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その3. 暮田マキネ先生『Odds and Ends (オッズ・アンド・エンズ)』

作品の舞台は森の奥深くにある全寮制男子校。花材を密にいけて、主人公・薬袋と奈良崎双方のこころの深淵と揺れ動く感情を表しました

花材:カンガルー・ポー、サツマ杉
花器: 陶器

濃蜜で重厚な作品なので「とにかく力がミチッと充満していて、それがウチとソトの両方にブワッと放たれる感じ!」を花にしました。

かわいくも衝動的な前足

「カンガルーの前足」と名づけられた黄色い花は、全体が産毛に覆われ、どこか幼くかわいい印象です。
ところがどっこい、咲き進むと丸い花の先端がパクッと割れ、歯をむき出しにしたような花勢になります。

動物のほうの話になりますが、カンガルーの前足は、メスを巡るオス同士の争いで武器になります。
かわいい前足は、抑えきれない衝動、欲望や力の象徴とも言えそうです。

本作『オッズ・アンド・エンズ』(以下、オズアン)でも、学校や寮に適応できなかった転校当時の薬袋くんにも「カンガルーの前足」があるかもなあ。
花勢を捉えて花をいける時間は、つい花と登場人物を重ねてしまいます。

もう一つの花材・サツマ杉は、緑の濃淡とウッディな香りが特徴。
オズアンでは、深い森は、主人公たちの深い傷と呼応しているかのようです。外界と隔離された寮は、生徒を傷つけてきた家族や社会から彼らを守る繭でもあるのかな。

薬袋くん×奈良崎くん編はいったん終了したようですが、今後、続編・他の生徒編・ひょっとして先生編もありそうな。
いろんな可能性を夢想できるほど登場人物一人ひとりが謎めいた魅力を備えています。

花をいけて考えてみた、作品の印象

単話版の表紙(コミック上下巻の表紙も美しいです)

暮田先生の絵は、髪の線や顔の輪郭など人が美しい。目もしぐさも色気があります(キュン)。
ポプリ袋ひとつとっても、丹念に描かれていて「何か意味があるのかな」とつい深読みしてしまいます。

ただ、最初から最後まで油断できないのです。
時代や社会、あるいは人のこころのスキマを突く主題が繰り返し出てくる。
作中のそこかしこに、危うい記憶や人物が置かれます。

オズアンにも、主人公ふたりの機微が、記憶の断片とともに何度も描かれます。
中には、読み手の理解と共感を突き放すようなつらい体験もある。

人の心もストーリーも深い森のなか。
作品のなかで、読み手が自由に迷える。
余韻たっぷりのオズアンは、寒い季節の夜にも、しっくりくる作品。

森の香りはクセになる🪷

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