロボス・ミュージアムMuseu Villa-Lobos(略称:MVL、通称:ムゼウ)について
~チェロが含まれる室内楽作品について~
■<ピアノとチェロのためのオリジナル作品>・・・11曲
(※スコアが紛失した2曲を含む)
[1913] 小ソナタ Pequena sonata W063 ※スコア紛失
[1913] プレリュード Prelúdio no.2 W065
[1913] 小ソナタ Pequena suíte W064
[1914] 夢 Sonhar W086
[1915] 子守歌 Berceuse W088
[1915] カプリッチョ Capriccio W091
[1915] ソナタ第1番 Sonata no.1 W102 ※スコア紛失
[1916] エレジー Élégie W108
[1916] ソナタ第1番 Sonata no.2 W103
[1917] 黒鳥の歌 O canto do cisne negro W122
[1946] さすらい Divagação W461
■<ピアノとチェロのための編曲>・・・他の作曲家の作品からの編曲
[1910] Fuga W030 ~J.S.バッハ ※スコア紛失
[1910] Prelúdio em fá sustenido menor W031 ~F.ショパン ※スコア紛失
[1930] Prelúdio no.8 W261 ~J.S.バッハ
[1931] Prelúdio no.14 W262 ~J.S.バッハ
[1931] Fuga no.10 W257 ~J.S.バッハ
[1931] Noturno No.2 , op.9 W260 ~F.ショパン ※スコア紛失
■《ブラジル風バッハBachianas Brasileiras》に含まれる
<チェロ・アンサンブルまたはチェロとピアノのための作品>
●Bachianas Brasileiras no.1 《ブラジル風バッハ第1番》 [1930] W246
●Bachianas Brasileiras no.2 《ブラジル風バッハ第2番》の中から1,2,4楽章
[1930] Ⅰ-Prelúdio: O Canto do capadócio W251
[1931] Ⅱ- Ária: O canto da nossa terra W250
[1931] Ⅳ- Toccata: O Trenzinho do caipira W254
●Bachianas Brasileiras no.5 《ブラジル風バッハ第5番》 W389
[1938] Ⅰ- Ária: Cantilena
[1945] Ⅱ-Dança: Martelo
■<チェロを含むデュオ作品>
[1928] ショーロス・ビスChoros bis (ヴァイオリン、チェロ) W227
[1950] アソービオ・ア・ジャートAssobio a jato (フルートとチェロ) W493
<その他>
チェロとオーケストラのための作品、ピアノトリオ、ピアノ五重奏曲、弦楽四重奏曲(全17曲)など、この他にもチェロを含む多種多様な編成の作品がたくさん書かれていますが、詳しいご紹介は省略いたします。
ヴィラ=ロボスが特に愛した楽器はチェロとギター。ギターの作品はクラシック・ギター界では殿堂入りしていますが、《ブラジル風バッハ》第1番・5番を除くと、チェロの室内楽曲はまだそこまで知られていないのが実情です。チェロとピアノのための小品はもちろんですが、チェロとピアノのための《ショーロス・ビスChoros bis》W227、チェロとフルートのための《アソービオ・ア・ジャートAssobio a jato》W493といった名曲もお薦めです。
水谷川優子さんと黒田亜樹さんによる、チェロとピアノのための作品集<BLACK SWAN>、オール・ヴィラ=ロボスのCDが発売されたことによって、ヴィラ=ロボスのチェロ作品が日本でもさらに広まるきっかけになると信じています。
~ヴィラ=ロボスの作品番号と総数、ヴィラ=ロボス・ミュージアムの功績について~
ヴィラ=ロボスの2番目の妻、アルミンダ・ヴィラ=ロボス(愛称・ミンジーニャ)は、ヴィラ=ロボスの楽譜、録音物、写真、新聞記事など、ありとあらゆる資料を保管するための「ヴィラ=ロボス・ミュージアムMuseu Villa-Lobos (MVL)」を、夫であるヴィラ=ロボスが亡くなった3年後(1960)に設立しました。冒頭の写真が今現在のミュージアム(この先はムゼウと表記)の写真です。
