選手名の「読み方」「表記」を考える【ボクシングコラム】
外国選手名は“基本”母国読みにしたがう
昨日(現地26日=日本時間27日)、プエルトリコ・サンフアンで初防衛を果たしたWBO世界ミニマム級チャンピオンOscar Collazo。谷口将隆(ワタナベ)を倒したメルビン・ジェルサレム(フィリピン)を棄権に追い込んだ無敗の王者で、同階級に馴染み深い日本のメディアとしてマークする選手でもあるが、個人的に別の点で気になる存在でもあった。「名前の読み方」である。
これまで「オスカー・コラゾ」、「オスカル・コラソ」、「コラーゾ」、「コリャーソ」、「コリャソ」と、登場するメディアによって様々に表記されてきたのは知る人ぞ知る。英語読みをすれば「オスカー・コラーゾ」だろうが、プエルトリコはスペイン語圏。基本的にスペイン語はローマ字読みだから日本人のわれわれにとっては読みやすいはずで、「Oscar」は「オスカル」で間違いない。が、「Collazo」の「LLA」となると事情は少々変わってくる。「リャ」も「ジャ」も「ヤ」まで発生してくる事案なのである。だから、DAZNでライブ配信される中継を注視した。いや、リングアナウンサーたちの読み方にも注聴したのだ。
結果は……というか、あくまでも私の耳だが、はっきりと「コヤーソ」と聞こえた。実況では「コヤソ」に近かったから、リングアナ氏の「ー(音引き)」は、興奮を誘う“盛り”なのだろう。日本でいえば、「井上尚弥」の「いのうえ~、なお~や~」の「~」と同じと解釈。というわけで、これからは「オスカル・コヤソ」と書いていくことにする。
「統一表記」の事情とプロモーター発表
それにしても、外国人選手の表記、読み方はややこしい。この問題は古くからずっと続くもので、あの「Muhammad Ali」でさえも「モハメド・アリ」と「ムハマド・アリ」と統一されていない状況。おそらく“現地読み”ならば「ムハマド」or「ムハマッド」と後者採用なのだろうが、前者「モハメド」のほうが日本では広く浸透している。この顕著な例は「Marvin Hagler」で、現地や本人に従えば「ヘイグラー」だろうが、もはやそう読む人も書く者もいない。国内では「ハグラー」一択。日本を一歩出たら、まったく通じないことになるけれど。
当時の事情を知らず、これはあくまでも推測だが、「モハメド」や「ハグラー」がこれほどまでに行き渡ったのは、共同通信社と、そこに倣う各社の功績なのだろう。同社は『記者ハンドブック』を発行しており、各マスコミ、メディアはここに書かれている「表記」や「読み方」、「漢字」を遵守する。そうして“統一”がなされている。非常にありがたい「教科書」なのである。
もう一方、大切になってくるのは「プロモーター発表」である。これはおそらく“現地読み”や“本人希望”を採択していると思われる。私の記者生活の中で最初に目に留まったのは「Oscar Larios」。WBCスーパーバンタム級、フェザー級と2階級を制したメキシコ人選手だ。
メキシコはスペイン語圏。それに則れば「オスカル・ラリオス」となるが、来日した際のプロモーター発表では「オスカー」。どういう事情によってそうなったかわからないが、おそらく“本人希望”なのだろう。
記憶をたどれば、当時は“英語風”の読み方や名前の選手が出始めた頃だった。同国の「Jhonny González(ジョニー・ゴンサレス)」(WBOバンタム&WBCフェザー級チャンピオン)もそう。「カッコいいからつけた」という単純明快な理由の人もいるだろうが、「世界に羽ばたく」名前を──という親の想いもあったのかもしれない。日本でいう「キラキラネーム」に近い感覚なのかもしれない。
大切なのは「本人希望」と「オフィシャル」
「記者ハンドブック」、「プロモーター発表」。いずれにしても、“統一表記”は大切である。書き方、読み方がバラバラだと、同一人物であるかどうか混乱をきたしてしまうから。
だけれども、個人的には“現地読み”や、“本人希望”をより強く採択したい。
『記者ハンドブック』では、漢字の「旧字体」を用いないことになっている。そのため、「嶋」は「島」に、「澤」は「沢」、「髙」も「高」になってしまう。
混乱や誤りを防ぐため、1つに統一してしまうのはとても理解できる。個人的に最も迷うのが「サイトウさんのサイの字」。「斎、齋、齊、斉」と多種多用で、しかも難しく、恥ずかしながらいまだに正確な字を手書きすることができないが、そういう悩みを解消すべく、「斉」の字に統一してくれているのだと思う。が、本人にとっては大切な名前と漢字。“こだわり”という以前に、それが代々受け継がれてきたものなのだから、勝手に変えてよいものかどうかというのは常に考え、頭に置いておかねばならない。
経緯は定かでないが、「ながしま・しげお」は「長嶋茂雄」と表記され、「さわ・ほまれ」も「澤穂希」と「嶋」、「澤」の旧字を採用されている。「あれほどの大人物、それが当然」と思うかもしれないが、かつては「長島茂雄」、「沢穂希」と表記されていた。本人希望なのか団体の進言なのかわからないが、それくらい“統一表記”を変えることは大変なのである。
個人的には「プロモーター発表」同様、「登録名」を採用すべきだと思う。それには間違いなく重要書類たる戸籍や“本人希望”が含まれているはずだから。
日本のボクシング界でいえば「たつよし・じょういちろう」が有名だろう。「吉」でも「丈」でもなく「𠮷」「𠀋」の「辰𠮷𠀋一郎」だ。「とだか・ひでき」も「高」でなく「髙」の「戸髙秀樹」。「わけ・しんご」も「気」でなく「氣」の「和氣慎吾」。最近でいえば、「ひるた・みずき」は「昼田瑞希」じゃなく「晝田瑞希」だ。
国内ボクシングで「登録名」を確認する場はJBC(日本ボクシングコミッション)と各ジムということになる。いわゆる「オフィシャル」なものである。