『5・6東京ドーム速報号』
日記と称し毎日書いていたココも、一応ひととおり手を出しているSNSも、すっかりほったらかしにして2ヵ月。ようやくひと段落ついたので、牛歩脳で振り返ってみよう。
ミヤちゃんこと宮崎正博さんから声がかかり、3月中旬から本格的にスタートした『ボクシングマガジン特別編集 2024春 大展望 井上尚弥対ルイス・ネリ』(ベースボール・マガジン社)……いや、その前に『ボクシング・ビート4月号』(MACC出版、フィットネススポーツ)が入るから、実際には2月下旬からか。
島篤史編集長のご厚意により、毎月数本の記事を寄稿しているビート誌の依頼とほぼ同時に、コスミック出版の柳澤壮人氏から東京ドーム本の“さわり依頼”をいただいた(2月27日)のだった。
『ビート4月号』(3月15日発売)が終われば、今度は『マガジン特別編集号』(4月23日発売)と並行して『ビート5月号』(4月15日発売)の原稿と、作業は4月初旬から中旬まで続く。嬉しい悲鳴。この2冊のことだけでも完全に容量オーバー気味。はっきり言って、その先のことを何も考えられない状態だった。
が、月刊『ボクシング・マガジン』が休刊となった2022年7月以降、柳澤氏は何かとずっと気にかけてくれ、「ボクシングの本を一緒に作りましょう!」と折々でありがたい言葉を頂戴していたのだから、機能停止していた脳が反射的に「YES」と答えていた。
3月15日。柳澤氏と同僚の編集者、星野有治氏が揃ってわざわざ小田原くんだりまで足を運んでくれた。自宅近所のファミレスで、ざっとやりたい企画を口にして、それを基に企画書を作成してもらい、21日に大橋ジムへ3人で足を運んだ。試合直後の取材がほとんどだったにもかかわらず、大橋秀行会長は企画自体も含め、全て即決してくださり、これが号砲となった。
急激に身震いに襲われた。「責任」という文字が『スターウォーズ』のじゃがいも星のように頭の中を飛び交いまくる。だが、ひとまず目の前にあるのはビート誌とマガジン特別号。途中、もう、どっちの取材をしてるのかわからなくなるほどテンパっていたが、ここもなんとか乗り切った。
人生初の責任編集。その実質スタートは4月中旬だった。津江章二さん、宮崎さん、増田茂さん、粂川麻里生さん、南健司さん、宮田有理子さん、カメラマンの山口裕朗さんにご協力要請をし、みなさんタイトなスケジュールにもかかわらず、快諾していただいた。その他、数名のライター諸氏にもぜひ参加していただきたかったが、別の仕事等の状況を鑑みて、泣く泣く断念したことも書いておきたい。
その日はあっという間にやってきた。“その後”を思えば、ステージに立たずとも足が震えてくるような状況だったが、あの巨大空間に身を置くと、そんなことは一切忘れた。満員の野球場は毎年何度も経験してきたが、鳴り物のない人の声だけの大波、そしてこの緊迫感はボクシングだけでしか味わえないのだと別の意味で震えた。そして、個人的にもひとつ感慨深い想いがある。
『ボクシング・マガジン2013年3月号』用の企画で、井上家にお邪魔したのが同年1月30日。尚弥がプロ2戦目を終えたばかりのときだ。リビングで、真吾さん、美穂さん、尚弥を雑談風に取材していた際、「将来は東京ドームですね」とボソリ呟いてみたのだ。あのとき、顔を見合わせて「いやいや~」と苦笑いを浮かべていた3人が忘れられない。
いや、自分に“先見の明”があるのだと自慢しているわけじゃない。あれからも地道にコツコツと信念をまっすぐに歩み走ってきた、彼らの気の遠くなるような努力がここに結実した──それが凄すぎるのだ。
夢のような現実に浸っていたが、「ここからが始まりです」とキッパリと宣言した尚弥、大橋会長の言葉に目を覚まされた。
翌日の一夜明け会見、9日のスタッフ一気インタビュー、10日の“モンスター”、久須美マネージャー取材、12日の“新ヒーロー”武居由樹&“キーマン”井上浩樹電話インタビュー……。
自分で言うのもなんだけど、怒涛の取材ラッシュからの原稿で、15日午前校了。今振り返っても、よくぞまぁ、出来たもんだと思う。柳澤、星野両氏の編集力のおかげ、そして宮田さんがサポートしてくれなければ絶対に無理だった。こんなことを毎月続けてきている島編集長にはあらためて頭が下がる。ひとつ、依頼原稿をすっぽかしてしまったので、こちらもあらためて土下座したい。あと、この『速報号』でも発売前から数箇所で誤りが見つかっている。これらは全て、見落とした自分の責任です。関係各者、各所に心からお詫び申し上げます。
『速報号』という名が付いているけれど、何年、何十年経っても手に取って振り返っていただきたい1冊。ネットの記事ではなく、しっかりと形として手に残るもの──。関わってくださったみなさんそれぞれがきっと、そういう想いで携わってくれたものと思います。
インタビューしたい選手、スタッフ、まだまだたくさんやりたいこと、載せたいことはあったけど、それもこれも今回は泣く泣く断念。この辛い気持ちだけは、理解していただきたい。
全面的に取材協力をしていただいた皆様。執筆していただいたライターの皆様。尽力・奔走していただいた編集のご両名。デザイナーさんはじめ、コスミック出版の方々。このMOOKに携わっていただいた全ての方に感謝いたします。そして──
毎度、ビッグイベントを支えてくださっている方々、特に、陽の目の当たらないところで何日も昼夜寝ずに励んでいるだろうスタッフのみなさん(よく会場裏の駐車場等、人目のつかないところでほんのわずかの隙に倒れ込むようにして気絶している方をよく見かけます)に、このMOOKを捧げます。