単なる資料保管所の役目に留まることなく、没後数年間ヴィラ=ロボス・コンクールが毎年のように開催され、ヴィラ=ロボスの作品を広める役目も果たしてきました。ムゼウはブラジルの音楽家や学者、外国人旅行者にとっても大事な拠点となっているそうです。私自身12歳の時にブラジルから帰国し、それからまだ一度もブラジルに行ったことがありません。ムゼウはいつか必ず訪れたい憧れの場所となっています。
ヴィラ=ロボスが多作家であることは間違いないのですが、組曲を1つずつカウントするか、編曲されたものをどのようにカウントするか、行方不明の作品をどう扱うかによってもその合計数が異なり、「1000曲以上?2000曲近く?いや、さすがにそこまではないだろう…」といった議論が繰り返され、作品総数に関する疑問は解決されないままでした。
没後60年(2019年9月27日)にムゼウでシンポジウムが開催され、ヴィラ=ロボスのカタログが近いうちに新しいバージョンになる予定であることが発表されました。このカタログ「SUA OBRA」の初版は1965年に出版され、その後1972年、1989年、2009年、2018年とバージョンアップし、今度新しいバージョンが発表されると“第6版”ということになります。
※シンポジウムの詳細に興味がおありの方は、Facebookの「Museu Villa-Lobos」内の2019年9月頃の投稿を検索してみてください。
初代ヴィラ=ロボス協会会長、故・村方千之氏から私が譲り受けたカタログは“第3版”(1989)で、ギタリストのトゥリビオ・サントス氏Turibio Santosが館長を務めていた時代に出版されたものです。こちらがその写真です↓
2019年のシンポジウムの内容によると、“幻の作品(所在不明の作品)”は216曲ぐらいあるそうで、「1000曲以上作品を残した」と言われてきましたが、実際には1000曲には満たないということがわかったそうです。
そして、ムゼウではヴィラ=ロボス・コレクションのデジタル化が進行中で、「研究目的であればオンラインで世界中の人がシェアできるウェブサイトを公表する予定がある」と発表しました。2020年12月ぐらいに実現される予定でしたが、コロナ禍でどうなってしまったかと心配していたところ、リオ在住のピアニスト・清水由香さんがムゼウの職員でもあり研究家でもあるPedro Belchiorペドロ・ベウシオール氏に直接連絡を取ってくださったので、プロジェクトの進捗状況を確認することができました。
「コレクションのデジタル化のプロジェクトはパンデミックのために数か月停止しましたが再開され、この春ぐらいまでには完成の見込み。インターネット上での公開はさらに1年半はかかります。」という回答をいただけたそうです。ムゼウの職員の皆様の情熱のおかげで、プロジェクトが続行されていることを知り、大変嬉しく思いました。公開される日が待ち遠しいです。
ムゼウのカタログには、全作品を“楽器編成ごと”に分類されたものが“アルファベット順”に記載されています。ヴィラ=ロボス研究家・アップルビー氏David P.Applebyのカタログは、全ての作品が“年代順”に並べられ、「W」で始まる番号が割り当てられており、検索がしやすくて便利なため、私はこちらも重宝しております。最近はこちらのアップルビー式「W〇〇〇」を表記するのが一般化しているようです。ムゼウでは研究が今なお継続されていて、常に最新情報を更新しているので、ムゼウのカタログは頼れる存在です。ムゼウのカタログはポルトガル語、アップルビー氏のカタログは英語。何かを調べるときにはどちらのカタログも確認するようにしています。
Appleby, David P. Heitor Villa-Lobos: A bio-bibliography.Greenwood Press,1988.
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オンラインの普及のおかげで、世界中の研究者が協力して研究を進めていく時代になりました。世界に目を向けることも大切ですが、私の場合は今まで集めてきた我が家にため込んだままになっている大量の文献を読んで訳していかなくては・・・。
音楽作品は演奏されてこそ意味があります。お二人のCD<BLACK SWAN>が世界中に羽ばたき、多くの方が聴いてくださることを心から祈っております。
横浜特派員の市村由布子でした。
水谷川優子&黒田亜樹 BLACK SWAN 〜ヴィラ=ロボスへの讃歌〜
2021.1/29(金)19:00 Hakuju Hall
問:オーパス・ワン03-5577-2072
http://opus-one.jp