「海からの帰り道」
友達とかと海で遊んだ日、帰り道の車の中で、奇妙な気分に襲われる事がある。それは多分、久しぶりに泳いだ体の重さとか、日焼けで痛む肌とか、Tシャツに微かに残る潮風の匂いとか、そういうものが複雑に絡み合い、何らかの引き金になって生じる気分なのだろうと思う。
それは言葉になる前のモヤモヤとした気分の塊で、波に乗ってやってきてはすぐに時間の中にうやむやになってしまうのだけれど、無理やり言葉の網で捕まえようとするならば「ああ、いつかは死ぬんだ」というような実感だと言えるかもしれない。
昼間来るときに見たのと同じ国道沿いの景色が、夕焼けに照らされて色を変えていく。時間は刻一刻と過ぎていく。夏が始まったということは、いつかは終わってしまうという事に他ならない。俺はそれを知っている。
そんな気分のときに、いつもこの曲が聴きたくなる。浮遊するようなギターの音色とサニー・オズナの甘い歌声を聴いていると、行きては帰る人生という短い旅に起こる出来事に、そっと身を任せていたくなる。
「Darling, forever, forever」とサニー・オズナは繰り返す。「永遠」に続くものなどない事をもう知っているけれど、今日久しぶりに見た海の美しさとか、友達となんとなく過ごすこの車から見える風景を、できる限り覚えていたい。
いつか帰る事がわかっていても、人は旅に出かけるし、いつか死ぬ事がわかっていても人は日々を生きる。過ぎていく一瞬一瞬の美しさに気付かせてくれる音が、いつも自分にとって特別な音楽になる。
written by ONISAWA
Sunny & The Sunliners - Forever