30minutes,half an hour.


深夜2時、ワンボックスカーに男5人。
高速道路の料金所を抜けて、愚直に一行は進む。
運転は、um-humのドラマー、nishiken。

道中のサービスエリアで煙草を吸って、高揚する気持ちを静かに落ち着かせる。

真っ暗だけど点々とライトが中継している高速道路を、車窓から自分達が辿ったルーツや道のりに重ねて、この道に意味はあるのかと自身に尋ねる。

その程度の時間と距離を無条件に与えられた自分達は、破滅の道を進んでいる社会の落伍者なのか、それともゴールドラッシュを夢見る採掘者であるのか、未だ答えは出ず。

道のりは続き、静岡のサービスエリアで少しの眠りについた。

数時間後、騒々しい静寂の中で夜明けの陽の光と共にエンジンの音が鳴る。

水色とオレンジ色が混濁する空に明星と太陽。まだ寝てるやつもいる中、日本で最も大きくて偉大な富士山が姿を見せる。

前回の東京遠征の時も、この富士山を眺めた。
それはすごく高くて、程遠い存在で誰もが無視できない大きさのものだった。

時は経ち、正午。

中央環状新宿線のトンネルを抜け、東京の厳かな鉄風が我々を出迎える。
街ゆく人は誰もが忙しなく、この街の時間は京都の何倍も早く進んでいるのだと我々は気を引き締めた。

笹塚駅前の立体駐車場に駐車し、雑居ビル10Fのサウナで旅の疲れを癒す。
渋谷、tokio tokyoに向かった。

マップのピンに到着すると、モンクレールの洒脱な楕半円のエントランスの脇にtokio tokyoの看板があった。

何かのクリニックかと思い違うほど新しい建築のそのライブハウス。受付に挨拶し、福島からやってきたONISAWAと数日前から東京に滞在していたSOMAOTAとも合流した。

リハーサルを見ていると共演の手の空いたメンバーがさっとステージから降りてきて声をかけてくれた。

彼は寺久保伶矢というトランペット奏者で、共演のkingoのサポートメンバーとして今日は参加してきているらしい。

リハーサルが終わって、kingoのサポートメンバーやkingoご本人と挨拶をして、各地の共通の知人や京都の話になって多少盛り上がった後、我々もリハーサルを手早く済ませた。

she wolf dinerというバーガーショップで大きな卓を7人で囲み、食事をとる。

リハーサルが終わってからメンバーと大きなテーブルで囲う食事は毎度ライブ前の大きな醍醐味だ。
他愛もない話をしつつ、各々がライブへのイメージトレーニングを密かに行なっている奇妙なこの時間は、モチベーションを大きく上げてくれる。

食事を済ませて、顔合わせが始まった。

顔合わせというのは、当日共演する人たちが開場前に円になって挨拶するというものだ。

誰も彼も清潔感に満ちたハイファイな面々、緊張感があった。さすが東京といった所か。

数分経った後、会場はオープンし、受付前で待っていたお客さんがバタバタと入ってきた。

緊張感を煙草と一緒に吸って吐いて、フロアに出てみると、かつて共演したり親しくしているアーティストが、我々を応援しに来てくれていた。

Ross moody,Ochunism,Dino Jrとluvis,どれも素晴らしいアーティストだ。
彼らにとっても自分達が素晴らしいアーティストでいられるように、お互いにライブを見て刺激を得る大切さを忘れないようにしたいものだ。

一組目も終わりに近くなってきた頃合い、フロアにいて考え事をしていた。

東京に住んでいてBlack petrolのライブをようやく見れると駆けつけてくれたファンや、普段関西でもライブを見てくれていて、次のライブまで待ちきれなくて東京まで来てくれたファンまでいた。

我々は、ミュージシャンであるからにして、もっと面白い事をする為に日夜励んでいる。

じゃあこれはビジネスか、いやそんなことはない。

俺たちは10時間かけて30分のライブの為に東京に来ている。それでも意味があると思っている。金塊などないと知っているのにも関わらず採掘を続けている。

もっとお金があれば、いい家に住んだり連絡しなくなった中学の友達にもいい顔が出来たりするかもしれない。車も買えるし高い靴も履けるかもしれない。

でも、俺たちは面白いことを面白い形で提供したい。今日この日を楽しみに仕事や学校を頑張ってる人がたくさんいて、その人たちの生きる力となっている自分達のライブに、手を抜きたくはない。

