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香りのエピグラフ

厚みのある長方形の紙片であるムエットに、香水のサンプルを滲みこませる。その前に香水の名前を書いておく。
密閉できる厚手の透明な袋に入れて香りが変わっていくのを観察するためだ。
本来は肌の上で、その人の持つ香りや体温と混ざり合ったものが香水の本領といったところだが、酔ってしまう香水を知らずにつけると頭痛持ちには苦役となる。
一旦、ムエットで試すのだ。

香水についての情報を同じくらいの大きさのメモに書き込んでいく。一緒にポケット式ファイルに入れて整理していく。その際、出来るだけ有用な内容を記す。
ブランド名、香水の名前、大まかな香りの分類とされるもの、そして、構成する香り。
(構成するといっても、実際に使われているのがその通りの香料ではない。
バニラと書いてあってもバニラビーンズから抽出したものとは限らない。
香料メーカーが日夜、研究を重ねて作り出している「バニラとされる香料」であることの方が、今や多いのかもしれない。)

ブランドのサイトを見ると、香水を調香した時のモチーフとなったインスピレーションの源が書かれていることがある。私はこれをとても好きだ。エルメスの庭シリーズのようにわかりやすいものもあれば、難解なものもある。メモにこれを書き写している時、これは文学ではないかと感じる。

いわば、エピグラフである。
しかし本を読む時には、あまりエピグラフを真剣に読んでいないことに気づいた。
香りは直感的官能だからか、文字にフォーカスしやすいが、文章に付けられた文章と言うのはなかなか直感ではわからない。もっと言えば「気取ってつけた飾り」だとすら思えることがある。もちろん、それは私の無知のなせる業であるが。

noteではこのような連載もある。というより、この連載を読んだから、なるほど香水にもエピグラフ。と気づいた。


香水のエピグラフは例えばこうだ。

「アメリカ先住民マプチェ族は、奇襲攻撃から戻ると捕虜の襟元に鼻を近づけ、
初めて文明の香りを知った」

残念ながらこの香りはわたしに合わなかったが、このフエギアのLA CAUTIVAという香水に興味を持たないわけにはいかなかった。折りしも先日「テスカトリポカ」を読んだから、ゾクゾクするような紹介文だ。

これから届く「血」「汚れた水」という名前の香水には、ムエットに滲みこませたあとに書く紹介文としてどのようなエピグラフが添えられているのだろうか。

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