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ショートショート50 『遅刻の言い訳』

どうしよう。どうしよう。
絶対に遅れてはならない会議なのに。
言い訳だ。
とにかく遅刻の言い訳を考えないと。
誰もが納得する言い訳を。


んーーー。


目覚まし時計の電池が切れてたんです。
いやいやいや。買えよってなる。
大人の言い訳じゃない。

寝過ごしました。
これは言い訳でも何でもない。怒られるだけ。怒られないやつが望ましい。

途中で大きな荷物を持ったおばあちゃんの荷物を持ってあげてました。
ちと弱い。申し訳ないが遅刻しそうなときに持つ荷物はない。

電車が遅延でぴえんでした。
ダメだ。殴られそう。

子供が熱を出しまして。
ダメダメ。子供いない。嫁もいない。

朝起きたら、身体が女になってまして。
貴様の名は?って聞かれてから殴られそう。

ボルダリングして筋肉痛がひどくて身体が動かなくて。うん。言い訳としてはありだが絶対怒られる。この場合のボルダリングって言葉もなんかムカつかれそう。


言い訳はありません、すみませんでした。
これもしっかりムカつかれそう。カッコつけてると思われそう。実際カッコつけてるし。

どうしようどうしよう。
そもそも言い訳、と言ってるくらいだから、納得させるようなものは存在しないのかもしれない。

そうか。
そもそも会社に行けなくなったらいいのでは。

例えばいっそのこと、事故にでもあえば。

思いたって車道に飛び出す。

宙を舞う身体。
激しく地面に叩きつけられる胴体と四肢。
痛い。
痛い。
痛い。
血が、思ってたより生暖かいことに気づく。

そして朦朧とした意識の中で俺は呟く。

これで…怒られ…ないで済む…





「…いやいや、なんだこれ。遅刻したくらいで死にたくねえわ」

我に返り、秒針がピクリとも動かなくなった目覚まし時計に目をやる。

「めんどくさいけど仕方ない」
そう吐き捨て、俺は真夜中に一人、しぶしぶコンビニに電池を買いにいくのであった。








~文章 完 文章~

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