出番数分前、トランペットの寺久保伶矢と目が合った。

「四曲目、ステージでソロ取らない?」

彼は「いいんですか」と一言、慣れた返事をして手早いやりとりで条件を簡単に飲んでくれた。彼の頼もしさには場数の違いを感じた。

メンバーは彼がステージに上がってくることを知らない。

ステージはkaidi tathamのtry n followから始まった。ブレイクビーツを生音で再現する実験的な試みを今回東京のセットのために用意した。この僅か30分の時間の為に。

数曲終わると、会場の熱気は大きく上がった。
観客が待ちかねたTABUのイントロ。
手のひらが上下に揺れてステージ脇に目をやるとトランペットを準備した彼がそこにはいた。
二つ目のHookの最後のライン

邪魔すんなよ命懸けの綱渡り

とSOMAOTAが叫ぶと、俺は目を寺久保伶矢に向けた。

「スペシャルゲストです」

トランペットがステージの照明に照らされて乱反射した光が熱気を音に変えて会場の視線は彼に集まる。

何も知らないメンバーは突然の登場に驚愕し、その数秒で全てを理解した。

Daiki Yasuharaのテナーサックスと寺久保伶矢のトランペットが交錯するソロに徐々に加速する歩夢のドラムがバトルソロを終着へと導く。曲はフルボルテージで火花を散らして終曲した。
突然の誘いにも関わらず飛び込んでくれた寺久保伶矢に敬意を伝え、心の中でこの演出を怒りもせずに面白がってくれるバンドメンバーに感謝を送った。そして何よりこのイベントを作ってくれた会場とこの音楽を聴いて人生の励みにしてくれるファンの方々へ激励と感謝を。

熱気冷めやらぬ中、俺たちの30分のステージは終わった。

汗を拭いて楽屋にいるkingoのみんなに笑顔でお疲れ様と迎えられた時は暖かい気持ちになった。
今日初めて会ったばかりなのに音楽を愛するという共通項だけでみんな繋がっているのを心から感じた。

その後のkingoのステージは圧巻だった。

kendrick lamarが現代に台頭したことによってヒップホップカルチャーはこのアジアの小さな国、日本にも大きく影響を与えた。
不良じゃなく、優等生でもない少年たちの音楽と出自を語る音楽が日本の中心地のライブハウスで聴こえてくる、5年前の自分は想像もしなかっただろう。当時はライブハウスに僕達のような音楽は流れていなかったし、それを受け入れてくれる人は少なかった。

JAZZやHIPHOP、というか音楽を作ることと愛することを共通項にした僕達は、採掘者でもなければ破滅者でもなく、紛れもないこの小さな国の現代のミュージックシーンの担い手であり、その音楽の喜びを分かち合う仲間であると言える。

答えなどないけど、ここ東京には生涯の最も活力ある年齢を音楽へのバイタリティへと捧げる音楽家たちが物価や株価が大きく変動する現代を生きている。

kingoのメンバーの強い絆や愛をライブで感じながら、自分達も終演後の彼らを暖かく労った。

イベントが終了して、機材車にギターを預け、他メンバーの交通安全を祈りつつ、共演者達と酒を交わす。
東京をサヴァイヴする若者達の強い情熱を受けて音楽を作ることの素晴らしさに再度感動していた。
Kingoメンバーとの別れはこの2時間程度の出会いにも関わらず、少し寂しさすら感じた。

打ち上げが終わり、tokio tokyoを後にし、
Ruby Roomというライブバーのような会場で、京都の先輩であるrainy J grooveのギタリストの福永さんと話した。

今の東京のシーンと関西のシーンの何が違うのかとか、でも根本は何も変わらず音楽を愛する人はどこにいても愛しているし、そういった人たちの出会いは最高だ。
単純に在住している人口や物価の違いだけで、魂は変わらない。
そんなことを話して、福永さんの家に泊まらせてもらい、翌朝二人でコンビニエンスストアの入口でホットコーヒーを飲んで帰路に着く。

こちら京都、東京をサヴァイヴするミュージシャン達にリスペクトを送る。
そして、京都大阪にいる自分達はこの場所から面白いことを発信していく。それを同じく楽しんでくれるファンを求めている。
相互に楽しんでくれる人口が増えれば、誰もが無視できない大きさのものになるはず。そうなれば東京にいる彼らを巻き込んで最高の夜を関西でも作れると思っている。

京都は西京極のボロアパートより、音楽へのモチベーションを上げてくれた東京のみんなに心から感謝。

takaosoma


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