【ボクシング】2戦連続ドローの木村。丁寧さと荒々しさの狭間に迷う
☆1月25日/タイ・バンコク・スペースプラス
WBAインターナショナル・フライ級王座決定戦10回戦
△木村 翔(花形)
△ウラン・トロハツ(中国)
引き分け0-1(93対97、95対95、95対95)
いずれもが相手に主導権を渡さなかったという言い方もできるが、裏を返せば両者ともにペースを自らに手繰り寄せられなかったとも言える。そもそも、試合を支配し、コントロールしようという戦い方をどちらも端からする気がなかったようにしか見えなかった。
ぐいぐいと距離を詰めていくのが木村。それをいなしながら返していくのがトロハツ。基本的に、こういう展開が10ラウンドに渡って形成された。見栄えとしては、攻めているように見える木村が良い。しかし、かといって思うように攻撃を仕掛けられていたかと言えば、疑問符が付く。そこは木村も陣営も同様に、フラストレーションを抱えていたはずだ。
かつて代名詞のようになっていた迫力あるスイングはほぼ皆無。ジムを移籍し、ストレート系ブローをコンパクトに打つこと、丁寧に戦うことを意識して取り組んできた形跡は充分に窺える。だが、そのほとんどはトロハツのガード上を叩き、時折放つスイングはあっさりと空を切らされる。左を上下に散らし、右ストレートでボディを狙い、距離を詰めては左の上下連打。このボディブローはいちばん効果的に見えたものの、トロハツのブロックに阻まれて、なかなかクリーンヒットを奪えなかった。
一方のトロハツ。木村を捌けていたかといえば、そうともいえないが、木村の打ち終わりにジャブを浅く当て、木村の左ガードの外から右をねじ込むシーンは何度か見せた。肩や頭で木村を押し込むずる賢さもあった。けれどもはっきりとポイントや主導権を取れてはいなかった。
ともに「打つ」「守る」、これがくっきりと二分されており、その隙間を埋めていくような戦法が見えなかったゆえ、はっきりとしたポイントも、もっとも大切なペースも奪えなかった。ジャッジ1者は中差をつけたものの、ドローが妥当な試合だった。
木村のボクシングについて言及したい。
かつてはスイング系ブローでボクシング全体を構成していた。それは、一見荒々しくハチャメチャに見えたものの、相手には脅威以外の何物でもなかった。というのも、一撃一撃に魂がこもり、空振りさせてもガードで防いだとしても「まともに喰らったら……」という恐怖心を与えていたからだ。
そういう精神的圧迫を植えつけた上で、いきなりショートストレート、アッパーが飛んでくる。これで相手を混乱に陥れ、ふたたびスイングで締めていたものだ。
けれど現在は、ボクシングの上手さは手に入れつつあるものの、丁寧なボクシングで相手を凌駕できず、スイングも迷いを窺わせるものだから、相手に怖さを与えられていない。木村本来の持ち味が薄らいでしまったようにしか思えない。そもそも、ロープを背負ってガードを固める相手をあっさり逃してしまう──こんな姿はありえなかった。
スタミナなんて考えず、空振りもいとわず(わざと空振りさせてもいた)、後先かまわぬ猛連打で攻めまくる。それが木村翔だったはずだ。
《YouTube『Highland Boxing Promotions』チャンネル・ライブ視聴》
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暁視GYOSHI【ボクシング批評・考察】
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