【ss】白いシャツ
サイケデリックなお気に入りのシャツに一点のシミがある。ほんの僅かな一点だが、僕の目を通すとそれは深淵と化すのだ。まるで覗かれている気分だ。こんなシミいつ出来たのだろうか。
クリーニング店に着いたのはちょうどお昼頃。自宅からは徒歩5分ぐらいで、アサガオを店先に構えた蒼天の空のような明るさを醸し出している。僕は心の奥底に佇んでいる黒いヨゴレを消すためにここを訪れた。
「すみません、この服を洗濯に出したいのですが、このシミは消えますか?」
およそ20代ぐらいの爽やかな店員は、怪訝な顔を浮かべていた。
「シミ‥‥? どれでしょうか?」
「いや、この袖の所にありますよね。ここですよ」
シミのある所を指摘しても、店員は困惑するばかりで一向に解決しなかった。僕は痺れを切らして、この薄汚れた店を出て他のクリーニング店を訪れた。しかしどのクリーニング店を訪れても、同じような反応を示すばかりでシミを認識さえされなかった。
明くる日、僕は150人ほどのキャパを持つライブハウスのステージにいた。ギターで音を鳴らしていても、シャウトを響かせても、袖の黒いシミが気になっている。そのことが僕に途方も無い苛立ちを抱かせる。結局のところ、このシミはいつまでたっても消えないのだろう。まぁいいさ、これもデザインとして受け入れてやる。
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