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変化の中で理学療法士として生きる――ノルウェーの教授が語るPTの未来像

今年、東京で開催される世界理学療法学会。その会場で、あるシンポジウムのチェアマンを務めるノルウェーで働く教授ジョースト・ファン・ウィチェン氏が、ノルウェー理学療法協会誌にて、理学療法という教育&職業についてインタビューに応えています。

ちなみにシンポジウムでも理学療法教育についてディスカッションするみたいです。詳細はコチラ


話を戻します。インタビューは、当初予定されていた研修や継続教育の話題にたどり着く前に、より広い視点へと繰り広げられていて。。。読み応え、やばしでした。

西ノルウェー大学で理学療法教育部門を率いる彼が語るのは、単なる技術論ではなく、社会全体を見据えた視点

その内容が面白くって、教育の現場に立つ先生や学生、継続教育に取り組む皆さんにも共感できたりする部分があるのではと思い、ここでシェアします( ̄ー ̄)bグッ!


変化は避けられない―ではどう適応する?

「変化は、これからの社会においてますます頻繁に起こり、私たちの日常生活に影響を与えるでしょう。変化を恐れるのではなく、それを前向きに活用する方法を見つけることが大事です。」

インタビューの冒頭、教授はこう切り出しました。気候変動や人口動態の変化など、私たちの社会が抱える課題が、理学療法士の役割にも大きな影響を与えていると彼は言います。これに対して、「ただ受け身でいるのではなく、どう行動するかが問われている」とのこと。

教授「理学療法士は公認の医療従事者です。」

インタビュアーが「いやいや、それは周知の事実ですが、、?」

そうです。ただ重要なのは、私たちが提供する医療が専門的かつ適切であるかどうかを常に意識することです。また、場合によっては何も行わないという選択肢も必要です。

続けて、次のように述べています。

医療の現場では、しばしば何らかの介入を行うよう教育されます。しかし、自己管理を促進するという理学療法の重要な役割も忘れてはなりません。

医療者として何かしらの介入をしなければ、と思いがちですが、時には『何もしない』ことが最善の選択肢である場合もあります。例えば、患者さんに『散歩をしてみてください』と言うことが、最高の治療になることもあるんです。

治療をしない――これに違和感を覚える人もいるかもしれません。患者さんが「助けてください」ときたのなら、何かしてあげたいと思ってしまうのは当たり前のこと。しかし、「患者の自己管理を促進する」という理学療法士としての重要な役割も再認識する必要があると。。

「私がしている治療は、患者の自立や生活の質向上を本当に支えているだろうか?」「自分の知識や専門性のみで、目の前の苦しむ患者さんを救うのが適切なのか?」

医療は全ての問題を解決できるわけではない

教授は、現代社会における医療の在り方にも警鐘を鳴らしていました。特に注目したのは、オランダの医療制度の現状(教授はオランダ出身)。もし現在のペースで医療に依存し続ければ、将来的には国民の半数が医療従事者として働かなければならない状況に陥るかもしれない、とのこと。

ノルウェーではまだ公的医療と私的医療の間に明確な線引きはありませんが、他国のように「二重の医療制度(公的医療と民間医療)」に向かう兆しは見えています。そんな中で理学療法士としてどのように働くべきなのか――教授は次のように語ります。

自分のキャリアにおいてどの方向性を選ぶのか、それは個人の価値観に関わる大切な選択です。公的医療で、患者の基本的な健康を支える道を選ぶのか。それとも、私的医療の世界で、すでに健康な人々をさらに強化することに力を注ぐのか

どちらの道も正解ですが、重要なのは、自分が選んだ道の社会的意義をしっかりと認識していること。そして、その選択が、患者にとってのベストな治療とは何かを考える助けになるとも応えていました。

現役の理学療法士や学生にとっても、継続教育は避けて通れないテーマです。教授はその選択について、「ただ学べばいいわけではない」と言います。

提供される研修やコースが、医療の必要性や社会のニーズに合致しているのか。それを考えるのはとても重要です。

例えば、技術の向上だけを目的にした教育は、短期的には役立つかもしれません。しかし、それが患者の自立や社会全体の健康に貢献しているかどうかは別問題です。

選ぶべき教育のポイントとして教授が挙げたのは、「自分の価値観と、社会が求めるニーズとの整合性

「私はどのような理学療法士になりたいのか?」「それは社会全体の健康向上に貢献できるものなのか?」

広い視野を持つジェネラリストを目指して

理学療法士には幅広いスキルを持つジェネラリストとしての役割が求められている、と教授は語ります。学士課程では、さまざまな患者に対応できる基礎を築くことが重視されていますが、それに加えて専門的なスキルを身に付けることで、より深い介入が可能になります。

特に注目すべきは、教授が強調する「患者に自立を促す」という考え方です。治療を受ける側から、自分自身で健康を管理できる側へとシフトする。このプロセスを支えるのが理学療法士の役割であり、そこには治療の始まりと終わりが明確に存在すると教授は述べています。

理学療法士として考え続けることの大切さ

インタビューの最後に、教授は次のように締めくくりました。

どのコースを選ぶべきか、どのような治療を行うべきか。それを考えるのは終わりのないプロセスです。新しい視点を持ち続け、社会の変化に対応できるようにならなければなりません。

理学療法士としてのキャリアを歩む上で、継続的に学ぶこと、そして自分の価値観と向き合い続けること。それが、患者や社会全体にとっての最善の結果をもたらすきっかけになるんだと。

ひきこまれながら、読み上げました。そして、「それじゃあ、自分はどうか?」とフィードバック。

ノルウェーのヘルスハウスで働く私ですが、まさにジェネラリストのような多角的で包括的な視点は患者さんと向き合う上でかかせません。高齢者の方は様々な人生経験、そして疾患や病気などを患った過去など、股関節骨折が原因で入院したとしても、アナトミーや整形の専門知識やガイドラインのみでリハビリテーションを進めていくことはまずありません。

主診断と並行して考慮すべき他の疾患、その長い人生とともに積み重なった行動思考パターンや価値観、医療への考え方やトレーニングに対するモチベーションへの本当の意味での理解、突然状態悪化での対応や、急性期〜亜急性期〜回復期の行き来がとても頻繁に起こります。

自分だけの専門知識では限界があると認識した私は、そこから「リハビリテーション・連携・リーダーシップ」の継続教育を2020年から2年間受けました。

リビリテーションとはいったいなんなのか、多職種連携とは簡単に築けるものなのか、良いリーダーとはなんなのか?

そのようなテーマを多職種メンバーで継続教育を通して臨床を続けながら、大学でもアカデミックに深めていくことで、理学療法士として私はどうヘルスハウスで働いていこうかの方向性、その議論の深め方を少しずつ理解できるようになった気がします。

長くなりました。世界の何処かの皆さんのお役に立てれば幸いです。

原文はこちら

https://www.fysioterapeuten.no/etterutdanning-fysioterapeut-fysioterapeuter/fysioterapeuter-ma-vaere-tilpasningsdyktige-og-kunne-handtere-usikkerhet/157024




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