【ボクシング】兄・優大はWBC。弟・銀次朗はIBF。重岡兄弟そろってKOでミニマム級暫定王座獲得
☆4月16日/東京・国立代々木競技場第二体育館
IBF世界ミニマム級暫定王座決定戦12回戦
○重岡銀次朗(ワタナベ)4位
●レネ・マーク・クアルト(フィリピン)3位
KO9回2分55秒
真正面からただただ相手を殴りにいく。ヒートアップした展開で始まったさなか、ワンツーを合わされて、初回に初のダウンを食った銀次朗は、これで取り乱すことはなかったものの、圧力を跳ね返そうと躍起になって振り回すクアルトに、その後も合わせた“殴り合い”に応じてしまった。
頭が当たることも再三で、2ラウンドにはクアルトがダウン。中村勝彦レフェリーが、この試合で導入されたイエローカード提示→映像チェック(6ラウンドにもう1度あった)を試みて、バッティングによるスリップダウンと確認された。クアルトはこのときに左頬をカット。これはその後、腫れもともなって、彼の集中力を削ぐ形ともなった。
どちらが先に当てるか。そんな一発勝負的な流れの中で、銀次朗がキーパンチとしてピックアップしたのが左ボディブローだった。これに手応えを感じ取った銀次朗は、3ラウンドに入るとようやくクールダウン。兄弟でほぼ同じリズムを刻む小さな上下動のフットワークを使い始めると、突き動かされるように右ジャブも出始めた。
このジャブは、実に特徴的だ。スピード、キレも充分。威力もケタ外れ。そしてタイミングも文句なし。相手にダメージを与えることも、間合いを測ることも、前進を止めることもできる。他の選手ならば、何種類かを使い分けて打つのだが、銀次朗のジャブは、ひとつですべてを兼ねてしまうもの。そこになおかつ、オーソドックスの相手の場合、相手の左腕を利用する“隠し技”を持っている。クアルトが左腕を前に出せば、その腕に隠すような位置に置き、中を突き通したかと思えば、外から被せてフック気味に打つこともできるのだ。
このトリックに気づき、左腕を引っ込めれば、銀次朗はさらに威力ある左ストレートを顔面へ、同じタイミングと軌道から左アッパーをボディへ打ち抜く。前の手のやり取りで左の戦力をもがれたクアルトは、銀次朗のボディアッパーが怖くて右も打ち出せなくなる。いずれも、間合いの長いところから、腰を引きながら振り回すスイングに頼らざるをえなくなる。
唯一怖かったのは、入り際や打ちこんでいったときの右アッパーだったが、この日の銀次朗は、3ラウンド以降、ボディを効かせながらも決して深追いをせず、きちんと距離をキープして、リターンやスイングをかわしていた。右を意識させれば左上下、左を意識させれば右。回を追うごとにクアルトはダメージを蓄積させ、ジリ貧になっていった。
ボディを食って棒立ちになること再三、7ラウンドに1度、9ラウンドに2度、いずれもボディブローでダウンを喫したクアルトは、通算3度目ではカウントアウトされたものの、粘りに粘って諦めなかったところは元王者の意地だった。
これまでの戦いではパワーパンチばかりが際立っていたが、あの特殊な右ジャブを、この大舞台で随所に光らせたことが大きい。キャリアの中でもっとも苦戦した試合だったろうが、長いラウンドを重ねることで、本人の手応えもどんどん増していったように感じた。
☆4月16日/東京・国立代々木競技場第二体育館
WBC世界ミニマム級暫定王座決定戦12回戦
○重岡 優大(ワタナベ)3位
●ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)7位
KO7回25秒
サウスポー同士。対照的なスタイルを持つ両者の戦いは、4ラウンドまではどちらとも言えない展開だったように思う。優大サイドからすれば圧をかけている、メンデス側は軽打を当てて空回りさせている、そんな思惑だったろう。
実際に、前に出ているのは優大だったが、左スイングは警戒心こそ強く芽生えさせていたものの、空振りが多かった。強いパンチを打ちこもうと、動きも止まり気味。リズムも取れず、当然右ジャブも出ない。メンデスはパラパラと打ちこんで触り、優大が打てば即クリンチ。これにイライラした表情を浮かべるシーンも何度もあり、そのまま心を乱されることがもっとも懸念された。
しかし、4ラウンド終了後に発表されたスコア(1者が39対37で優大、2者が38対38のイーブン)が両者に心の変化をもたらした。優大は、圧をかけるベースはそのままに、より冷静にボクシングを作ること。メンデスは、どうポイントを取っていけばよいか迷いが生じた。そんな気がする。
迫力ある左オーバーハンドは、当てるでなく頭を下げさせるために使う。そこへ、得意の右フック、アッパーを打ちこむ。また、銀次朗同様、上下ステップでリズムを刻み、右ジャブを出していく。強い単打を打つことに憑りつかれていた優大の体は、これでようやく血の巡りが良くなったようだ。
5ラウンド、右ボディアッパーを意識させたところでの左は、体を逃がす癖のあるメンデスの顔面を追いかける形となって捕らえ、尻もちを着かせた。
7ラウンド開始早々、右を差して左。メンデスはおそらく顔面へのオーバーハンドを意識したのだろう。が、優大はフックをメンデスのボディの右サイドへ持っていった。叩きつけるではなく、弾くようにレバーを打ったそれは、予想以上のダメージを与えた。キャンバスに落ちたメンデスに、10カウントが数えられる。
銀次朗同様に、右ジャブ、あるいはフットワークがもう一方を呼び覚まし、体全体にリズムを与え、潤滑油となる。さらに、パターン化して読まれてしまっていた左が、まったくわからないものに変貌する。その大切さを、優大はあらためて認識したはずだ。
そして、相手のテンポに合わせるのでなく、ジャブ&ステップで自らの速いテンポを取り戻し、スローなメンデスを置き去りにした。自分本位に振る舞う、その重要度も感じ取ったことだろう。
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暁視GYOSHI【ボクシング批評・考察】
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