【雑記】長い無残な夜 前編
このようなタイトルをつけたが、しっくりこない。
新聞時代に師匠から口酸っぱく教えられたのは、タイトルと書き出し1行目の重要さである。「この2つをどう書くかを探すために取材するんだ」という言葉を、僕は今も胸に刻んでいる。
今回、的確なタイトルや書き出しが思いつかないまま、書いてしまおうとキーボードを打ち始める。後日談もたまっているし、記憶が残っているうちに、書いておきたいと思うのだ。
以前、次の記事に書いた女性とのことである。
彼女は、最近、僕の行きつけになった渋谷のバーの常連。あるバンドマンの「都合のいい女」を8年近く続けている20代後半の女性である。
仮に名前をルリさんとしておこう。
細面の京顔(キツネ顔)で、僕の好きなタイプの女性である。
彼女は、普通の女性とは違っていた。
代官山のバーに行ったときに彼女から聞いた
「そういう女性、他にもいるかもしれないけど、彼を一番気持ちよくさせてる自信、あるんだから」
という言葉と、その時の彼女の表情が、僕の脳裏から離れない。
◆彼女との出会い
彼女とは、今年1月下旬、渋谷のバーで初めて一緒になった。僕は、3度目の来店だったと思う。彼女は、大学生のときから来ているらしい。
彼女がマスターに「昔、一度行った代官山のバーにもう一度行きたいが、行く人がいない」という話をし、マスターが僕を指して「彼に連れてってもらえば?」と言ったのが、2人で会うことになった、きっかけである。
マスター曰く、「彼女はあまり人に心を開かない」「自分から話さないことも多い」とのことだったが、代官山のバーではとても楽しく飲めた。ただし、僕がうっかり飲ませ過ぎてしまい、ホテルに泊まることになってしまったのは、彼女にもマスターにも申し訳なかった。
この日は、そんな下心はほとんどなかったし、第一、酔わせて連れ込むのは主義じゃないが、結果としてそうなってしまったのである。
しかし翌朝の彼女の姿に、僕はやられてしまった。
彼女は、起きてすぐに頭を抱えた。もちろん後悔も大きかっただろうが、彼女に聞くと、それよりも昨夜の自分の酔態とわがままな言動を恥じていたのである。その後、別れ際にハグすると、彼女はハグをし返し、「あたたかい」とつぶやいた。いろいろ「かわいい」と思った。
これが、40男の痛い勘違いの始まりだった。
「次も、こんな形で会えるのでは」と思ってしまったのである。
◆彼女との2回目
彼女と2回目に会う直前の様子と結果は、次の記事にまとめている。
そう、僕は調子に乗っていたのだった。
僕は、昔から女性と話すのが好きで、あまり困ったことはない。それに昨年のパパ活の経験で、若い女性とも楽しく話せると思い込んでいた。「お手当付きだから」ということは分かっているつもりだったが、勘違いと慢心は否めない。
そもそも僕は、昔から三枚目であり、メインは張れない脇役系の人間である。僕の強みは「自分を客観視できること」だったはずだが、最近、調子づいていたせいで、目が曇っていたようである。
その日のメインは、スイーツである。彼女が大のスイーツ好きであったため、それにかこつけて時間を貰ったのだった。
場所は銀座。店は、事前にいくつか候補を挙げて、選んでもらっていたフレンチ・カフェである。
待ち合わせ場所で会った時、彼女がすぐに目を背けて、俯きがちになったのが気になってはいた。
恵比寿のホテルで朝、別れて以来である。こういう場合、女性が「こんな男だったか……」と暗い気持ちになるケースはよくあることだ。しかも、こっちはオッサンである。それかと思ったが、彼女は総じてテンションが低いと聞いていたため、判別は難しかった。
彼女は店に入ってもしばらく暗めな顔をしていたが、この店のスイーツや料理、お酒が美味しかったこともあり、後半は楽しく過ごせるようになった。店には1時間半ほど、いただろうか。店を出たのは、20時前である。
◆僕の失敗と無残な夜の始まり
この後、僕は大きな失敗をした。フレンチ・カフェを出てすぐに別れるか、お酒が好きな彼女に合わせてバーに行けばよかったのである。それか、ダメ元な感じはするが、いっそホテルに誘ってしまったほうが、シンプルでまだよかったかもしれない。
ところが僕は、夜景(東急プラザ銀座・キリコテラス)に誘ってしまったのである。かなりのミステイクだった。
そりゃ、キレイなものは、オッサンと観たくはないよね・苦笑。
彼女は、何も言わなかったが、全身でそれを表現していた。
そして、ここからが散々だった。
キリコテラスをすぐに引き上げた後、僕は「少し飲もう」と誘い、東急プラザ銀座内のギリシャ料理の店に彼女を連れて行った。
静かな店があまり無かったので選んだのだが、この店には彼女が飲みたいお酒がなかった。
すでに3時間以上、一緒にいる。
彼女の我慢は、とうとう限界に達したようだった。
途端にしゃべらなくなり、不機嫌そうな表情を浮かべ、「つまらない」という様子を隠そうとしなくなった。
フレンチ・カフェの後半で、少し合わせることができたと思った歯車は完全に外れてしまい、虚しく空回りしていた。
彼女の様子に焦った僕は、いろいろと話を振ったのだが、彼女はろくに答えない。話の糸口をすべて失った僕は、打つ手がなくなってしまい、とうとう黙ってしまった。
しばらくの沈黙が流れた後、彼女が冷笑を浮かべて言った。
「なんか、面白い話してくださいよ」