スタートアップの株価算定
ベンチャー企業、スタートアップ企業の株式評価については、以前のコラムにも記載しましたが、成熟企業と比較して評価方法あるいは計算方法が特殊となります。
というのも、ベンチャ―企業といっても様々なステージがあり様々な事情がありますが、会社設立から間もなく過去実績が限定的かつEBITDAがマイナスとなるケースも多いこと、また、革新的な技術や製品、ビジネスモデルの優位性など事業成長への期待が高く、事業計画が過去実績とは不連続であり、将来予測情報についての不確実性が高いケースが多いためである。
なお、ベンチャー企業のステージについては様々な解釈がありますが、ざっくり次の通りとなり、シード(エンジェル)・アーリー・ミドル(エクスパンション)・レイタ―等の投資家から見たステージで示されることもあれば、シリーズA・B・Cなどの資金調達ラウンドで説明されることもあるといった具合です。
このように比較的短期間で資金調達を行う企業も多く、さらにその調達方法は普通株式に加えて優先株式やストックオプションなどが発行されるため、それぞれの条件や将来の資金調達計画、資本政策を確認することも大切となります。
これらを踏まえて、株式価値評価における代表的な手法であるDCF法の適用にあたってはいわゆるVCレート法を適用する手法があります。
結論からすればJICPA(日本公認会計士協会)から2023年3月に公表されている「スタートアップ企業の価値評価実務」で開示されている次のステージ別割引率が参考になります。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-3-70-2-20230316.pdf
DCFの割引率について、成熟企業であれば投資家の期待収益率であるWACCを参照することとなりますが、上述のとおり、ベンチャー企業においては割引計算するもととなる事業計画の蓋然性に疑問があることなどを踏まえると、CAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産評価モデル)で算定したWACCではリスクを適切にとらえることができず、達成可能性の低いポジティブな事業計画を鵜吞みにしたValuation等を行ってしまい、本来あるべき水準より高い評価となってしまいます。
一方、事業計画の達成可能性をサポートできるような客観的データを揃えることは難しいです。
ただしこの点、アメリカではベンチャー企業の投資家が期待する収益率についての研究結果があり、AICPA(米国公認会計士協会)により公表されている「Valuation of Privately-Held-Company Equity Securities Issued as Compensation - Accounting and Valuation Guide」にて確認することができ、一定程度これを補完できることができ、次の収益率を参照する手法が一般的に採用されてきました。
表を見比べてみればわかりますが、JICPAの表はAICPAにて公表されている「Scherlis and Sahlman」の収益率を採用しているので、JICPA上のデータを確認しつつ必要に応じてAICPAで公表されている収益率を参照すればいいと考えています。なお、これらのデータは米国の事例であること、また調査から少し時間が経過している点に注意する必要はあります。
以上となります。
ベンチャー、スタートアップ企業の割引率は特殊なケースがあるというのが今回記載したかった内容です。
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