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ショートショート66『専売特許』
「はい!喜んでぇぇぇ!」
ダメだ。これじゃ店員仲良し居酒屋の掛け声だ。アダ名と趣味を名札に書いたタイプの。
「………」(無言でコクリと小さく頷く。と同時にできれば涙を浮かべる)
いやこれもダメ。キャラじゃない。もたない。てか、できれば涙を浮かべるってなんだ。できねー。
「あー、おっけおっけ。よろしくね~」
逆に軽いのがいいって思ってるやつ。ないない。
「う…嬉しい…。わたしで…良ければ」
うーん。悪くはないけどな~。でもなあ。なんかな~。
「はい。幸せに、してよね」
いや、なんか任せてる感出ててやだな。
「うん。ありがとう。幸せになろうね。一緒に」
やっぱこんな感じがいいか。うん。シンプルイズベスト!
「なにやってんの?」
聞きなじみのある母の声で我に返ったわたし。
しまった。迂闊だった。
久々に帰ってきた実家のリビングでやることではなかった。
わたしは集中してしまうと時折周りが見えなくなる。
とりあえず取り繕ってみよう。
ムダだとは思うが。
「…ああ、母さん。いや、まあまあ。え~と…ちなみ、いつから聞いてた?」
「え?そうねえ。はい喜んで?みたいな雄叫びから」
頭からじゃねーか。すぐ声かけろよ。かなり泳がせやがったな。母め。
社会人も7年目に差し掛かり、なかなか実家にも帰れてなかったわたしが久々に帰ってきたのは、報告もかねてだ。
この際だ。全部言おう。
「や、違うの。いや、違わないんだけど。実はね…結婚することになりそうでさ」
「あら、あの3年くらいお付き合いしてる彼?」
「そうそう。でさ、まあ、きたるプロポーズに向けてほら。心の準備もかねてさ」
「あまりそっちの練習する人いないわよ」
冷静な母だ。
「確かに」としか返せなかった。
「でもまだプロポーズされてないってことよね?そんな変な練習してるってことは。なんでされそうなことが分かるの?」
これまた冷静な質問。
確かに。
わたしは事細かに近況を報告した。
少し前に彼の両親とも会ったこと。
同棲を初めて一年以上たち、お互いが結婚を無意識に意識していること。
自分のイヤな部分も肯定してくれる相手であること。
数日後のわたしの誕生日を彼がやたら気にしていること。
「…て訳でさ。あると思うんだよね。誕生日あたり」
「それでいつも通りだったらすごい恥ずかしいわよ」
確かに(三回目)
「まあでも良かったんじゃない。されると、いいわね」
温かいお茶をすすっている母の口角が、ややあがっているように見えた。
なんだかんだ喜んでくれているようだ。
……ふと気になった。
改めて聞いたことがなかったが、父からはどんなプロポーズを受けたのだろう。
「母さんはさ、その…どんな感じで言われたの?」
「なにが?」
「だから父さんからのプロポーズってどんなだったの?」
今までは、全くもって興味の外だった両親のコイバナをこうして前のめりにたずねる日がくるとは。
価値観ってほんと日替わりだから、おもしろい。
「ねえねえ、どんなだった?」
「覚えてないわよそんなの」
「嘘だ~」
「ほんとよ。んー、どうだったかな。かなり奥手だったしあの人。確か…あ、そうだ」
「ん?」
「同時だったわ」
「んん?」
「同時にプロポーズしたんだわ。わたしたち」
なに?どういうこと?同時にプロポーズ?
おいおい。なかなかのバカップルか?
