小説実作解説のための姉と弟(2)

 ハジメが、つまりハジメやKが暮らすこの街は、いつもぬるく甘い暖かさに保たれており、それは牛乳のなめらかさに似て、本来的には手に入らないはずのものを日々摂取しているという曖昧な印象を含む生活だった。ここは「電子レンジ」と呼ばれている。

 ここの生活はとても穏やかなものだ。外部から供給されるものはいずれ均一な温度に温められる。我々は外部から供給されるものを口にし、あるいは身に着け、あるいは手に取り、そうしてただ生活すればよいのだった。我々は曖昧な暖かさに慣れることだけをもとめられており、そしてそのことに順応している。

 電子レンジ。

 我々はその名でこの街を呼ばない。呼ぶ必要がない。ここに住んでいる我々にとってここはここであり、ほかではない。呼ぶ必要があるのは外の人間にとってだけのことだ。

 ここを電子レンジと呼ぶ人間とはこの場合イコール、ヒカルを指す。

 我々は電子レンジに順応している。

 たぶん、ハジメを除いて。

  世界観の提示について。

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