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【雑記】長い無残な夜 後編
<前編のあらすじ>
行きつけの渋谷のバーで出会った20代後半のルリさん。彼女は、バンドマンの「都合のいい女」だった。最初に2人で会ったのは、代官山。彼女が前から行きたかったバーに行き、そこで飲ませ過ぎてホテルに入ることになった。翌朝の彼女の様子から「また、こんなふうに会えるかも」と思い違いをした僕は、後日、彼女を銀座のスイーツに誘う。最初のカフェではまずまず楽しく過ごせたが、2軒目のギリシャ料理店は散々だった。長い沈黙の後、冷笑を浮かべた彼女が言ったのは、「なんか、面白い話してくださいよ」という言葉だった。
◆冷笑と蔑み、焦燥と困惑
「なんか、面白い話してくださいよ」
そう言った彼女は、冷たい、少し残酷な目をして、僕を見る。
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僕は、挽回できる手を何も持っていなかった。
頭の中であれこれ話を探してみたが、こういう時に限って何も出てこない。
そうだ。僕は仕事柄、相手の話を引き出したり、会話を盛り上げたり、話の掛け合いをするのは、そこそこ得意なつもりなのだが、僕から一方的に相手を笑わせるような話はできないのである。
飲み会で披露するようなネタ話、外国人との社交の場でするようなジョークは、昔から不得手だった。それに、話を主導することも苦手だった。
そのため、相手に話す気があれば盛り上がるのだが、そうでない場合、特に守勢に回った時には弱いのだ。
昔は、その点を克服しようと思ったこともあったが、その後、特段困ることがなく、自分のペースに持っていく術も心得ていたので、放置していた。しかし、ここで、この弱点がさらされようとは……。あまりにも、かっこわるい、40男の無残な姿だった……。
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そう言えば、昔、似たようなことがあった。
30歳前後のときである。「編集者」と言えば、女性からそこそこ受けがよかった時代。たくさんの女性に手を出していた僕は、調子に乗っていた。
様々な相手と合コンを重ね、さらに高めを目指そうと、新人の雑誌モデルの女性たちと合コンをしたことがある。一応、仲間内では一番のイケメンを連れて行ったのだが、彼女らの眼中に、僕らはなかった。
僕らは散々な2時間を過ごし、新橋のラーメン屋で悲しく飲み明かした。
あの時も、僕らに打つ手はなかった。状況は違うが、無残の程度で言えば、同等だ。
◆転換と救いの手
沈黙の時間は、10分くらいあっただろうか。僕はかなり焦って困惑した表情を浮かべていたはずである。額には汗がにじんでいた。
このとき、最初に2人で行った代官山のバーでの彼女の言葉が去来した。
「私、わがままで気分屋なんですよ」
「人に興味ないの。すぐに忘れちゃう」
「私、いい人なんかじゃないですよ。性格悪い」
「男性に好意を持たれたこともあるけど、最初はよくても、すぐに一緒にいれなくなる。話すことなくなるし、すぐに居心地が悪くなる」
「居心地悪くならずにずっと一緒にいれたのは、大学生の時に初めてちゃんと付き合った彼氏だけ」
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すると、しばらく残酷な目で、冷たい笑いを浮かべていた彼女の表情が、ふっと哀しげにやわらいだ。
「ごめんなさい。私、こうなんですよ。すぐ、こうなっちゃうの……」
この後の言葉は、僕の想像を超えていた。
「私、目的がない状態が苦手なんです。どうしていいか、分からなくなっちゃう。私とどうしたいんですか」
◆彼女の哀しみと優しさ
前編の冒頭にあげた「彼を一番気持ちよくさせてる自信、あるんだから」という言葉もそうだが、彼女はたまにハッとする言葉を口にする。
「目的がない状態が苦手」とは、前にも言っていた。
人間関係があまり得意でない人は、よく持つ感覚である。「そっか、そういう居心地の悪さも感じていたのか」と、その時、初めて分かった。
「私とどうしたいんですか」と言った彼女は、とても哀しげに見えた。
男の目的なんて、ただ一つしかない。それを分かったうえでの言葉だろう。
男からそういう目で見られて来た彼女の哀しさが含まれているように思えたが、これはうがちすぎかもしれない。こういう場面で残酷な態度をとってしまう自分の性格を哀しんでいたのかもしれない。あるいは、単純に僕が可哀そうに思えたのかもしれない。
本人は否定するだろうが、本当の彼女はとても優しい人だと思った。前回もそう思ったし、今回もそう思った。
僕のかっこう悪さは酷かったが、彼女はそれを救ったのである。
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◆優しくしないで
銀座からタクシーで新宿に行ったはずだが、その間のことを覚えていない。
歌舞伎町のホテルでの彼女の様子は、冷たく接した代償として、僕に身体を貸し与えたかのようだった。しかし一方で、「目的ができた」ことによって、居心地の悪さから解放され、元気になっている彼女もいた。
彼女は優しくされることをすごく嫌がった。
ハグ、首筋にキスをする、頭をなでる──、などの行為をすべてを避けられた。
そして、ベッドの上で、彼女は言った。
「優しくしないで」
この言葉にも、僕は再びハッとさせられた。
「優しくされるのが苦手」とは、前に聞いていた。また、僕に優しくされたくない、ということは無論、あるだろう。
しかしなんだろう、こんな顛末の末に行きついた歌舞伎町の夜のホテルのなかで、こんな言葉を口にした彼女が美しく見えた。
闇夜の光の中でしか見えない、アングラでいびつで妖しい美しさ。
優しい行為を拒否した彼女だったが、荒々しい行為はむしろ受け入れ、受け止めた。傷つけられたい、汚されたい、そんな願望があるように思えた。これは、なんだろうか。
今、彼女はどんな思いで抱かれているのだろう。
彼女の心の底にあるものを、見てみたい。
僕はあまりにもかっこ悪かったが、多分、ずっと忘れられない1日。
もっと自分を見つめ直して、謙虚に出直そうと思った歌舞伎町の夜だった。
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※イラストは赫井苹果(あかいりんご)さんの作品(@rinngososaku)、最後の歌舞伎町の写真はイラストACの無料素材です。
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彼女は僕のnoteを知っていて、ホテルを出た後、「【雑記】『都合のいい女』の自負と矜持」を読んだと言われて、驚きました(なぜ、最初に言わず、このとき言ったんだろう😅)。僕がマスターと話していたのを聞いていて、僕のnoteを見たようです。彼女の心の内は分からないのですが、自分が書かれることを拒否しませんでした(嫌々という訳でもなさそう)。
彼女とは今も、バーの常連同士として繋がっています。彼女はなかなか不思議な存在で、内面に興味があります。今後、僕が小説を書くとしたら、題材にしたい女性の1人です。そんなこともあって、忘れないうちに出来事をまとめておきたいと思って書いています。もちろん、身バレしないように、アレンジは加えています。
なお、彼女をきっかけにして「都合のいい女」となっている女性の心性に非常に興味が湧いていて、以後、取材をして別の形にまとめたいと思っています。もし、現在「都合のいい女」になっていて、僕に取材して欲しい方がいれば、ウラノけいすけ「都合のいい女」係まで・笑。
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![ウラノけいすけ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/62827164/profile_b03fd210f10675d9fb87d37cee7b0748.png?width=600&crop=1:1,smart)