「どういうこと?」
「うん。確か、わたしたちもそろそろみたいな雰囲気なって、でも父さんがずっとまごまごしてたから、母さんが言ったのよ。じゃせーので言いましょうって」
「マジ?」
「マジよ。まあでもほら、あなたがもうお腹にいたし。形式的ではあったかもね」
「あー、なるほど。え、待って。でも父さんが亡くなったのってわたしが生まれて割とすぐじゃなかった?」
「そうね」
今度はわたしがゆっくりとお茶をすすった。
しばしの沈黙が流れる。
父は昔から病弱で、わたしが生まれるとほぼ同時にこの世を去ったらしい。
子供だけ授けてこの世を去ることになった無念。
それは相当の自責の念を抱いていたとも聞いている。
父がプロポーズをまごつかせたのも、そのあたりがあったのかもしれない。
とにかく優しい人だったらしいから。
そこからの母の苦労は想像に余りある。
大変だったであろうなんて言葉では、とてもじゃないが足りない。
だが、片親の苦労は子にものしかかる。
わたしも学生時代は人一倍の反抗期で、母を困らせた自覚もある。
そんな風に過去を偲んでいると…あ、思いだした。
“同時に”というのは昔から、母の専売特許だったことを。
わたしが何か悪さをしたとき、決まって母はこう言った。
「ダメよ。こんなことしちゃ。でもこんなことさせたお母さんにも責任はある。同時にお互い謝ろう。いくわよ。せーの」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「よし、偉いね。二人ともね」
「うん!エライ!」
幼少の頃はこのようなやり取りを何回もしたんだ。
今の今まで忘れていた。
子供ながらに“同時に”というのはとてもフェアな感じがして妙に納得できた記憶がある。
思春期の半ばには、その母の同時謝罪をつっぱねた記憶もよみがえってきた。
あ~。申し訳ねえ。
そして、同時謝罪の元祖は、父との同時プロポーズがきっかけだったのかな。
わたしたちが同時に謝るたび、母は父を近くで感じていたのかもな、なんてね。
そんな風にキザな感傷に浸っていると、後ろから声をかけられた。
「やあ、帰ってたんだね。久しぶり」
「ああ、そうなんです。久しぶり」
「元気そうで良かった」
「おかげさまで」
低く優しいその声の主は、お父さんだ。二人目の。
とはいっても、7年前にわたしが実家を離れてからの母との再婚相手なもので、今も若干の距離はいなめない。
だが、ずっと独り身で苦労してきた母が、第二の人生のパートナーに選んだ相手だ。悪い人なはずがない。
むしろとても感謝している。母を独りにさせないでくれたのだから。
わたしは二人目の父にも、結婚秒読み?の話をつらつらと述べた。
父は笑うこともなく、ずっとうなづいてくれていた。
「…て感じなんだよ」
「うん。そうか。それは良かった。誕生日が楽しみだね」
ありがとう。そう言いかけたとき、わたしはせっかくだからと、ある提案をした。
「ねえねえ。じゃあさ、みんなで同時にありがとうって言おうよ」
「なに?急に?」
母が笑いながら眉間にしわをよせる。
「いいじゃん。好きでしょ。同時に言うの」
「なによそれ。もう」
「楽しそうで、いいね」
二人目の父はノリがいい。やはりいい人だ。
「じゃあさ、いくよ。今まで、いろいろと、せーの」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
え?
すぐさま互いが互いと目を合わせる。
わたしを含め一様に皆、目を丸く見開いていた。
確かにもう一人、ややかん高い男性の声がうっすらと聞こえた。
わたしは初めて聞く声だったが、誰なのかは分かっている。
すごい。こんなことあるんだ。
不思議と、こわがってる人はだれもいなかった。
奥手の人が、勇気を出して伝えてくれたんだもん。
偉いぞ。みんな。
*
数日後。
「せーの」
「結婚してください」
「結婚してください」
「はい喜んでぇぇ!」
「はい喜んでぇぇ!」
「ぷっ。あはははははは」
「ははははは。ふふふふ」
「おめでとう!」
~文章 完 文章~
※このnoteは、
ブライダルリング専門店
I-PRIMO × note企画
「わたしの憧れプロポーズ」に寄稿したショートショートです。
とても素敵企画です。
他の方のnoteも見れます。
詳しくはこちらレツゴ👊
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ひらけ、プロポーズ 特設サイト
※余談
“理想的プロポーズをテーマに”と今回ショートショート依頼を頂いたとき、とても嬉しい半面、ひぇ~~~プロポーズ?となりました。
というのも、現在まだ右も左もの、ちょい右くらいしか分かってない独身ではありますから、しかしだからこそのイメージでショートショートさせて頂きました。
※ただ、まず浮かんだ理想的プロポーズは、
指輪を渡しながら
B 僕の
K 給料3ヶ月
B 分!
BKBヒィア!
と思い浮かんだのがとてもジャマでした!
皆様、よいブライダルを!
#わたしの憧れプロポーズ #ひらけプロポーズ #アイプリモ #PR
https://www.iprimo.jp/lp/openpropose/?s=09
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