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雑用と思っていた発送。この大切な作業の喪失感こそがいちばん大きい

 さて、“ひとまず”“とりあえず”“(仮)”などと、ああだこうだと修飾語を付随させて「これ、最後じゃないからね」をアピールしてきた『ボクシング・マガジン8月号』の編集作業が終わった。上記の修飾語を「最終号」という言葉の前後に付けたのは、現実逃避の意味合いも多少あるのだが、主たる目的は別にある。それは追々お伝えするとして、編集部の仕事は本ができて終わり、じゃない。取材を受けてくれた選手、関係者、お世話になっている方々、あとは“特権”として世界チャンピオンに、出来た本を毎月贈呈するという作業だ(※その他は、総務経由で外注されていて、そちらから発送)。

 要は発送作業。かつてに比べれば、格段にやりやすくなったが、それでもひとりで作業するとなると、数時間はかかる。他の編集部を見ていてもそうだし、当編集部もそうなのだが、この“雑用”は、“下の者”が何となくやることになっている。いわゆる“暗黙”ってやつ。ボクシング編集部ももっと人数がいるときは数人でやって楽だったけど、いつの間にかどんどん“人減らし”が始まって、とうとう1人でやる状態になってしまった。
 でも、この“下の者がやる”というシステムがどうにも不思議でならず、何度かぶつかった。だって、みんなでやってしまえばすぐ終わるから。でも、それを全然理解してもらえない時代が長く続いた。

 誰とは言わないが、かつての編集長(15年でトータル6人に仕えた)なんて、たった1人の住所をわざわざプリントアウトしてきて、「これ、送っといて」って。いやいや、そんなん、オレに頼みに来る(なぜかその編集長だけ別のフロアに席があった)前に自分でやったほうが早いやん!って笑っちゃったけど。いつしか、「ああ、これをオレにやらせることで、優越感に浸ってるんだな」って解釈するようになったけど。

 発送を手伝ってくれたのは、最後の編集長、藤木邦昭さんだけだ。藤木さんは、かつて別の部署で「1人編集部」を経験しているから、発送の大変さがわかってるんだと思う。ミヤちゃん(宮崎正博)は……。手伝ってくれる気はあるんだけど、テープで封をするのが苦手らしい(笑)。だから、「本を詰めるから、あんたテープで止めて」って。1度やってみたけど、もうずーっとこの作業をやってきた身としては、一連の動作がひとつになっていてリズムがあり、工程の1個でも抜けるほうがやりづらいのだ。だから、手伝ってもらったにもかかわらず、かえって時間がかかってしまった。なので、「いや、もうこっちでやりますから」ってことになった。実質、取り上げる形となってしまったが、でも、ミヤちゃん、作業する気はいまだにあるらしい(笑)。

“一応”最後の発送作業。これがまた、感慨深かったな。国内、海外も含めて毎月150通前後を送っているが、宛名の名前を見ながら、いつも以上に頭を垂れながら1冊1冊詰めていった。
 しかし……。とんでもないオチが待っていた。基本的にヤマトDM便で送っているが、そのシールの総務からの発注ミス(?)だったのか、バーコードが元から入っているものに、さらにバーコードを上から印字してしまっていたという失態。集荷の方にやり直しを命じられて、藤木さんと一緒にシールを貼り直すということに……。
 その当日に集荷してもらえるかという不安(もらえないと、届く日が遅れる)と、後楽園ホールの試合に行かねばならない(そんな日に限って、開始時間が早い)という焦りと。イライラを鎮めるために、「最後の最後にこれっスか!」って藤木さんと笑ってしまったが、藤木さんが手伝ってくれなければ、どっちも間に合わなかった。

 取材とか編集作業は今後、形が変わったとしても同じことをできるけれど、発送は「本」でなきゃできない。そう考えると、エレベーターフロアの集荷場に、A4封筒を山のように積み終えたときがいちばん切なくなったかな……。

 発送は決して雑用なんかじゃない。大事な編集作業のひとつだ。その喪失感は、いまの自分にしかわからないかもしれない。そしてこの発送が、大切なコミュニティ・ツールでもあったことに途中から気がついた。

「届きました。ありがとう!」って必ずLINEをくれたKさん、Mさん、画像付きで連絡をくれたMさん。メールで近況も交えながらお礼をいただいたTさん。こっちの作業の大変さを理解して労ってくれていたKくん。「どもども」って相変わらずちょっぴり照れながら電話をくれたYくん。ボクシング好きの養護学校の生徒との交流を深められたと毎月喜んでいたMちゃん。いの一番にお礼をくれた上、SNSで告知までしてくださったTさん。
 こうやってイニシャルにすると、KとMとTばかりで何だかわからないけど(笑)、みなさん毎月連絡をくださってありがとうございました! その言葉ひとつだけで、本を作ってきた全作業の苦労が報われた気になりました。発送はなくなってしまうけれど、これからもいつでも連絡してきてくださいね。


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